ビリー・アイリッシュの5年間を辿る【前編】 “最も共感出来るアーティスト”の誕生から、ポップシーンの頂点に立つまで

ビリー・アイリッシュの5年間を辿る【前編】

 2021年現在、ポップアーティストとしてトップの座を手にしているビリー・アイリッシュ。先日リリースされた2ndアルバム『ハピアー・ザン・エヴァー』も全米チャート3週連続1位(本稿執筆時点)、全米・全英含む15カ国のチャートで初登場1位という大ヒットを記録しており、現在19歳という若さでありながら、その座はもはや揺るぎないものであるように思える。

 約6年前に彼女がSoundCloudに「Ocean Eyes」をアップロードした時、きっと本人もここまで絶大な成功を手にすることになるとは予測していなかっただろう。なぜなら、当時の時点で同楽曲が巻き起こした反響により、すでに彼女は手一杯になっていたのだから。

 2015年11月18日(現地時間)に公開された同楽曲は、もともと彼女のダンスの先生による「オリジナルの楽曲に合わせて振り付けをしたい」という要望に応えるため、ビリーにとって重要なクリエイティブパートナーである実兄フィニアスが自身のバンド用に作った曲を提供したことで生まれた。SoundCloudにアップしたのはあくまで先生に共有するためであり、特に他の人に聴いてもらおうという考えは全くなかったという。だが、現代における多くのブレイクアーティストと同様に、楽曲を気に入った人々が拡散、さらに様々なサイトで取り上げられたことで、アップロードしてからすぐにビリーのメールボックスは大量の問い合わせメールで溢れかえってしまった(※1)。

Billie Eilish – Ocean Eyes (Official Music Video)

 「Ocean Eyes」の反響はとどまるところを知らず、アップした翌年には大手レコード会社であるインタースコープ社と契約を結び、本格的なアーティストデビューへの道を歩み始めることになる。「Ocean Eyes」の公開からわずか9カ月で、かの『VOGUE』誌のインタビュー(記事タイトルには『ポップにおける次の”It Girl”』と書かれている)に登場するまでになったビリーだが、興味深いのは同記事における次のテキストだ。

「力強いレコード会社の後押しや、多額の資金の助けを得ることなくアーティストがブレイクすることがほとんどないこの時代において、彼女の自然発生的な人気は前代未聞のものだ(筆者訳)」(※2)

 ちょうど同時期、SoundCloudを起点にブレイクするアーティストが続々と登場するようになっていた。今ではTikTokを筆頭にソーシャルプラットフォーム上でファンダムが構築され、そしてデビューに至るという流れは全く珍しいものではない。だが、2016年当時のポップシーンではそういった存在は異例であり、ビリー・アイリッシュの登場はメディアにとっても一つの“事件”であったことが伺える。

 思えば、実兄であるフィニアスとの制作体制をはじめ、ビリーの独特で美しい歌声の魅力、そしてSNSを中心としたコミュニティ主導による支持ベースなど、「Ocean Eyes」の時点でそのスタイルはある程度完成されていたと言えるかもしれない。

Billie Eilish – Bellyache

 2017年には「Bellyache」などの先行シングルを含む初のEP作品『ドント・スマイル・アット・ミー』をリリースし、着実にアーティストとしてのキャリアを構築していく。中でも大きな出来事だったのは、まさに当時のビリーと同世代の若者を中心に絶大な人気を博していたNetflixのドラマ『13の理由』のサウンドトラックに自身の楽曲「Bored」が収録されたことだろう。ビリーは同ドラマのシーズン2にもカリードを招いた「lovely」を提供し、同楽曲は全米シングルチャート最高64位/全英シングルチャート最高47位というスマッシュヒットを記録する。その勢いはここ日本にも届き、2018年の『SUMMER SONIC』への出演も実現している。筆者はこのパフォーマンスを実際に会場で観ていたのだが、その歌声の美しさと、一方でタイラー・ザ・クリエイターやドレイクといったヒップホップアーティストからの強い影響を感じられるビートへのアプローチのギャップが極めて印象的だったこと、そして前方に集まったファンの溢れんばかりの熱量と熱狂を強く覚えている。

Billie Eilish, Khalid – lovely

 作風として大きな変化が訪れたのも2018年である。同年10月にリリースされた「when the party’s over」においては、サブベースとピアノのみというシンプルな構成に100トラック以上ものボーカルトラックを重ねるという極めて独特な音像を創り上げたのだ。幾重にも折り重なったビリーの歌声のレイヤーの衝撃的な美しさと、地を這うようなサブベースによる圧倒的な重みが同居した同楽曲は、シーン全体に衝撃を与え、来るアルバムへの期待を確固たるものにする。2019年1月には、「when the party’s over」の方向性を受け継ぎながらもインダストリアルロックからの影響を彷彿とさせるホラー的な雰囲気を持つ奇妙なポップソング「bury a friend」をリリース。同楽曲も瞬く間に話題となり、長期間に渡ってストリーミングサービスのチャート上位にランクイン、旧来のポップソングとは明らかに様子の異なるダークなヒット曲の登場に、いよいよシーン全体の注目や期待が最高潮に膨れ上がっていた。

Billie Eilish – bury a friend

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