AKB48グループ、本田仁美&矢吹奈子の復帰が起爆剤となるか 必要なのは『PRODUCE 48』モデルにした実力の可視化?

AKB48『失恋、ありがとう』Type A 通常盤
AKB48『失恋、ありがとう』Type A 通常盤

 近年、AKB48グループの今後を考察するコラムが増えている印象だ。なかでも数多いのが、グループの行く末を不安視する論調。レジェンドメンバーたちの多くが卒業したことによる世代交代。グループを象徴する絶対的なセンターや、誰もが認知する存在がいないこと。さらに新型コロナウイルスの影響によって活動の規模が広げられないこと。グループのネームバリューは依然として日本国内の女性アイドルのなかではトップ級。しかし15年以上も続けば過渡期は必ずやってくる。まさに今、グループはその壁にぶち当たっている。

 AKB48グループの現状を指摘する際に比較されるのが、世界を席巻する韓国のアイドルグループやエンタメシーンである。なぜ比較対象がそこなのか。あらためて言う必要はないかもしれないが、「韓国のアイドルグループの飛躍」はAKB48グループにとって決して他人事ではないからだ。

宮脇咲良、本田仁美、矢吹奈子が参加したIZ*ONEの大ヒット

 避けて通れない話題は、宮脇咲良、本田仁美、矢吹奈子がメンバーとして参加し、2021年4月29日にその活動を終えた日韓混成のIZ*ONEのこと。IZ*ONEのメンバーを選出するオーディション番組『PRODUCE 48』には、韓国の芸能事務所に所属する57人の練習生とともに、AKB48グループに所属するアイドル39名も送り込まれた。その後、IZ*ONEは世界31の国と地域でiTunes K-POP アルバムチャート第1位に輝くなど大活躍。同じく日韓合同オーディション番組発のグループ・NiziUの成功も含め、韓国のアイドルとエンタメシーンは、AKB48グループからすれば意識したくなる存在である。

 宮脇は6月19日をもってHKT48での活動を終えるものの、本田はAKB48、矢吹はHKT48での活動を再開。2人には「世界の頂点」に近づいた実力と実績がある。ただ、そんな彼女たちをどのように生かせるのか。2人のグループ復帰は人気復活の起爆剤になり得るが、一方で、運営の采配が大きく問われる局面でもある。

 AKB48グループが、日本国内はもとより、海外戦略も狙えるグループになるには何が必要か。これは各コラムでも必ずと言って良いほど指摘されている。歌、ダンスなどの実力面の向上と、それを後押しするシステムの見直しは課題だ。

 2018年、『PRODUCE 48』に挑戦したAKB48グループのメンバー。そこで彼女たちは韓国練習生たちに実力で圧倒されたばかりか、研究生たちが日本で基礎トレーニングも満足にできていないことが明らかに。宮脇が、7年もアイドル活動をやっていながら通用していない現実に涙を流した場面は衝撃的だった。しかも、韓国練習生のほとんどはアイドルとしてデビューしていない無名の若者ばかり。筆者は番組を観ながら、2008年北京オリンピックの野球競技で、日本代表がプロを揃えながらもマイナーリーグの選手が主体となったアメリカ代表に完敗したことを思い出した。

『PRODUCE 48』をモデルとした実力の可視化の必要性

 そういった事実を鑑みてまず重要になるのは、AKB48グループの「スクラップアンドビルド」である。現在の研究生システム、チーム編成を一旦壊し、より細かいランク分けとトレーニングプログラムを設けるのはどうだろうか。『PRODUCE 48』では、AからFの5つのクラスに分類してレッスンをおこない、次の再評価の機会であらためて各クラスへの分類がなされていく。またこのクラス内でも、歌、ダンス、表現力などの実力を加味した序列ができあがっていく。テレビ番組的な側面がありながら、しかし見た目よりも地道でハードな内容だった。

 今のAKB48グループに必要なのは実力の可視化だ。どういったトレーナーが配置されていて、そこでいかなる専門的評価がくだされ、どんな理由でメンバーが各ランクに振り分けられているのか。そこをはっきりさせることで実力面での課題も見えやすくなる。現状、AKB48グループは印象論で「このメンバーは成長した」と評価されることが多い。しかし今や、「どこが成長したのか」、「なぜ評価されたのか」というシビアな見極めが求められている。そういった体系の構築は、日本のアイドルシーンを見渡しても、巨大組織であるAKB48グループにしかできない「メリット」でもあるのだ。エンタメやビジネスとしての性質は薄らぐかもしれない。でも一方、これまでのAKB48グループは逆にエンタメ色やビジネス性に寄りすぎていて、しかもそれが成功を収めていたため旧態依然化してした可能性がある。

 AKB48グループは『選抜総選挙』などメンバーの人気面に軸を置き、グループ内で競わせるドメスティックな方向性だった。これもまたビジネスとして成立させやすかったのだろう。ただ韓国のアーティストたちを見ていると、内部争いはオーディションの段階で終えている(もちろんデビュー以降も個々のライバル関係・意識はあるが)。プロデビューした以上、闘う相手は仲間ではなく外の世界。アメリカ、ヨーロッパ、アジアのマーケットとアーティストだ。内向的なバトルの頂点を獲ることがメンバーのゴールになってはならない。根本の改善(というより発展)がAKB48グループの今後につながるように思える。むしろファンとしてはそういった展開を楽しみにしたいところだ。

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