ボカロP 傘村トータ、創作への原動力 ボーカロイドで紡ぎ出す物語の魅力とは

傘村トータが綴った創作への原動力

傘村トータでいられるのは、他者が自分を傘村トータと認識しているときだけ

ーー「贖罪」「15歳の主張」「靴と爪」といった楽曲からは、“対人関係”の難しさと、そのうえで“個”を尊重する姿勢を感じます。傘村さんが“自分”と“他者”の関係性・距離感について感じること、それを音楽で表現するにあたって大切にしていることをお聞かせください。

傘村:生きていく上で、他者は確実に必要なものです。でも、他者と向き合うこと以上に、自分自身と向き合うことが大切だと考えています。「自分とは何か」を考えるプロセスの中に、「他者とは何か」を考えることも組み込む、くらいの度合いというか。「自分とは何か」を考えていくと、他者について考えることは自然と増えていくと思います。自分を自分たらしめるのは、結局他者なので。

 僕が傘村トータでいられるのは、他者が僕を傘村トータと認識しているときだけです。街を歩けば、僕は傘村トータではなく、ただの人です。傘村トータを求めてくださるみなさんが、僕を傘村トータとして存在させてくれる。この感覚は、ずっと大事にしていきたいです。「自分について考えること」は、「他者について考えること」。怒りも、悲しみも、喜びも、感情の発生には全部、なんらかの形で他者が絡んでいると思っています。いきなり他者について考えようとするのではなく、まずは自分を見つめてみる。すると、自分を見るために覗き込んだ鏡は、そもそも他者によって形成されたものだった、ということが起こります。そこで初めて、他者について考えればいいのではないでしょうか。

 対人関係を音楽で表現する際に大切にしたいのは、まず片方の気持ちをしっかり描くことですね。片方をしっかり描けば、もう片方はぼんやりと見えてきます。聴いた人が、その歌の主人公は「自分と同じ」か、「自分と似ている」か、「自分と違う」か、しっかり考えられるよう、主人公の立場や気持ち・考えが、まずしっかりと伝わるように歌詞を作っているつもりです。楽曲を聴いて、それを通して「自分」と「曲の主人公」、そして「自分」と「他者」について、ゆくゆくは「生きること」について、ゆっくり考えていただければ、とても嬉しいです。

ーーアルバムの最後に置かれた楽曲「僕は夢を持ったままの子どもでいるだけ」は、傘村さんの代表曲のひとつ「僕が夢を捨てて大人になるまで」に連なるテーマ性を感じます。この楽曲に込めた想いについてお聞かせください。

傘村:「僕が夢を捨てて大人になるまで」を作ったとき、「(いわゆる将来の)夢」というものについて、色々と考えました。でも、このときはまだしっかりとした答えが出ませんでした。夢は叶うものなのか? 追っていいのか? 現実を見るべき? 諦めるのも勇気では? 断念するのはいけないことか? 追いかけるのが正義か? 後悔はしないか? どっちを選べば後悔をしないか、少なくて済むか? いつまで追う? そろそろ忘れる? 実際、忘れられるのか? 夢を叶えた人がえらいのか? 夢を叶えた人がすごいのか? 夢を諦めた人はだめな人なのか? 夢を諦めたとして、幸せになれないのか? 夢を諦めて幸せになったとして、夢を叶えて幸せになった人を羨ましいと思うことはないか?

 「で、結局、僕は夢を捨てるの? 捨てないの?」となり、当時無理やりだした答えは「まだ捨てることは選べません」というものでした。そこから時間がたち、夢を捨てずに持ち続けて大人になった僕が、結局どういう道を辿っているのか、一つの例として、形にして提示できればなと思ったのです。「僕は夢を持ったままの子どもでいるだけ」は、自分の人生について考える際の、ひとりの人間の人生サンプルとして、使っていただければ嬉しいです。

僕は夢を持ったままの子どもでいるだけ / feat. 初音ミク

ーー傘村さんはご自身が今“素敵な大人”になれていると感じますか? もし、そう感じているのであればその理由を、感じていないのであれば自分に足りないと思う部分を教えてください。

傘村:まだなれてないなあ。でも、ここですんなり「なれました」と言える人も、きっと素敵な大人にはなれていないかもしれないなと。難しいですね。でも僕に足りないのは、間違いなく「他者への思い遣り」だと思います。

ーー今後、傘村トータとしてやりたいこと、直近の目標と将来的な展望についてお聞かせください。

傘村:まずは、今まで通り曲を作りたいです。曲を作って、発表して、目印のようにして、人生に置いて歩く。振り返ったときに、曲がぽつぽつと置かれた人生が、道になって見えるといいなあと思います。

 将来的な展望……たくさん曲を作って出したいですね。1年で50曲だと、10年で500曲。あと60年生きたら3,000曲ですか? なんか微妙な数字……。せっかくこの道で生きていくのなら、10,000くらい行きたいですね! 世に10,000曲送り出す。そうしたら、一人くらい、本当に救えるのではないでしょうか。

■リリース情報
傘村トータ
『素敵な大人になる方法』
2月24日(水)発売
購入:https://link.equall.jp/tree/Tota_Kasamura
配信:https://link.equall.jp/tree/Tota_Kasamura_Streaming

【初回生産限定盤】
価格:¥3,000(税込)
品番:DUED-1283
【通常盤】
価格:¥2,500(税込)
品番:DUED-1284

<収録楽曲> ※初回・通常共通
01. LIFE
02. 僕が夢を捨てて大人になるまで
03. 15歳の主張
04. 贖罪
05. 敗走
06. 君を好きなことがバレた
07. 垂直落下
08. 小説 夏と罰 (上) 
09.あれほど欲した幸せを、手放す勇気を僕にくれ
10. 晴天を穿つ
11. 明けない夜のリリィ
12. あなたの夜が明けるまで
13. おはよう、僕の歌姫
14. おはよう、僕の歌姫 -Happy End Ver.-
15. 大切な人たちへ
16. 靴と爪
17. 僕は夢を持ったままの子どもでいるだけ

傘村トータ Twitter
傘村トータ YouTube

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