『君なら君しか』インタビュー
久保ユリカが語る、ソロデビュー5周年でたどり着いた“自分らしさ” 「5年経たからこそ表現できるようになった部分もある」
2016年に声優アーティストとしてソロデビューし、2021年に5周年を迎える久保ユリカがシングル『君なら君しか』をリリースした。同作には、自身の出身地である奈良にちなんだタイトルがつけられた表題曲とデビュー曲「Lovely Lovely Strawberry」のアコースティックアレンジが収録されている。
アーティストとしての自分のカラーを詰め込んだミニアルバム『VIVID VIVID』から2年、今作には5年で得たアーティスト/人としての経験や成長が反映されているという。デビューから現在まで彼女が歌手活動をどのように捉え、このタイミングに新たな作品を出すに至ったのか。声優アーティストとしての率直な気持ちを聞いた。(編集部)
2年も空いたのは自分でも意外だなと思っています
ーー2019年2月発売のミニアルバム『VIVID VIVID』からまる2年経っていることにびっくりしました。
久保ユリカ(以下、久保):そうなんですよね。そんなに経った感覚は自分的にはあまりないですし、「また新しい作品ができたら次を出していきたいね」ぐらいのテンション感だったので、2年も空いたのは自分でも意外だなと思っています(笑)。ファンの皆さんの中には「自分のペースでやってください」と温かい言葉をかけてくださる方も多いですが、動きがないと寂しいという声もゼロではないですし、でもそこで無理やり「早く何か出して!」と変に急かされることもなかったので、そういう意味では今回の『君なら君しか』は外の声を気にせずに、集中して作れたのかなと思います。
ーーご自身が納得するものを世に発表するには、今くらいのペースがやりやすいというのもあるんでしょうか?
久保:もちろん去年はあまり動けない期間ではあったと思うので、せっかく作品を作るんだったらいろいろ制限がある中で無理にやるよりは、ちゃんと時間をかけて丁寧にやりたいねとは話していて。特に前回の『VIVID VIVID』は、合うか合わないかわからないけど、やってみたかった自分の魅せ方というのを思いっきり詰め込んだ作品だったので、そこを経て同じ方向性でいくのか、それとも原点に戻るのか更に新しいことをするのかというのも話し合っていました。なので、本当にたまたま2年経っちゃったという感じもあるんです。ただ、タイミング的に2月17日発売という、1stシングル『Lovely Lovely Strawberry』を出させていただいてから5年経ったちょうど同じ日にCDを出せることになったので、そういう意味では5周年というところにちゃんとピースをはめられたから気持ちはいいですし、私もこういう話をするときにすごく伝えやすいので、結果としてバッチリだったかなと思います。
ーーなるほど。改めて『VIVID VIVID』という作品を振り返ってみたいんですが、あの作品はそれ以前のサウンドと比べるとちょっと毛色の違った作風で、かなりコンセプチュアルなものでした。
久保:『VIVID VIVID』以前の楽曲って可愛らしかったりナチュラルなイメージがすごく強かったんですけど、「自分がやってみたいことってなんだろう?」と考えたときに、自分の歌い方や声質を考えても歌って聴かせるタイプの“歌うま系”ではないよなと。じゃあ、どうやったら皆さんに楽しんでもらえて、自分も楽しめるかなと考えたときに、ライブとかMVとかCDジャケットとかそういうビジュアル込みでの魅せ方ができる楽曲を、ひとつの作品として楽しんでもらいたいなと詰め込んだのが『VIVID VIVID』だったんです。それまではずっと正面からの顔を見せていたけど、ここで新たにサイドからも見せてみようみたいな(笑)。そういう感覚ですね。
ーー年齢を重ねるにつれて表現できることの幅もどんどん広がっていくと思いますし、それによっていろいろ試してみたくなることもあると思います。それがまさに『VIVID VIVID』だったのかな、という印象を僕は受けました。
久保:確かにそうですね。それも大きいと思います。あと、『VIVID VIVID』を通して改めて気づけたことなんですけど、過去に出演した作品絡みのライブで踊ったりすることもあったんですけど、『VIVID VIVID』を携えたライブで「踊るのが楽しいな、そもそも好きなんだな」ということにも気づけたんです。
ーーもともとダンスは好きだったんですか?
久保:歌よりは踊りたいと思っていました(笑)。声優のお仕事をしていく中で、改めて「よし、私は声優として今後の人生を歩んでいくぞ!」って決心したときに、最初に感じたことが「声優さんってみんな、歌うまくない?」ってことで。それまで自分のことを歌が下手だと思ったことはなかったけど、それがかなり衝撃だったこともあって、「私、すごく下手だったんだ!」って思っちゃうぐらい自信を喪失したんです。そういう意味でも、私はジャケットのビジュアルとかそういう目で感じる要素込みで、皆さんにお届けするタイプだなと『VIVID VIVID』のときに改めて実感しました。この時まではあまり「こういう曲が歌ってみたい」とか自分の意見を伝えることをせず、与えてもらった楽曲や使命を自分なりに表現することが大切だと思っていたし、それが当然で正解だとも思っていました。
でも、ちょうど『VIVID VIVID』制作前にフリーになっていたこともあって、ポニーキャニオンのプロデューサーさん、ディレクターさんと直接たくさん話す機会ができたんです。それこそ、本当にいろんなことをあんなに話したのは、初めてに近かったんですよ。そのやりとりもあったからこそ、『VIVID VIVID』ではすごくいいステップアップができたのかなと思います。
「わからないままやっているほうが恥ずかしい」
ーーそもそも久保さんは音楽をメインでやられていた方ではないですし、デビューからしばらくは勉強の期間でもあったわけですよね。
久保:全然わからないことだらけでしたし、今もレコーディングで説明を受けても「ちょっとなんのことかわからない……」みたいな瞬間もなくはないんですけど(笑)、最近は歌ってみて「違ったらそこを指摘してほしい」と言えるようになったのはすごく大きいと思います。以前はちょっとわかったフリをしていたこともあったんですけど、それが本当になくなりましたね。「わからないことが恥ずかしい」っていうのが20代の頃の考えだったとしたら、30代に入ってからは「わからないままやっているほうが恥ずかしい」と思って。だったら素直に聞いて、思ったことを言って、それが間違っていたら「すみません、教えてください」って言える素直さが必要だなと思うんです。
ーー大人になるにつれて、わからないことを人に聞くのがより恥ずかしくなりますけど、そこはもっと素直になることが自分のためだと。
久保:そうなんですよ。そういうこともあって、今は「客観的に見てどうですか?」とか「自分はこう思うけど、そちらの立場から見たらどうですか?」ってよく聞くようになった気がします。
ーーあと、久保さんは1stアルバム『すべてが大切な出会い〜Meeting with you creates myself〜』(2017年5月発売)のあと、しばらく音楽活動をお休みしましたよね。そういう経験も、物事を客観視できるようになる良いクッションになったんじゃないかと思うんです。
久保:確かにそうですね。そのあとしばらくしてからフリーになりましたし、それこそ音楽活動のみならず声優としての仕事のやり方を見つめ直す機会にもなったと思うんです。ありがたいことに、それ以前はかなり忙しくさせてもらって、時間に追われていた部分もあったけど、本当だったらひとつの作品について100%で考えられたはずが、忙しさにかまけて80%のやり方をしていることが悔しくてストレスになっていることもありました。でも今は、どの仕事に対してもより誠実に向き合えるようになれましたし、あの期間を経たことも今となっては、またひとつ良かった時間だったのかなと思います。