THE YELLOW MONKEY『30th Anniversary LIVE』に至る軌跡 バンドがコロナ禍で直面した葛藤と決断を追う
そして11月のライブ開催を前に、バンド側から特別なプレゼントも用意された。これが2019年12月28日のナゴヤドーム公演の映像をストリーミング配信するというものだった。もともと同ライブは商業用として表に出す予定はなかった(※のちに、2021年3月10日発売の映像作品『30th Anniversary THE YELLOW MONKEY SUPER DOME TOUR BOX』に収録されることを発表)。しかし、改めて映像を見返すとその演奏、内容の完成度が非常に高く、青木氏も「個人的には30年に1度のライブだった」と太鼓判を押すほど。4月の東京ドーム公演が延期になったこともあり、「何らかの形で世に出したい」という思いが芽生える。そこに、昨今ライブ配信が定着し始めたこともあり、9月5日に全曲ノーカット配信を決断。筆者も9月5日の20時からスタートしたこの配信をリアルタイムで鑑賞したが、改めてTHE YELLOW MONKEYのライブバンドとしての地力の高さ、エンターテイナーとしての才能豊かさを再確認し、モニターの前で普段以上に興奮してしまった。それはほかの視聴者も同様で、「早く生で観たい!」という声がSNSを通じて多数散見された。
こういったさまざまな偶然が重なり実現した『THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE』の4公演。東京ドーム公演をはじめ、すべての公演において来場者や出演者、関係者、舞台スタッフ、運営スタッフの新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)での陽性者確認、およびクラスター発生などの報告が一切なかったことが今年1月12日、正式にアナウンスされている。
青木氏に話を伺ったのは昨年9月下旬のことで、その時点でも無事に有観客でドーム公演が完遂できるのか、正直不安だった。青木氏自身もこの時点で「6月の段階で開催を決めた時点では、僕もいろんな配信ライブを見られていたわけではなかったし、その反響も感じられている段階ではなかったので、無観客でライブをするという感覚、しかもドームでそれやるという感覚が想像できなくて」と、無観客開催もゼロではないことを示唆している。しかし、「メンバーとしても初めてでしょうから、その意識がどういうものになるのかわかりませんが、ステージに立ってしまえば一緒かもしれませんし、お客さんが半分だろうが一緒かもしれませんし。いい意味で、僕はそれ以前と一緒なんじゃないかなと思っています」という言葉どおり、我々が各会場で、そしてテレビでの生中継やネット配信を通じて目にしたTHE YELLOW MONKEYのパフォーマンスは、ある意味では“それ以前と一緒”だった。ライブに臨む準備や参加する際の環境こそ大きく変わってしまったが、THE YELLOW MONKEYはTHE YELLOW MONKEYのまま。それは現在発売中のライブアルバム『Live Loud』や、まもなくリリースされる映像作品『30th Anniversary THE YELLOW MONKEY SUPER DOME TOUR BOX』での東京ドーム公演からも十分に伝わるはずだ。
2021年に入っても、コロナを取り巻く環境は日々変化を続けている。THE YELLOW MONKEYのみならず、さまざまなアーティストが現実と直面しながら、それぞれの形でライブの開催/中止/延期/配信などを決めている。THE YELLOW MONKEYやそのスタッフが選択したこの答えがすべてのアーティストに当てはまるわけではないが、開催されるまでにはいくつもの決断があったことを忘れてはならない。
■西廣智一(にしびろともかず)Twitter(@tomikyu)
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。