ボカロP 傘村トータ、創作への原動力 ボーカロイドで紡ぎ出す物語の魅力とは

傘村トータが綴った創作への原動力

物語を作ることは心の休息になっている

ーー「贖罪」は、傘村さんの個性の一つである複数のボカロによる合唱スタイルの楽曲になります。合唱風の楽曲というアイデアはどのように生まれたのでしょうか? 

傘村:特に合唱曲が好きというわけではなく、持っているボカロがたくさんあったので、みんなで歌ってもらったら迫力が出るのではないか! と考えてのことだった気がします。ボカロで複数人を重ねて歌わせることは、実は少し難しいのですが(調声に若干の工夫が必要)完成したものを聴くときは自分でも感動します。実は、自分では合唱に寄せているつもりはまったくなかったので、「合唱っぽい!」という意見を初めて耳にしたときは驚きました。伴奏がピアノだけである、ということも関係していると思いますが、複数人で歌う、ということの馴染みのある形が、多くの人には「合唱」になるのかもしれませんね。このスタイルは結構好きなので、もっと流行ればいいのに〜! と思います。

贖罪 / feat. VOCALOIDs

ーー「明けない夜のリリィ」「あなたの夜が明けるまで」「おはよう、僕の歌姫」の3部作は、どのような構想で生まれたのかお聞かせください。最初から物語仕立ての連作を想定して制作されたのでしょうか?

傘村:この3部作は、当初から3部作にしようと思って作ったものではありませんでした。初めにできたのは「明けない夜のリリィ」でしたが、物語のような雰囲気のこの曲を発表してしばらくしてから、「これに関連する曲を作ったら面白そうだ」とひらめいたのが、3部作へのスタートだったと思います。その際、一体感を出すために、全曲同じ伴奏で作りました。

ーー今回、新しく書き下ろされた「おはよう、僕の歌姫 -Happy End Ver.-」では、〈僕〉と〈リリィ〉の物語の新たな結末が描かれています。個人的には、リリィが〈らら、らり、るら、〉と歌うパートがまるで涙声のように表現されていて、とても感動しました。改めて今までとは別のストーリーを用意した理由、原曲とは違う結末を演出するために行った制作上の工夫についてお聞かせください。

傘村:ありがとうございます。実は、涙声の部分は、元々の「おはよう、僕の歌姫」に組み込もうとして作ったものでした。元から〈らら、らり、るら、〉の部分は、きっとリリィが泣きながら歌っているんだろうな、と思っていたので。当時相当苦労して制作し、出来上がったものを曲にはめてみたのですが、なんとまあ、これが驚くほど馴染まない。仕方なく諦めて、そっとボツにしました。

おはよう、僕の歌姫 / feat. Fukase ( & IA )

 今回、「おはよう、僕の歌姫 -Happy End Ver.-」を作るにあたって、「もう使うならここしかない!」と思い、えいやっ! と入れました。印象的な場面にできていたら、とても嬉しいです。

 別のストーリーを作った理由は、〈リリィ〉と〈僕〉の物語に、幸せな結末、つまりハッピーエンドも用意してあげたい、と思ったからでした。僕(傘村)は、普段観たり聴いたり読んだりするぶんにはハッピーエンドが大好きで、悲しい物語はあまり得意でないのですが、自分が作ろうとすると、なぜか悲しい方向に行きがちでして。「おはよう、僕の歌姫」も人によってはバッドエンドと捉えられるかもしれないくらい、悲しい終わり方をします。それを一度発表して、心の中を空にしてから、もう一度彼らと向き合ったとき、彼らを愛おしいと思うと同時に、「ああ、なんて可哀想な……」と思いました。これはこれで、自分で自信を持って好きだと言える作品ですし、納得もして作っています。でも、〈リリィ〉も〈僕〉も、きっとこの終わり方は望んでいなかったでしょう。そこで、二人に別ルートとして、幸せな結末を作りました。

 聴いてくださる方の中にも、「おはよう、僕の歌姫」のほうが好きな方、今回の「おはよう、僕の歌姫 -Happy End Ver.-」のほうが好きな方と、好みが分かれるかと思いますが、「明けない夜のリリィ」「あなたの夜が明けるまで」に続く3作目として、どうぞお好きなほうを選んで、自分の中での「明けない夜のリリィ」シリーズの結末としていただければ、と思います。

ーー今回のアルバム収録曲ですと「小説 夏と罰(上)」も連作による物語仕立ての作品ですが、傘村さんの創作活動にとって“物語”とはどのような意味合いを持っていますか? 物語自体、もしくは物語を紡ぐことの魅力、それによって得られる感情、ボカロ音楽と物語の相性などについて、お考えをお聞かせください。

傘村:僕は普段、自分の心の傷をえぐるようにして、曲を書いていることが多いのですが、それだとどうしても疲れてしまうんです。どこかに傷がないか探して、なければわざわざ作って。それをえぐって、骨が見えるところまで露出させて、その骨の白さや硬さを歌にしています。その作り方だと、結局僕が保たないんです。でも、いちいち休んでいたら、曲がなかなか出せなくなってしまう。そこで、始めから“物語”として、自分自身との距離をぐっと遠くに置いて作るようなやり方で、作品を生み出すようになりました。だから、物語を作ることは、心の休息になっていると思います。とても気楽で、楽しいです。

 ボカロ音楽と物語の相性は、非常にいいように思います! 物語というと、複数の登場人物が必要になるものが多いと思うのですが、ボカロはたくさん種類があるので、そのときどきで、印象に近いボカロを使うことが割と簡単にできます。それをリアルに人間のボーカルでやろうとすると、色々な面で難易度が跳ね上がるので。

小説 夏と罰 (上) / feat. 猫村いろは

――ちなみに、今回あえて「小説 夏と罰(下)」をアルバムに収録しなかった理由についても、もしよければお聞かせください。

傘村:「小説 夏と罰(下)」を入れなかったのは、(上)というタイトルであれば、気に入ってくれた方はきっと(下)を探してくれるのではないか、と思ったからです。ではなぜ(下)ではなく(上)を選んだか、というと、(上)の温度感がアルバムの1曲として欲しかったからでした。

ーー「君を好きなことがバレた」「あれほど欲した幸せを、手放す勇気を僕にくれ」では誰かとどうしても離れなくてはならない“別離”、逆に「垂直落下」「晴天を穿つ」では誰かをどうあっても手放したくない“共生”が描かれているように感じます。傘村さんは“別離”や“共生”、あるいは“対人関係”といったテーマに、どのような感情をお持ちですか?

傘村:出会いも別れも、誰かと共にいることも、生きる上で必要だと思います。だた、今挙げていただいた曲たちの主人公は、みんな自分勝手で、相手の気持ちを全然考えていません。エゴだらけというか。相手を思っているそぶりを見せていても、根っこのところでは、相手を思い遣ることより、自分の感情を優先してしまっています。

 僕そっくりです。本当に僕は自分勝手で、自己中な人間なので。このような生き方は、推奨されないだろうなと思います。許されたいなあ。

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