BTS、「Butter」で体現した曲作りへのアティチュード 変幻自在ぶりを可能にするメンバーの魅力

 楽曲そのものでいえば韓国のトラックでは「K-POP」で求められる明確なパートの割り振りとドラマチックな転調、ボーカルがトラックに溶けこみやすいような「イヤホンで聴きながらビジュアルの強いMVで見ること」が優先されているようなインパクト優先の編曲の仕方をしていたり、アメリカの楽曲では癖になるようなリズムが繰り返され、メロディやサビはほとんどなく強烈なエフェクトとオートチューンでトラックに溶け込んだボーカルパートのなど「繰り返し聴いてchillりたくなる」ような心地よさ優先の音作りだったり、一方の日本の楽曲ではメロディが主体でサビもしっかり存在し、ボーカルのエフェクトは各メンバーの声の個性が聴き取れる程度の最小限に抑えられ、母音が強い日本語の歌詞を噛み締めつつ「腰をすえて歌詞カードを読みながら聴く」「カラオケで歌いたくなる」ような「J-POP」に近い楽曲を誕生させている。

 韓国でリリースしてきた楽曲だけでも、BTSはイメージ的にも楽曲的にも初期から大きな変節を繰り返してきたグループだが、それも「韓国内でアイドルに求められるもの」をその時代に応じて表現してきた結果であり、「大衆/ファンが求められる姿を表現する」こと、それに伴ってフレキシブルに姿を変えていくこと(あるいは変わらないこと)はアイドルのアイデンティティそのものでもある。BTSの最大の強みのひとつは、アーティスト的な表現欲求よりもこの「ファン/大衆から見られている姿」に敏感で素直に最優先することが出来るという点ではないだろうか。

 ここで新曲の「Butter」の全貌を見ると、どこを切っても全体的な印象を損なわない作りのトラック(大胆な転調の多い「K-POP」では切り取り部位によっては全く異なる印象になる楽曲もある)、3分以下というBGM的なラジオプレイに最適化されたような長さ、時にメンバーの声の個別化を気にしないようなボーカルエフェクトのかけ方、ラブソングのような軽さのあるこの曲が体現する「時に軽佻浮薄ともとられがちなポップさ」こそが、BTSサイドの考える「ボーイバンドの楽曲にアメリカの大衆が求めるイメージ」なのかもしれないと思えてくる。

 リリース直前に出た『Rolling Stone』でのインタビュー(※1)において、リーダーのRMはグループを「outliers(外様)」だと表現しながらも、「どうあることが男らしさだというようなラベリングは、古いコンセプトだと思う」「(自分たちのメイクや衣装は)そういうものを壊そうという意図があるわけではない。でも、自分たちがポジティブなインパクトを与えているならありがたいことだ。僕らはそういうラベリングや制限があるべきではない時代を生きているので」と発言していた。これも、ここ数年主に欧米圏で見られる「K-POPが男性的なステレオタイプを打ち破る」という言説と、それに対する韓国内からの異論まで理解した上での発言だろうと推測できるし、MV内でオーガンジーやパールをあしらった「フェミニン」ととられがちなアイテムやアクセサリー使いをしたり、「Dynamite」と比較すると明確にジェンダーレス寄りなメイクも「あえて」の表現なのかもしれない。イギリス人ではあるが、やはりボーイバンド出身のハリー・スタイルズの近年のジェンダーレスファッションが話題というのも関係していると考えられる。このように、「アメリカ国内でのイメージ」「大衆受け」「ファンの求めるもの」それぞれをミックスした曲作りというのが、「Butter」ではよりはっきりと「attitude」として表れているように感じられる。

 「変幻自在」は“アイドル”の特権だと思うが、それを可能にしているのはベースとなる「メンバー全員のキャラ立ち」でもある。個々のキャラ立ちがしっかりしていれば、例え大衆に合わせてパフォーマンスが変化していったとしても、ついてくるファンは多いだろう。その点において唯一無二の魅力を持つとも言えるBTSだからこそ、「国が変われば姿も変わる」と言えるようなフレキシブルな曲作りとパフォーマンスが可能なのかもしれない。

※1:https://www.rollingstone.com/music/music-features/new-bts-song-2021-worlds-biggest-band-1166441/

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ「サンダーエイジ」https://nenuphar.hatenablog.com/
Twitter(@djutakata)

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