でんぱ組.inc 相沢梨紗、当事者として語るアイドルシーンの変化 「今のほうがよほど戦国時代」

でんぱ組相沢が考える、アイドルシーンの変化

 成瀬瑛美が卒業し、新たなフェーズを迎えたでんぱ組.inc。2月16日に開催された『ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! ~バビュッといくよ未来にね☆~』では、成瀬瑛美の卒業とともに、新たに愛川こずえ、天沢璃人(RITO / meme tokyo.)、小鳩りあ、空野青空(ARCANA PROJECT)、高咲陽菜の加入が発表された。10人編成になったことに加え、別ユニットを兼任するメンバーも所属。突然の発表に驚きの声が上がっていた。

 2019年には古川未鈴が結婚を発表したことも記憶に新しい。「アイドルと恋愛」というテーマにはさまざまな議論が生まれているが、こうした状況での彼女の発表はアイドルとして活動する女性に新たな道を提示したようにも思えた。そして彼女はこれから出産も控えている。

 でんぱ組.incは、常に時代とともにアップデートを続けてきた。そんな彼女たちの存在は、アイドルシーンに多様な価値観を育むきっかけを作っているといえるだろう。

 リアルサウンドでは、でんぱ組.incのリーダー・相沢梨紗にインタビュー。当事者である相沢はアイドルシーンの移り変わりをどう見ているのか、そもそも相沢にとって「アイドル」の定義とは。現在の彼女の考えを聞いた。(編集部)

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【でんぱ組.inc 相沢梨紗】アイドルシーンの変化を語る「今のほうがよほど戦国時代」

“病んでいることが正義”になってしまうのはまずい

ーーでんぱ組.inc(以下、でんぱ組)を始める前、梨紗さんはアイドルにまったく興味がなかったそうで。その頃はアイドルにどういうイメージを持っていましたか?

相沢:クラスの中で飛び抜けてかわいくて元気な、リーダータイプの子がなるものだと思ってました。私は二次元オタクだったので、現実の女の子に対する憧れがまったくなかったし、むしろ「三次元はちょっと怖い」とすら感じていて。なので、アイドルは自分とは世界線の違う存在だと思ってました。

ーーそれがでんぱ組をやることになって、当初はどんな気持ちだったんでしょうか。

相沢:やり始めたときは、でんぱ組.incをアイドルグループだと思ってなかったんですよ。私は声優オタクでもあって、田村ゆかりさんや堀江由衣さん、坂本真綾さんなど、お歌を歌う女性声優さんが好きだったので、自分もそれになれると思って始めたのがでんぱ組.incだったんです。でも、やってることはアイドルじゃないですか(笑)。だから、周りから「アイドル」と言われるようになって「あ、アイドルなんだ?」ってあとあと自覚したような気がします。

ーー明確に「私はアイドルだ」と思えるようになった瞬間はあったんですか?

相沢:今でもまだその違和感が完全になくなったわけではないんですけど……あるときからでんぱ組.incファンの中に声優ファンの方が増えたんですよ。自分と同じような人たちがいるのに気がついて、もしかしたらそこに垣根はないのかもしれないと思い始めました。自分で勝手に垣根を作っていただけなんじゃないかって。

ーー当時、その垣根は世間的にもまだ強固だったかもしれません。あくまで個人的な見解ですが、そこに最初の風穴を開けたのは中川翔子さんなんじゃないかと思っていて。

相沢:確かに!

ーー中川さんはそれこそ“クラスの人気者”とは違う新たなアイドル像を示しましたし、アイドル文化とアキバ文化が両立することを証明した先駆者だと思います。このことはでんぱ組にもけっこう影響した部分があったんじゃないかと思うんですけども。

相沢:そうですね、しょこたんの影響はかなりあったと思います。のちにしょこたんと一緒にユニットをやらせていただいたとき(中川とでんぱ組.incは2015年に「しょこたん♥でんぱ組(しょこたん だいすき でんぱぐみ)」名義でシングル『PUNCH LINE!』をリリースしている)、なじみ方がすごかったんですよ(笑)。私たち同士だけじゃなく、ファンの人同士もあっという間になじんでいて。好きなものを好きだと主張し続けるパワーに惹かれ高まりあった人たちが巻き込まれていく、みたいな流れはしょこたんからあるのかなと思います。

ーーそうしたアイドル文化とアキバ文化の融合には、もちろんでんぱ組.incが寄与した部分も非常に大きかったと思います。当事者の認識としてはいかがですか?

相沢:私たちの場合、とにかく集団行動が苦手で歌もダンスもやったことがなくて、「オタク以外の人とはしゃべりたくない」みたいな子ばかりが集まっていたので、「社会生活のためのリハビリ」的に活動し始めた感じでした。そんな私たちがアイドル活動をがんばる姿を見たファンの方から「勇気をもらいました」とお手紙をもらったりするようになって、「オタクでもアイドルをやっていいんだ」と思えるようになったというか。

ーー自分たちがアイドル活動をする意味みたいなものが見えてきたと。

相沢:それこそ「W.W.D」(2013年リリースの6thシングル『W.W.D / 冬へと走りだすお!』表題曲)とかで、それまでキラキラしたステージに立つ人たちが言わなかったような心の闇を歌ったことは大きな分岐点だったと思います。最初はファンの人からも「なんでそんなこと言うの?」とか「そんなマイナスなこと言わなくても大丈夫だよ」みたいに否定的な反応もあって、自分たちも言わなくていいなら言いたくなかった。正直、めっちゃ嫌だったんですよ(笑)。でも同時に吐き出したい気持ちもあった。「W.W.D」を引っさげたツアーは特に心の面で体当たりな構成で、毎回パニックみたいな心理状態でライブをしていました。でも、今となっては本当に言ってよかったと思うし、あの曲のおかげで私たちは解放された気がします。

ーー結果として「W.W.D」はでんぱ組.incの代表曲のひとつと言えるものになり、今やアイドルが闇を歌うのも当たり前みたいな世の中になりましたよね。そこは完全にでんぱ組が切り開いた道だと思います。

相沢:でも、闇を歌うことが当たり前になって考えることもあって。でんぱ組のようにそれを歌うことで救われてくれるならいいんですけど、そうじゃない人が巻き込まれてしまうこともあるから。

ーースタイルだけが一人歩きしてしまう危険性も感じていると。

相沢:“病んでいることが正義”みたいになってしまうのはまずいなって。もしそれがうちらのせいで言いやすくなったんだとしたら、ちょっとやりすぎたのかもとは思ったりもします。

ーーただ、それをファンが求めているという側面もありますよね。実際、「W.W.D」は当初こそ否定的意見が多かったとはいえ、だんだんそこを期待するファンも増えていったでしょうし。

相沢:そうですね。その切なさや儚さに対するファンの方の「守ってあげたい」という気持ちに私たちもすごく救われたし、そこから私たちはやっと普通の人間に少しずつなれたと思います。ただ、そこには変わっていってしまうことの悲しさもたぶんあって。「W.W.D」という出発点から人間的に成長していく姿を見せなければいけないけど、成長することによってファンの方が「自分たちの手を離れてしまった」みたいに思うことも、たぶんあるじゃないですか。それでも自分たちは変わっていかなければいけない。そのジレンマが一生ついて回る職業なのかなと思いますね。

ーーアイドルに限らず、表現者にとっては求められるものと自己表現とのせめぎ合いは永遠の大命題ですしね。

相沢:求められるものに応えるばかりだと、常に“あと出し”になっちゃうんですよ。そういう自分がすごく嫌で、ある時期から「自分の心や感覚を無視していないか?」と自分に確認するようになった気がします。そうやって自分のやりたいことを「どうですか?」と提示しながら、ずっと走り続ける感じかもしれないですね。

2010年代に変化したファンとの距離感

ーーでんぱ組デビュー以降の2010年代は、アイドルシーンにおいていろいろな価値観が大きく変わっていった時期だと思います。振り返ってみて、梨紗さんにとって最も大きな変化はなんだったと思いますか?

相沢:ファンの人との距離感ですかね。SNSの普及とともに、この10年ぐらいですごく変わったなと感じています。

ーー具体的に何が変わりました?

相沢:やっぱり、距離が近くなりましたよね。我々の場合は秋葉原にお店(ライブバー「秋葉原ディアステージ」)があったので、最初から普通に芸能活動をしている人よりも近い距離でファンの人と接してましたけど、そこからでんぱ組が少し忙しくなっていって、たぶんファンの方はめちゃくちゃ寂しかったと思うんですよ。ちょうどその頃にSNSが流行り始めたことで、お店に来てくれていたお客さんたちも身近な感覚を保ちながら今の状況へ移行できたところがあると思います。SNSにはすごく助けられてきましたね。

ーー実際、アイドルとファンの距離感はそれ以前と大きく変わりましたよね。現代のアイドルにとってのファンは実体の見えない集合体ではなく、一人ひとりが田中さんであり佐藤さんであり、というふうに実体化している。

相沢:そうですね(笑)。誕生日を覚えているファンの方もたくさんいますし。

ーーそういう関係性は、梨紗さんにとって望ましい形ですか?

相沢:うーん、どうですかね。自分はけっこう、演者さんのプライベートを知らなくてもいいタイプなんですよ。コンテンツだけを供給してもらえればそれで安心できるオタクなので。逆に演者の立場からすると、SNSがあることで心ない発言とかも届きやすいじゃないですか。私の場合は知らない人に何を言われても「ふーん」て感じなんですけど(笑)、距離感が縮まっているからこそ、それを言った人を知っている場合もあるんですよね。知っている人に自分の意図とは違う解釈をされちゃうと「うーん」ってなっちゃうときもあります。

ーーSNSの存在に助けられはしたけど、ファンの顔が見えるのが必ずしもいいことばかりではないと。

相沢:ただ、最近ちょっと思ったことがあって。これだけ長いこと活動していると、ファンの人にお子さんが生まれたりもし始めてるんですよね。そういうのを見ていると、常に熱い瞬間を共有し続けるだけじゃなくて、生活の中でなんとなく寄り添っていくような形があってもいいのかなと。「あ、そういえばでんぱ組って最近どうしてるかな」みたいな。それこそ、ファンの方にはみりんちゃん(古川未鈴)が結婚して子供ができてみたいなところまで見守ってもらっているわけですし。

ーー親類のような関係性というか。

相沢:友達みたいな感じに近いのかもしれない。というか、一番しっくりくる言い方は“仲間”ですね。一緒にひとつのことを成し遂げる仲間。私はメンバーのことも友達とは思ってなくて、みんな仲間なんですよ。だから熱くなれるし、「この大きな会場をみんなで一杯にできたな!」みたいに思いあえるんだと思います。

ーーイベントなどに出演するときは、でんぱのファンじゃない人も客席にたくさん来ますよね。そういう人たちに対してはどういう思いがあります?

相沢:でんぱ組はライブを観て好きになってもらえることがとても多いので、それはそれですごく好きなんです。まだ知らない人に何かを教えるのって、オタクにとってはうれしい行為じゃないですか。そのノリで「すみません! ちょっとだけ観てもらっていいですか?」というような気持ちで出ていけてますね(笑)。

ーーライブさえ見せればこっちのものだと。その感覚って最初からありました?

相沢:いやあ、最初はなかなか……。始めたばかりの頃は、アイドル現場に行くと「オタクが来た」と言われて、アニソン現場に行くと「アイドル? 三次元は興味ない」みたいな感じで、なんとなく浮いちゃってたんですよ。そのどっちにも傷つくみたいな。でも、徐々にどちらの界隈のオタクの人たちもライブをきちんと観てくれるようになって、でんぱの現場に流れてきてくれたりしたことに一番助けられましたね。オタクが好きだと言ってくれたり、周りに薦めてくれたりするのは本当に心強いんですよ。そのあたりから私たち自身もグループで活動することの楽しさに気づき始めて、だんだん変わっていった気がします。

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