『INTO THE DEEP』インタビュー
MAN WITH A MISSIONが『ゴジラvsコング』から感じたシンパシーとは? Jean-Ken Johnnyが語る、作品との共鳴
MAN WITH A MISSION(以下、MWAM)が、6月9日にニューシングル『INTO THE DEEP』をリリースした。表題にもなっている「INTO THE DEEP」は映画『ゴジラvsコング』(7月2日公開予定)の日本版主題歌に、そして「Perfect Clarity」が田中圭主演『ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~』(6月18日公開予定、以下『ヒノマルソウル』)の挿入歌という大型タイアップ曲を収録した本作は、各作品の世界と共鳴しながらも、MWAMとしての揺るぎない信念が内包されたものとなっている。
西洋のモンスターが対峙する一大エンターテインメント作品と、日本人の心に刻み込まれた歴史的瞬間の裏側を描いたドキュメントに、MWAMはどのような思いを抱いて楽曲を提供したのか。また、新たな試みとして6月末からスタートする、47都道府県のライブハウスを回るフィルムツアーについてJean-Ken Johnnyに話を聞いた。(編集部)【発言はすべて、編集部で日本語に翻訳】
(ゴジラとキングコングには)共感を超えて尊敬の念を抱いてる
ーー今回のシングルは、ビッグタイトルのタイアップ曲がずらりと並ぶ作品になりましたね。
Jean-Ken Johnny(以下、Jean-Ken):そうですね。ものすごく色のある1枚になった気がします。
ーー例えば「INTO THE DEEP」と「Perfect Clarity」の2曲とっても、映画のタイアップとはいえそれぞれベクトルが異なりますものね。特に今回は『ゴジラvsコング』と『ヒノマルソウル』という、フィクションと実話を元にした作品ですが、そういった要素は楽曲制作の際にどの程度影響を及ぼすんでしょうか?
Jean-Ken:実際、映画の中には我々と共鳴する部分が絶対にあるからオファーを受けさせていただいているものの、それによって曲自体をものすごくいじくるということはないんですけど、例えば『ゴジラvsコング』であれば、あの世界観に合うような楽曲を自分たちの引き出しの中から見つけつつ、自分たちがそちらの世界に歩み寄ったらこうなるというのがありますし、『ヒノマルソウル』であればその内省的な部分をリンクさせてエモーショナルなものに仕上げるような。アプローチが違うだけで、そこまで思いきり大きな影響を受けるということはなかったと思います。
ーーどちらの映画も本来は昨年公開予定だったものですが、となると楽曲自体はかなり前から用意していたものだったんですか?
Jean-Ken:実をいうと、どちらの楽曲もデモ段階のものがお話をいただくより前に出来上がっておりまして。「INTO THE DEEP」に関しては映画を拝見させていただいて、着手していた楽曲が間違いなく合うだろうなと思い提案させていただいたという経緯があります。『ヒノマルソウル』に関しても事前に楽曲はあったんですけど、映画を観た上で主人公の内面や心情を表すような歌詞に整える作業になりました。
ーーなるほど。「INTO THE DEEP」から詳しく伺っていきたいんですが、日本版の予告を拝見したときに映像のスピード感と「INTO THE DEEP」という楽曲が持つスピード感が見事にマッチしているなと感じました。
Jean-Ken:僕も観たときに、「これはやってやったな」という手応えを感じまして(笑)。めちゃくちゃ興奮しました。
ーー日本人にとってはゴジラというキャラクターは特に馴染み深いものですし、一方でキングコングはアメリカでは古くから親しまれるモンスターの1つです。MWAMという存在から見て、2つのキャラクターにシンパシーを感じる部分もあるんでしょうか?
Jean-Ken:すごく感じますね。2つとも圧倒的なアイコンじゃないですか。すごく変な言い方になるかもしれないですけど、どちらも国民性が色濃く出ていますよね。キングコングがどこまでも正義の象徴として描かれているところは、すごくアメリカらしいなと思って見ていますし、逆にゴジラは一見悪の象徴と捉われがちですけど、結局ゴジラを生み出しているのが核廃棄物だったりするわけで。人間の業みたいなものが思いきり集約されていて、それが好き勝手世界を破壊しているんじゃなく、まるで世界に警鐘を鳴らすために暴れているのがすごく日本らしいなと。もともとキャラが持っているストーリーの深みが圧倒的だなと思いながら両者を見ていますので、共感を超えて尊敬の念を抱いていますね。
ーーその西洋のモンスターと東洋のモンスターがぶつかり合うミクスチャー感って、MWAMの音楽性に通ずるものがあるなと思っていて。日本的な侘び寂びやJ-POP的な大衆性とアメリカならではの大らかさがミックスされて、MWAMの音楽要素の1つは成り立っていると思うので、『ゴジラvsコング』の日本版主題歌にMWAMの楽曲が選ばれたことに非常に納得がいきました。
Jean-Ken:実際、そのポイントを注視しながら曲を作っているところもありますので、うれしいですね。特に僕自身、いわゆる洋楽と呼ばれる音楽にものすごく影響を受けていますし、それにプラスαで日本から出てきたバンドとして世界に届けるときに、その要素が一番強みになると自負しています。ゴジラとコングというある意味での国際競演に自分たちの音楽が選ばれるというのはうれしい限りです。
ーーデモの段階から、中野雅之さん(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)とやりとりを進めていたんですか?
Jean-Ken:いや、最初は自分たちだけで作り上げていて。デジタルな部分とバンドの持つオーガニックさが融合したサウンドが一番MWAMの強みなんじゃないかなというのを、この10年間で再確認したところもあったので、それをより洗練したものとして打ち出す楽曲を作ってみたいなということで書いたんです。タイアップのお話をいただいたとき、もしどなたかに助力を仰ぐのであれば間違いなく中野さんだなと思って、すぐに声をかけさせていただきました。
ーータイトルの「INTO THE DEEP」ですが、なぜ「外に向けて飛び込んでいく」のではなく「深淵へ向かう」という表現を選んだのでしょう?
Jean-Ken:何かしら映画のストーリーが集約された部分を表したくて、「INTO THE DEEP」というタイトルにしたんですけど、ゴジラもコングも大怪獣じゃないですか。特に僕はゴジラのほうにフォーカスを置いたんですけど、ゴジラはダークサイドの怪獣だと捉えられているので、その闇の部分の魅力や恐怖、得体の知れない何かという抽象的なものを歌詞でも表したくて、“僕たちにも理解が及ばない、何か深いもの=DEEP”という意味を含めて選んだ表現なんです。
ーーでは、映画を観ることでその意味はより明確なものになりそうですね。もう1つの「Perfect Clarity」ですが、こちらはどのようにブラッシュアップさせていったのでしょう?
Jean-Ken:こちらも映画のテーマ自体がものすごく共感できるもので。たぶん日本の大半の方が鮮明に覚えているであろう、長野オリンピックでのスキージャンプ・ラージヒル団体金メダル獲得は感動的な場面だったと思うんですけど、『ヒノマルソウル』では実際にスポットライトを浴びている側ではない、その裏側の人々にフォーカスを当てていて、それは僕らのバンドにとっても永遠のテーマの1つと重なるものでもあったんです。物事の一番感動的な部分って表面的なところではなく、実は目に見えてない部分で起こっていることが多かったりして、胸を引き裂かれるようなドラマはそこから生まれているような気がするんですね。歌詞の大半はベースのKamikaze Boyが書いていますけど、そういう映画のテーマが反映された形で完成に至ったのではないかと思います。
ーー「INTO THE DEEP」が全編英詞なのに対し、こちらは日本語詞中心ですよね。
Jean-Ken:そこも主人公の心情というものを赤裸々に描いた歌詞を、わかりやすい形で表現した結果じゃないかと思います。
ーー「Perfect Clarity」というタイトルも、映画の題材となっているスキージャンプとつながるものがあります。
Jean-Ken:そうですね。主人公はものすごく活躍されていた選手でしたが、オリンピック代表に選ばれず、いろいろ葛藤もあったと思うんですけど、実際にテストジャンパーとして飛んだあとにすべてのしがらみを立ち切り、完全なる清らかな何かを掴んだ。その心理描写というものがタイトルに集約されているんです。
ーーこういうミディアムテンポの楽曲の場合、1曲の中でどう盛り上げていき、どこにピークを置くかなど、アレンジにおいて考えていることは?
Jean-Ken:この楽曲はJ-POPでいうところのブリッジとなるBメロがなくて、Aメロからすぐサビにいく形で、そのリフレインで構成されているんです。同じように聴こえるメロディの繰り返しでも、例えば合唱みたいなコーラスを加えたりシンセサイザーを重ねたりすることで、壮大さを感じられるアレンジになっているんじゃないかと思います。J-POPの中ではシンプルに聴こえるかもしれないですけど、手法としては古き良きアメリカ音楽の形ですよね。
ーーこの2曲の対比だけでも面白いシングルなのに、さらに3曲目にはNHK『みんなのうた』6~7月度のオンエア曲「小さきものたち」が用意されているから、さらに面白いんですよね。
Jean-Ken:ありがとうございます。MWAMは昨年結成10周年を記念したベスト盤『MAN WITH A “BEST” MISSION』を出させていただいたんですが、自分たちの歴史を振り返ると同時に、現在の立ち位置を再確認するには良いタイミングで。「ロックバンドとしてこれからどういう音楽を作ろうか?」とか「自分たちの一番の強みってなんだろう?」と考えたときに、それこそ「INTO THE DEEP」みたいにデジタルロックとバンドサウンドの融合と言いましたけど、もっと突き詰めるとトラックミュージックとしてのポップスだったり、イージーリスニングのように楽しめるロックミュージックというのは、ある意味目指すところではあるのかなと思っていて。それでいうと、この曲はまさにその象徴的な楽曲で、「ポップさをそこに投じるのであれば、どういった攻め方をしようかな?」と思いながら作っているときに『みんなのうた』のお話をいただき、それ以降は制作もかなりはかどりまして。トラックミュージックで、バンドサウンドではあるけどもイージーリスニングで、ロックの真骨頂というには語弊があるかもしれないですけど、子供でも噛み砕けるような内容で、大人でも頷けるような哲学をぶち込んだ楽曲ですね。
歌詞で歌っているテーマも古くからロックやポップスで訴えてきた世界平和であり、ありきたりだけどありったけの祈りを込めて作りました。このテーマというのは今の時代だからこそ、より赤裸々に見えてしまっているところがあって。特にインターネットの普及により、世界中の人が自分の意見を発信できるようになったことで、良くなった面と確実に害悪になっている部分があり、それによって世界というものが分断されつつあると思うんです。さらにこのコロナという疫病のせいで、そういった問題がより浮き出た世の中になってしまった気がするんですね。
そんな中で、情報があまりにも簡単に手に入れられるようになったからこそ、凝り固まった価値観というものを自分たちで作り上げてしまい、その上でただ踊っているだけなのかなと考えてしまったりもして。実はそれを解決してくれるのは、月並みですけど子どもたちじゃないかなと。子どものようにあっけらかんと物事を見るほうが、実をいうと真理が見えてくる、というのは古くから言われていることで、そこにもう一度注目したというのはありますね。だから、子どもでもわかる言葉で大人にも伝わるようなダイレクトなものが作り上げられたらいいと思い、この楽曲が生まれました。
ーー子どもの目線というフィルターを通すことで、よりシンプルに考えられるのは本当にそのとおりだと思います。
Jean-Ken:(世界平和について)ずっと世界中が議論をして、歴史上ずっと同じことを繰り返してきたと思うんですけど、たぶん一度も解決策を見つけ出せていない。それって、難しく考えすぎているからじゃないかなと。どこに答えを見出せばいいのか考えるとしたら、お子さんの知恵ではないですけど、在り方を見ればわかるんじゃないかなと思うんです。