『Duets』インタビュー
坂本真綾が明かす、デュエットの奥深さ 7人との共演から見えた“今歌いたいこと”
2020年7月に25周年記念アルバム『シングルコレクション+ アチコチ』を発表。8月にはデジタルシングル「躍動」を配信、12月にはシングル『躍動↔独白』をリリースするなど、アニバーサリーイヤーを彩る活動が続いている坂本真綾。25周年記念アルバム第2弾『Duets』は、タイトル通り、彼女にとって初めてのデュエットアルバムだ。
坂本とともに歌を奏でる相手は、和田弘樹、堂島孝平、土岐麻子、原昌和(the band apart)、内村友美(la la larks)、井上芳雄、そして、小泉今日子。デュエットアーティストからの詞曲提供のほか、坂本自身が紡いだ楽曲、TENDRE、鈴木祥子、江口亮、岩里祐穂などが手がけた楽曲も収録され、デュエットの豊かさをたっぷり味わえる作品に仕上がっている。
リアルサウンドでは、「実際にやってみて、デュエットの奥深さを感じました」という坂本に、本作『Duets』の制作についてインタビュー。その奥には、25年のなかで培ってきた歌への強い思いが宿っていた。(森朋之)
「一人ではできないこと、いつもとは違う発見がある」
ーー25周年記念アルバム第2弾は、全曲デュエットソングによる『Duets』です。楽曲の良さ、デュエットならではの歌の表現を含め、本当に素晴らしい作品だと思います。
坂本真綾(以下、坂本):ありがとうございます。私も実際にやってみて、「奥が深いな」と感じました。最初はそこまで深く考えていなかったというか、「全曲デュエットのアルバムって珍しいし、面白いかも」くらいの気持ちだったんですが、でき上がっていくにつれて「すごいアルバムになるかもしれない」と思い始めて。
ーーデュエットアルバムはもともと、坂本さんの最初のディレクターだった佐々木史朗さん(株式会社フライングドッグ代表取締役社長)の提案だったとか。
坂本:はい。ちょうど2年くらい前かな、佐々木さんが還暦を迎えたときに、その話を聞いて。そのときはあまり本気で聞いてなかったんですが(笑)、「もしデュエットするなら、どんな人と、どんな曲をやったらいいだろう?」「自分で歌詞を書くとしたら?」と考えているうちに、だんだんイメージが湧いてきて。
ーーまずは「誰と歌うか」ですよね。
坂本:そうですね。最初にお願いしたのは和田弘樹さんで。その後も、これまでご一緒したことがある方、ぜひ一緒に歌ってみたいと思う方に声をかけて、結果的に7人の方が参加してくれることになりました。
ーー真綾さんならではのラインナップですよね。
坂本:バンアパの原さんに歌ってもらおうと思う人はなかなかいないでしょうからね(笑)。皆さん本当に快く引き受けてくれて、とてもありがたかったです。すごく大きいプレゼントをいただいた気持ちですね。
ーー本当に魅力的な曲ばかりなので、1曲ずつ聞かせてください。1曲目の「Duet!」(坂本真綾×和田弘樹)は、作詞が真綾さん、作曲・編曲はh-wonder(和田弘樹の作家名)。真綾さんのデビュー曲「約束はいらない」がオープニングテーマだったアニメ『天空のエスカフローネ』で、エンディングテーマ「MYSTIC EYES」を担当していたのが和田さんでした。
坂本:和田さんはプロデューサー、作家として活躍されていて、歌手としては22年間歌っていなかったんです。「デュエットしてくれませんか」とオファーしたときは、「いやいやいやいや」という感じだったんですけど(笑)、真剣にお願いさせてもらっていたら、こちらの気持ちが届いたようで。高校生の頃から知ってくれてる方だし、「そこまで言うなら」と引き受けてくれたのかもしれないですね。しかも素晴らしい曲を書いてくださって。「こんなに明るく楽しい曲を書いてくれるなんて、和田さんも歌うのを楽しみにしてくれているのかな」とも思いました。
ーー〈本当にどうかしてる 人前で歌うなんて/君の頼みでも せっかくだけど遠慮させてもらうよ〉という和田さんの歌い出し、最高ですね。
坂本:あははは。今の和田さんが無理なく共感できて、歌えるものがいいなと思っていたんですけど、書いているうちにアルバム全体のテーマに関わるような歌になってきて。「二人で歌うというのはどういうことなのか」だったり、一人ではできないこと、いつもとは違う発見があることだったり、書いていくなかで図らずもアルバムの核になるような曲ができたのはすごく良かったですね。和田さんの存在感に引っ張られるように書いた歌詞ですが、最初のフレーズは私自身のことでもあって。ステージに上がって歌うことを25年も続けてきましたけど、いまだに「人前で歌うなんて、どうかしてる」って思うんですよ。毎回緊張するし、「どうかしてないと、こんな仕事できないでしょ」って。「大丈夫、できるよ。やろう!」って引っ張ってくれる相棒がいてくれたらどれだけラクだろうと思うし、和田さんに当て書きしてたら、私の気持ちも投影されている部分もあって。いろんな意味でドキュメンタリーな曲になりましたね。
ーー和田さんは、この曲についてどう言っていました?
坂本:照れてらっしゃいましたけど(笑)、言葉では言い表せないものがお互いにあったと思います。25年という時間を経て、肩を並べて歌うことに感慨深さも感じていましたし、いい形でレコーディングできて本当に良かったなって。和田さんも「自分にとっても意味があるものになった」と言ってくれて嬉しかったですね。
25周年なりの“大人な視点”
ーー2曲目の「あなたじゃなければ 」(坂本真綾×堂島孝平)はモータウン風のサウンドを取り入れたポップチューンで、作詞・作曲は堂島さんですね。
坂本:モータウン的なビートの曲は今までやってこなかったし、ライブで盛り上がれるような曲にしたくて。堂島さんは私が歌詞を書くと思っていたみたいですけど、私、堂島さんの書く歌詞も大好きなので、「ぜひ書いてください」と。お題がほしいと言われて「今回のアルバムのなかで、一緒にラブソングを歌えるのは堂島さんだけだな」と思って。いい年した私たちがラブラブな曲を歌ってもアレなので(笑)、「生活感があって、年相応なラブソングにしたいです」とお伝えしました。たとえば、ケンカしていても情熱的に愛し合ってるように見えるとか。
ーー確かに大人のラブソングなんだけど、堂島さんらしいポップ感もたっぷりありますね。
坂本:そうですね。デュエットソングは二人分の気持ちを書かなくちゃいけないから、すごく難しいんですよ。堂島さんも難しかったと言ってましたけど、二人の登場人物がしっかり描かれているし、「あなたじゃなければ」という言葉の意味が最後の最後でひっくり返る構成もすごいなって。ブラスアレンジも素敵だし、やっぱり天才ですね。堂島さんの音楽の一部にさせてもらった感じがして、すごく嬉しかったです。
ーーちなみに堂島さんとの交流はいつ頃から始まったんですか?
坂本:最初にお会いしたのは、2014年の「矢野フェス」(『YANO MUSIC FESTIVAL』)ですね。堂島さん、土岐麻子さんも一緒だったんですけど、私はそんなに知っている方がいなくてアウェー感がすごかったんですよ。でも、堂島さんが私のステージを褒めてくださって、「今日のMVPは真綾ちゃんだな」と言ってくれて。緊張している私を和ませつつ、励ましてくれたんだろうなって。そのときも歌詞を褒めてもらったんですけど、一昨年、KinKi Kidsの楽曲(「光の気配」)で作詞家としてオファーをくださったんです。私が何よりも一生懸命やってきた作詞というものを、こんなにも見てくれていた人がいるというのが、本当に嬉しかったですね。
ーーそして「ひとくちいかが?」(坂本真綾×土岐麻子)は、土岐さんが作詞、TENDREさんが作曲したエレクトロ系のナンバー。土岐さんの歌詞とTENDREさんのトラックのハマり具合が絶妙ですね。
坂本:土岐さんはシンガーとしてはもちろん、好きな作詞家でもあって。デュエットだけではなくて、ぜひ歌詞も書いてもらいたかったんです。TENDREさんの楽曲も以前から好きで、いつかご一緒してみたいと思っていて。まず、土岐さん、私、TENDREさんを交えてオンライン会議したんですよ。女性二人の歌にしたいというのは決まっていて、いろいろ話すなかで、「せっかくだから二人が会話しているような歌がいいですね」ということになりました。「どちらかが歌ってるときに、もう一人が相槌を打つようにコーラスが入ってくるのはどうでしょう?」とか、少しずつイメージを共有していったんですが、そのときに土岐さんから「ひとくちいかが?」というワードが出てきたんです。そのフレーズにメロディを付けるところから作っていったのが、この曲ですね。
ーー女性二人がお酒を飲んでいる場面を描いた歌詞もすごく素敵ですね。
坂本:土岐さんらしいフェミニンなところ、都会的なところも出ているし、会話になっている部分も含めて、勉強になることばかりでしたね。もちろん歌声も素晴らしくて。
ーー真綾さんにとって、シンガーとしての土岐さんの魅力とは?
坂本:いっぱりありますね。とにかく声が素敵で、お名前を認識する前から、曲を耳にするたびに「この声の人だ!」という感じで惹かれていました。矢野フェスのときに初めて生で歌う姿を見たんですが、醸し出すムードも何もかも自分にはないものばかりで「カッコいい!」と思って。別の年の矢野フェスにEPOさんが出演されていて、「DOWN TOWN」のコーラスを私と土岐さんが担当したんです。すごく嬉しかったし、その時初めて「好きです」とお伝えして、連絡先を交換してもらいました(笑)。
ーー「でも」(坂本真綾×原昌和(the band apart))も、このアルバムの聴きどころだと思います。作詞は岩里祐穂さん、作曲・編曲は原さんですが、どうして原さんに歌ってもらおうと?
坂本:声がいいんですよ。ライブでは原さんがコーラスしているので、バンアパのファンの方はご存知だと思うんですけど。私もバンアパのCDを聴いていて、「このコーラスは荒井(岳史)さんではないな。誰が歌っているんだろう?」と気になっていたんですけど、ライブで原さんが歌っているのを見て、「なるほど!」と。バンアパのなかで私が最初に知り合ったのも原さんだったし、デュエット相手としても意外でいいなと思って。原さんはあまり本気にしてなかったというか、「やれと言われればやりますが」という感じだったんですけど(笑)、イヤだとは言わなかったので、これは誘っていいヤツだなって。書いてくださった曲もすごくよくて。
ーー原さんらしいミクスチャー感覚に溢れた楽曲ですよね。岩里さんの歌詞については?
坂本:大人の世代の歌にしたいということは伝えていたんですけど、岩里さんとディレクターが盛り上がって、“若い頃に「世界を変えたい」と理想に燃えていた人のその後”みたいなテーマになったみたいで。いろんなことに燃えていた若かりし時代があって、今は淡々とした日常を生きているんだけど、ふとした瞬間に「あの時代の延長線上にいるんだな」と思って、自分に目を向けるというか。もういい大人だし、若い時と同じ熱量では生きられないけど、そんな自分を遠くから見ちゃうようなことって割とあることだと思うんですよ。
ーーデビューから25年経った今だからこそ歌える曲かも。
坂本:そうですね。〈一度かぎり 綱渡りの人生は 落ちたら終わりさ でも〉という歌詞がしっくり来てる自分にも驚きました。それだけ自分も大人になったんだなって。