武部聡志×本間昭光が語り合う、“作曲家・筒美京平”から受け継いだもの

武部聡志×本間昭光が語る作曲家・筒美京平

筒美京平が「かなわない」と語った「上を向いて歩こう」

——筒美京平さんが残したもの、日本のポップス史における功績は、今後も語られていくと思います。お二人にとって“作曲家・筒美京平”のすごさとは?

本間:歌謡でも洋楽でもない、オリジナルの日本の音楽を生み出した方ですよね。しかもジャンルレスなんですよ。演歌寄りの曲であっても、コードがすごくお洒落だったり。そういう意味では、ミクスチャーのはしりと言えるかもしれないですね。だからと言って奇を衒ったところはなくて、歌詞、メロディ、曲の存在がしっかり残るんです。キャリアを重ねてからも、美しいメロディを生み出し続けたことも素晴らしいなと。どうしても過去のヒット曲に捉われがちだし、「こういう曲を求められてるだろうな」ということもわかる。それでもなお、ご自分の作風を更新し続けたのはすごいですよね。

——新しい音楽にも敏感だったそうですね。

武部:誰よりも新しい音楽を聴いてたよね。

本間:そうですね。たとえば「こういうサウンドにしたいんだけど」と持ってこられる曲が、聞いたこともない洋楽アーティストのB面の3曲目だったりするんですよ。もともとは洋楽のディレクターだったし、常に新しい音楽をチェックされてましたね。

武部:京平さんは天才と言われますけど、インプットの努力はすごかったですね。

本間:インプットは絶対に必要ですからね。それをどうアウトプットするか、どこに向けて、何を出すかを思いつくところは天才的なんですけど。

武部:そうだね。もう一つ印象に残っているのは、アーティストに合う洋服(楽曲)をカスタムメイドで作ると同時に、常に聴く人をイメージしていたことですね。この曲を世の中の人はどう聴くのか、どんなふうに受け止めるのかまで考えて、曲を作っていたんじゃないかなと。カッコいいもの、斬新なものを作りたいという気持ちもあったでしょうが、それよりも「この曲で勇気や希望を与えたい」ということを大事にしていたんだと思います。京平さん自身はフロントに出る方ではなかったから、アーティストを通してメッセージを発信していたというか。

本間:ずっと裏方に徹していらっしゃいましたからね。

武部:表に出ることを嫌がっていたからね。でも、食事をしているときなどは、すごく率直に話をしてくれるんです。よく覚えてるのは、「『上を向いて歩こう』にはかなわない」と言ってて。「上を向いて歩こう」は、歌謡曲、ポップスの垣根を越えて、世の中に大きな影響を与えた曲だと思うんですが、京平さんもそういう曲を目指していたのかなと。

本間:「上を向いて歩こう」は“字余り”のメロディなんですけど、「木綿のハンカチーフ」にもそういう部分があるから、もしかしたら意識していたのかも。それにしても「この曲にはかなわない」と認めることができるのは素敵ですよね。そういう気持ちは作り手にとって絶対に必要だと思うし、だからこそ昭和、平成、令和に至るまで、たくさんの人を魅了する楽曲を作り続けられたんだと思います。

武部:我々の世代はもちろん、もっと若い世代の人達が「筒美京平のメロディ、サウンドはカッコいい」と感じているのも素晴らしいですよね。いまのリスナーは、誰が歌詞を書いて、誰がアレンジしたかはあまり気にしてないと思うんですよ。「何かいい」「何かグッとくる」という感じで聴いている人が多いと思うんですが、サブスクやYouTubeなどで京平さんの楽曲をパッと聴けば、鮮やかな印象を与えるんじゃないかなと。決して懐メロではないんですよね。

本間:たとえば「さらば恋人」のオリジナルを聴けば、「カッコいい!」と思うだろうし。僕らの世代は「堺正章さんの若かりし頃の名曲」と知っているけど、今の人にとっては、そういうことは関係ないので。京平先生の曲はイントロが短いものが多くて、それも現在のサブスクに合ってますよね。2小節、4小節のイントロでパッと歌に入る構成って、今の時代にぴったりじゃないですか。

ーー確かに。できるだけ早く歌を聴かせる、サビまでの時間を短くするというのが、今の潮流ですからね。

本間:70年代、80年代はテレビの力が強かったから、イントロを短くする必要があったと思うんですよ。それから時代が回り回って、先取りしちゃったというか(笑)。

武部:(テレビからサブスクに)メディアが変わっただけでね。

本間:そうですね。イントロの美学も京平先生に教えていただいたことなんですが、それでもすごく短いので。

——「また逢う日まで」もそうですが、聴こえてきた瞬間にインパクトを残すイントロも多いですよね。

武部:今回のアルバムに収録されているものに関しては、インパクトのあるイントロはほとんど変えてるんですよ。あと、「卒業」はサビまでの時間がかなり長いので、頭にサビを持ってきたり。そうしないと原曲には越えられないし、大切なのは、その楽曲のどこを抽出するかということなので。

——『筒美京平SONG BOOK』をきっかけに、筒美さんの音楽世界に初めて触れるリスナーも多いと思います。最後に、武部さん、本間さんが実際に感じた筒美さんの人柄、人となりを教えてもらえますか?

本間:スマートでお洒落、ダンディズムをお持ちの方でしたね。打ち合わせはいつもホテルのカフェだったんですが、コンシェルジュの方に「京平先生と打ち合わせなんですが」と言うと、「こちらです」といちばん奥の決まった席に案内してくれるんです。その姿もカッコ良くて、憧れましたね。話す言葉も素敵で。

武部:接したことのある人はみんな言いますけど、知的で上品なんですよ。品みたいなものって、後から身に着けるのは難しいじゃないですか。京平さんの品性は、楽曲にも出てますよね。それは我々が魅了されるところであり、憧れる部分でもありました。いつも穏やかでしたが、仕事の現場では……笑顔でも目が笑ってないんですけどね。

本間:それはありますね(笑)。

武部:京平さんがスタジオに来るとピリッとしたからね。

本間:後ろに京平先生と松本隆先生がいて、目の間で歌入れしてるときのプレッシャーって、すごいですよ(笑)。

武部:あの感じ、今の若手にも味わってほしかったね(笑)。

『筒美京平SONG BOOK』
『筒美京平SONG BOOK』

■リリース情報
『筒美京平SONG BOOK』
CD ONLY ¥3,300(税込)
<収録楽曲>
1:LiSA 「人魚」
プロデューサー:武部聡志 / オリジナルアーティスト:NOKKO / オリジナル発売年:1994年

2:片岡健太 (sumika) 「東京ららばい」
プロデューサー:亀田誠治 / オリジナルアーティスト:中原理恵 / オリジナル発売年:1978年

3:橋本愛 「木綿のハンカチーフ」 
プロデューサー:武部聡志、本間昭光 / オリジナルアーティスト:太田裕美 / オリジナル発売年:1975年

4:アイナ・ジ・エンド 「ブルーライト・ヨコハマ」
プロデューサー:西寺郷太 / オリジナルアーティスト:いしだあゆみ / オリジナル発売年:1968年

5:生田絵梨花(乃木坂46)「卒業」
プロデューサー:武部聡志、亀田誠治 / オリジナルアーティスト:斉藤由貴 / オリジナル発売年:1985年

6:北村匠海(DISH//)「また逢う日まで」
プロデューサー:武部聡志 / オリジナルアーティスト:尾崎紀世彦 / オリジナル発売年:1971年

7:miwa 「サザエさん」
プロデューサー:本間昭光 / オリジナルアーティスト:宇野ゆう子 / オリジナル発売年:1969年

8:芹奈・かれん from Little Glee Monster 「魅せられて(エーゲ海のテーマ)」
プロデューサー:松尾潔 / オリジナルアーティスト:ジュディ・オング / オリジナル発売年:1979年

9:一青窈 「シンデレラ・ハネムーン」
プロデューサー:小西康陽 / オリジナルアーティスト:岩崎宏美 / オリジナル発売年:1978年

10:前田亘輝(TUBE)「さらば恋人」
プロデューサー:武部聡志 / オリジナルアーティスト:堺正章 / オリジナル発売年:1971年

11:JUJU 「ドラマティック・レイン」
プロデューサー:武部聡志 / オリジナルアーティスト:稲垣潤一 / オリジナル発売年:1982年

12:西川貴教 「君だけに」
プロデューサー:武部聡志 / オリジナルアーティスト:少年隊 / オリジナル発売年:1987年

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