これが今のKen Bandであり、Ken Yokoyamaである 最高のメロディックパンクを鳴らした『4Wheels 9Lives Tour』
例外としては、リクエストタイムに「TINY SOUL」(Hawaiian6に提供した一曲)弾き語りと、「Walk」が採用されたこと。あとは6thアルバム『Sentimental Trash』収録の「Yellow Trash Blues」が数年ぶりに披露されたことだろうか。ロカビリーとブルースを礎にしたミドルテンポのナンバー。痺れる大人のムードがあり、Kenがグレッチをシブく弾き倒せば、続くJunのベースソロが一層クールに響く。客に求めるのは拍手ではなくフィンガースナップ。ラストの手前でKenはゴッドファーザーのテーマから有名なワンフレーズを組み込んでみせる。こういう光景の一つひとつが実に粋で、どこまでも音楽的だった。あまり指摘されないことではあるが、Ken Bandはものすごく高度な音楽集団。椅子席、モッシュ&ダイブなしのスタイルだからわかることだ。
モッシュピットにマイクを投げ込み、共に歌ってくれと叫んでいた数年前。「飛沫」なんて言葉を誰も気にしなかった頃は、もちろん音楽的な話よりも肉体的発散と精神的主張が優先されていた。しかし、東名阪限定、すべて指定席のZeppツアーは、やってみれば想像以上の充実をもたらしたようだ。人前で演奏できるのが楽しい。突き詰めればその結論に尽きる。「こんな規制の中でも来てくれる人たちが一番ありがたい。勇気出るよ」とKenは後半になって素直な謝辞を述べる。そういうMCすら新しい音楽的側面のように響いていた。
メインとなる新曲は、どの曲でも大量の拳が上がる。しっかり聴き込んできた人が多いのと、アルバムの楽曲に絶対の説得力があること、その両方が理由だ。長年愛されてきたケニー節のメロディ満載で、不安要素のないハード&タイトなバンドサウンド。足りないものがひとつもない。さらに言えば、こういう歌だからこんなふうに聴いてくれとの説明もない。本日初披露の「Without You」はものすごく切ない歌だし、すでに定番となった「Helpless Romantic」も相当エモーショナルな痛みを感じさせるが、解説はいらないのだ。音楽で伝える。それはつまり、ミュージシャンとしての自信と余裕でもあるのだろう。
ずいぶんと変わるものだ。人生経験や音楽的挑戦、メンバーチェンジ、さらに体調不良やコロナ禍まで、予測不可能な偶然と必然が絡まってKen Yokoyamaは今の場所に来た。それがいいか悪いかは誰にも判断できない。ただ、ひとつ言えるのはバンドの音は今が過去最高だということ。遠慮のいらない風通しの良さ、上下関係を越えたファミリー感もある、ここまで和気藹々とした4人編成、実は今が初めてである。
最後のアンコールはごく自然に行われた。3rdアルバムから「I Love」だ。オールディーズのようなメロで始まり、サビで〈アーイ、ラッ♪〉とみんなが笑顔になる、非常にピュアなポップパンク。伝わるのは、愛してるよ、だけ。そこがなんとも今のKen Yokoyamaらしかった。言葉はいらない。というか、今はそれしか言うことないわ。愛してるよ。以上。
(※1)https://realsound.jp/2016/03/post-6759.html