ルッキズムやカテゴライズへの“違和感”をニュートラルに捉えた楽曲「いれもの」 City Cyndromeが向き合う現代の生きづらさ

City Cyndrome、“違和感”と向き合い届けた楽曲

 三浦大知などに歌詞提供する作詞家、ソングライター・MOMO“mocha”N.と、演出家・鈴木思案を中心としたプロジェクト、City Cyndrome(シティ・シンドローム)。「生きづらさを抱えるすべての現代人が向き合う、カオスな心と毎日」を軸に、力強いメッセージを乗せた楽曲を届ける。

 2021年5月に発表した1stシングル「いれもの」のテーマは、メンタルヘルスやアイデンティティ。〈この身体 実はただのいれもの カテゴライズするだけ無駄よ〉〈女という名の肩書きが無くても 繋がれる人信じたい〉など、ジェンダー論やフェミニズムで語られてきた“違和感”が、軽やかなリズムに乗せて私たちの思考を刺激してくれる。彼女たちが伝えたいこと、音楽の原体験など様々な話を聞いた。(羽佐田瑶子)

小さな頃から感じてきた「違和感」

ーー力強いメッセージとポップな楽曲は、思考を巡らせると同時に前向きな気持ちにさせてくれるものでした。お二人の結成のきっかけを教えていただけますか?

鈴木思案(以下、鈴木):私がもともと、MOMO“mocha”N.さんの楽曲のファンなんです。歌声ももちろんですが、普遍的な歌詞、新しい視点が生まれるような詞世界が魅力的で。自分の考えをニュートラルにしたい時や迷った時、事あるごとに聴いていました。

 昨年4月、緊急事態宣言が初めて発令されて、社会も異常な状態でしたけど自分自身も撮影仕事が立て続けにキャンセルになり、気持ちが落ち着かなくて。震災後に感じた空気感を思い出しました。それで、MOMOさんが震災後にフリーダウンロードという形で発表された『キボウノ唄』(mochA名義)を聴いて過ごしていました。他の新曲も聴きたいと思って探したのですが、SNSが更新される気配がなく(笑)。MOMOさんのことを知った頃は学生でしたが、今は音楽映像に関する仕事をしていることもあり、おこがましいけれど私が声をかけることで、MOMOさんが動き出す可能性があるかもしれないと、ふと思ったんです。

ーーMOMOさんの楽曲がもっと生まれてほしい、という気持ちが根幹にあったんですね。

鈴木:そうですね。MOMOさんは、私にとって心の代弁者なのでリスペクトしていて。映像を作りたい、自分の作家性を表現したい、というよりは、素晴らしい音楽がもっと生まれるように何か新しい枠組みが作れないかなと、そんな気持ちで、知人経由で声をかけました。

ーー声をかけられて、MOMOさんはいかがでしたか?

MOMO“mocha”N.(以下、MOMO):出産してから、3年ほど表立った活動はしていなかったんです。でも、これまでいろんな楽曲を共作してきたU-Key zoneくん(以下、U-Key)と新作のリリースについて話し始めていたので、すごくいいタイミングで鈴木さんが声をかけてくださって。それに、自分の音楽をずっと覚えて、求めてくれている方がいることが嬉しかったですし、実際に世に出していこうという気持ちに拍車がかかったところはあります。

鈴木:MOMOさんの楽曲は、当たり前に思っていたことを別の角度から見つめるきっかけをくれるんですよね。選択肢を増やしてくれる感覚。その言い回しがキュートだったり少し毒っ気があったり、バランス感が音楽的におもしろいと感じています。

 あとは、音に乗る必然性を感じます。今回の楽曲も「この身体はいれもの」って、音に乗るからこそ届く言い回しだと思います。

MOMO:自分の歌う歌詞は、聴く人によっては理解しにくい内容なんだろうなとは感じていて。でも、無理にわかりやすくするのは違うし。ただ、もっとメッセージが伝わる形にするにはどうしたらいいのか、漠然と悩んでいました。私も映像と音楽が合わさったときの力を信じているので、これほど曲にシンパシーを感じてくれている鈴木さんだし全面的に信頼できるなと感じました。

ーー「いれもの」は、心と身体の不一致な感覚を肯定するような視点で書かれていて、まさに新たな選択肢を増やしてくれるように思いました。どんな意識で楽曲を書いていったのでしょうか?

MOMO:漠然と、小さな頃から「違和感」みたいなものを感じながら生きていて。それらを歌詞や楽曲にすることを、ずっとやってきた気がします。最近は「違和感」をジェンダーやルッキズム、フェミニズムといった文脈で人と話せるようになり、みんなにも言葉がちゃんと届く時代の流れになったと感じています。メンタルヘルスに関しても以前よりはカジュアルに話せる空気になってきているし。「いれもの」はだいぶ前に書いた曲だったのですが、2021年の今こそ出したいと強く思いました。

鈴木:「いれもの」というタイトルを聴いた時はびっくりしました。どんな歌だろうって。MOMOさんが感じられていたルッキズムに対する世間と自分の間にある違和感を、チャーミングに表現している素晴らしい楽曲だと思いました。

 でも、映像にするのはすごく難しかったですね。楽曲の解釈を決めつけたくなかったんです。MVは答えではなく問いになっているべきで。MVはアートワークと全く違うものにすることで、一つのイメージに縛られないように意識して作りました。

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ーーMVは暗がりの中で、うさぎの被り物をしたダンサーが踊り続ける不穏な雰囲気があります。対してアートワークは、パステルカラーを基調とした柔らかい印象ですよね。

『いれもの』”Iremono” – City Cyndrome / Music Video

鈴木:全てのイメージを紐付けることで世界観は定まるけれど、今回の楽曲の場合だと「『いれもの』はこういうことを歌いました」と、答え合わせになってしまうのではと、作っているうちに気付いて。それよりも、問いかけるようにしたいなと。歌詞が充分に素晴らしいのでリリックビデオにすることも考えましたが、話し合う中で歌詞の可視化に留まらない作品を志すことにしました。MOMOさんの作品は、少し不思議さをはらんでいるところも魅力で。どこでもない世界に連れて行かれる感じがあるんです。今回の映像は、被り物という不可思議な部分を織り混ぜながら、「違和感」への葛藤と解放をダンスで表現してもらいました。

MOMO:イメージはしっかり擦り合わせられていたので、ダークすぎず、ストーリーがスッと入ってくるような映像ですよね。

負の連鎖を断ち切るきっかけを常に探している

ーーお二人個人のこともお伺いできればと思います。音楽との出会いですが、MOMOさんは幼少期ハワイに住んでいて、日常的に洋楽に触れていたんですね。

MOMO:そうですね。ラジオや街中から自然と耳に入ってくる音楽は、洋楽中心でした。当時はマイケル・ジャクソン全盛期で、個人的にはジャネット・ジャクソンやマライア・キャリー、ジャンルで言うとヒップホップもよく聴いていました。最初は英語がわからなかったので、幼いながら歌詞をただ耳コピしていました。言葉が理解できるようになってから気づいたのが、語弊があるかもしれないのですが、英語のポップスってものすごく単純なテーマを歌っていることが多いんですよね。日本に帰ってきてJ-POPに初めて触れた時、日本語の歌詞の振れ幅、表現できる世界観に感激しました。それから日本語での歌詞表現にのめり込んでいき、当時流行っていたバンドの楽曲をたくさん聴きましたね。THE YELLOW MONKEYが特に好きでした。

ーー鈴木さんの音楽的な原体験はいかがですか?

鈴木:私の原体験は、ディズニーの『ファンタジア』というセリフのほとんどないアニメーション映画です。小さな頃に何百回と見た記憶があります。そこで、セリフがなくても生理的に気持ちいいことが音楽映像の魅力の一つだと、知ったように思います。それから歌と視覚がミックスされた表現が好きになり、特にダンスをして歌う人に惹かれました。マイケル・ジャクソン、ジャネット・ジャクソン、Destiny’s Childやビヨンセですね。ジャンルでいうと、POPSとR&Bが好きでした。

ーー先ほどMOMOさんが「違和感を歌い続けてきた」とお話していましたが、今回の楽曲のテーマやプロジェクトの指針を見た時に、お二人とも社会的なことにも興味関心が強いのかなと想像していました。現在関心のあるテーマを伺えますか。

MOMO:子どもの頃から、自分自身の「多面性」について考えることが多かったです。家族、友だち、恋人、それぞれの前で自分の振る舞いが違っていて、どれも自然で嘘偽りない自分なのに、引き裂かれているような感じもあって。自分をコミュニティごとにチューニングしているようで窮屈さを感じていました。見た目や他人からのイメージで何かを制限する必要なんてないはずなのに、社会には許してもらえない感覚というんですかね。そういうものが、最近はルッキズムやフェミニズムといった言葉で語られるようになってきたと思います。

ーーコミュニティごとに自分自身をチューニングしていく感覚、というのはわかります。

MOMO:中でも表現は誰にも制限されるべきではないと思うし、肯定されなくても理解されなくてもいいんですけど、そういう感覚もあるんだーって受け入れてもらえる世界になってほしいですよね。

 たとえば、私は昔からR&Bやダンスが好きでクラブでパフォーマンスしていた時代もあったんですけど、B-GIRL風の格好が自分的にしっくりきていたわけではなく。また、アーティストとして事務所に所属していた頃は、私の歌やビジュアルイメージが「わかりにくい」「もっとわかりやすくした方がいい」と言われ続けて、自分とは乖離した方向性に指示されていくこともあって。違和感を感じる瞬間は多かったです。

鈴木:表現をわかりやすくするために、自分自身と離れたキャラクターを設定されるのはどこかで破綻がきますよね。

MOMO:だから、顔がない作品が作りたいとずっと思っていたのかもしれない。当時は、「なんでアー写がないの?」「なんでライブしないの?」と受け入れてもらえず、異例なことをしている感覚でした。ここ数年、そういう表現の仕方も当たり前になっていますよね。

ーー鈴木さんの興味関心のあるテーマはどんなことでしょうか?

鈴木:社会的な固定観念からポジティブに解放してくれる表現を、いつも探しているところがあります。自分は一時期、体重の増減がとても激しい時期があって。その時に、周りの人の目や言動の変化がどうというより、自分の中にあった、こうであってはいけないという思い込みによって、ネガティブな思考が加速していって抜け出せないことがありました。

ーー負の連鎖に巻き込まれると、どこまでも下がっていってしまいますもんね。

鈴木:そのネガティブなスイッチを断ち切る方法の一つが私はMOMOさんの歌だったんです。人が当たり前に思っている考え方を変えるのは、とてもエネルギーの要ることで、自分の中だけでなく人とぶつかり合いが起きることもあるし、必要な面もあると思います。そんな中でも、あなたの考え方は間違っている・変えた方がいいと言われるだけでなく、こんな見方もあるかもよ?と、音楽や映像含め何かに触れることを通じて、新たな考え方をポジティブに得られるようになったら、それはとても豊かな体験だと思っています。例えば、渡辺直美さんは、常にポジティブさを意識して、多くの人の価値観をアップデートしている方だと思いますし、私にとって音楽の世界ではMOMOさんの言葉がそういう存在でした。

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