銀杏BOYZ、先の見えない時代に唯一信じられるもの 「少年少女」に至るまで、峯田和伸が描いてきた“願いと希望”

銀杏BOYZ、峯田が描いてきた“願いと希望”

神様がいるなら何とかしてくれないか

 2021年1月6日、目に涙をためる峯田をテレビで観た。『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)で、闘病を続けるイノマーさんの最期に密着した回だ。番組内で峯田は、盟友・イノマーさんに「アルバムのレコーディングをやっている。早く聴かせたい」と口にする。そこで「いつぐらいに出せそうなの?」と尋ねられ、峯田は「来年(2020年の)2月か3月かな」と答えた後、言葉に詰まってしまう。その時期、イノマーさんは果たして生きているのかどうか。峯田のなかでさまざまな現実が駆け巡ったのだろう。彼はスウェットの襟元を引っ張り上げて泣きそうになった顔を隠した。

 イノマーさんに捧げる曲として作られ、アルバムにも入ったのが「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」だ。同曲には〈ぼくが生きるまで きみは死なないで〉という美しい一節がある。書籍『ドント・トラスト銀杏BOYZ』(玄光社/2020年)で峯田は、この歌詞について「イノマーさんが亡くなる前の寄せ書きで咄嗟に『死なないで。生きるまで』と書いた言葉をもとにした」と明かしている。

 「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」の曲の内容や、『家、ついて行ってイイですか?』の一幕は、いずれ直面する出来事を受け入れたくない心の揺らぎ、しかし向かい合わなくてはならない現実、アルバムが完成するまで何とか生きてもらいたいという願いなど、峯田のさまざまな感情が交わり合っているような気がした。特に『家、ついて行ってイイですか?』は、峯田の「神様がいるなら何とかしてくれないだろうか」という声が聞こえてきそうだった。

「少年少女」で歌われる“いま本当に信じるべきもの”

 新曲「少年少女」は、テレビアニメ『Sonny Boy』(TOKYO MXほか)のために書き下ろされた楽曲だ。このアニメは、中学3年生の主人公とそのクラスメイトたちが学校ごと異次元の世界へ飛ばされ、そこでサバイバルする姿を描いている。楳図かずおの『漂流教室』を連想する人も多いだろう(ちなみに銀杏BOYZも「漂流教室」という楽曲を2005年に発表している)。

銀杏BOYZ - 少年少女 (Music Video)

 「少年少女」にも、〈神様〉という言葉が出てくる。この曲の主人公は、アニメの物語にリンクさせる形で中学生に設定されており、思春期特有の迷いのなかで生きることになった様子を描いている。そして、その世界で味わう絶望感を〈神様はもう NOWHERE〉という歌詞で表している。神様が失われた世界だ。では、一体何を信じればいいのか。この曲では、出逢った少年と少女が手をつないで世界を歩んでいこうとする。そしてこう言うのだ、〈DON’T SAY GOODBYE〉と。

 つまり、ここで信じるべきものは「あなた」なのである。近くにいる相手かもしれないし、この先で出会う誰かかもしれない。〈今 目と目があった その瞬間から/始まるよ NEW ORDER〉と、いかにも峯田らしい歌い回しで、人と人がコネクトする重要性を表現している。

 他人と物理的な距離をとって生きるようになって、もう1年半が経つ。いつになったら、かつてのように気軽に人と出会い、触れ合えるようになるのだろうか。現状、その不安が拭える気配は一向にない。もう自分が死ぬまで、こういう時代が続くんじゃないだろうかとさえ思え、絶望的な気分に陥ってしまう。この曲のメッセージは単なる理想論なのかもしれないが、だからこそとても尊く聴こえる。

 もちろん、聴き手によって「少年少女」はさまざまな解釈ができるはず。ただ峯田は今の時代、何が大切なのかを切実に訴えているように感じられる。『ねえみんな大好きだよ』、そして「GOD SAVE THE わーるど」と合わせてぜひ聴いてみてほしい。

銀杏BOYZ『少年少女』

■リリース情報
銀杏BOYZ『少年少女』
2021年7月21日(水)発売
初回盤(7インチ紙スリーブ仕様)/通常盤:1,320円(税込)
<収録曲>
1.少年少女
2.夢で逢えたら アコースティック
3.少年少女 Instrumental

■関連サイト
銀杏BOYZ 公式ホームページ
峯田和伸 Instagram

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