YOASOBIも輩出、monogatary.comの面白さ AMAOTOら続々生まれる音楽×物語の新たな関係性
音楽から小説、MVへ……AMAOTOでの新たな試み
また、新たな試みも始まっている。これまでは“小説から音楽を生み出す”という流れが主だったが、昨年開催されたコンテスト「モノコン2020」では、音楽ユニット・AMAOTOの楽曲「終わらないLove Song ft.JUQI」にインスパイアされた小説を募集。大賞に『夕陽が裏』(著:タイライツバメ)が選ばれ、この小説をもとにしたミュージックビデオが制作されるに至った。
「終わらないLove Song ft.JUQI」は、〈2人並んだ 駅からの帰り道/一緒にいたくて ゆっくり歩いた〉というフレーズではじまる。ピアノと歌を軸にしたオーガニックなアレンジ、郷愁を誘うメロディライン、そして、今はそばにいない“あなた”を思う歌詞が一つになったミディアムバラードには、聴き手を選ばないスタンダードとしての魅力が備わっている。AMAOTOは、プロデューサー・AMANEによる音楽ユニット。その詳細は明らかにされていないが、「終わらないLove Song ft.JUQI」をきっかけに、その豊かな音楽性に注目が集まっている。今回の楽曲では、4人組ラップグループ・JABBA DA FOOTBALL CLUBのメンバーでソロでも活躍するJUQIをフィーチャリング。まさに溢れる思いが歌声で表現されたメインボーカルの合間に、哀愁漂うJUQIのラップによるストーリーテリングが挟まれることで、“もう会うことのできない大切な人への募る思い”というテーマが一層切なく響いてくる。
その中心にあるのはやはり、リスナー自身の原風景を想起させるような歌詞、そして、情緒豊かなボーカルだ。すべての人の心のなかにある大切な人との思い出と、“もう二度と会えない”という切ない思いを滲ませるリリックは、きわめてシンプルなフレーズを用いながら、“人は思い出を積み重ねることで、より豊かな人生へとたどり着ける”という普遍的なメッセージを響かせている。また、ひとつひとつの言葉に感情を込めながら、決して大げさになりすぎず、物語を手渡すように紡がれるボーカルにも強く心を打たれる。そう、「終わらないLove Song ft.JUQI」は、リスナーの趣向や時代性を超える力を最初から有しているのだ。
この楽曲をもとにした小説『夕陽が裏』は、現実とは違う世界に迷い込んだ主人公・茜が、駅で出会ったハルと生活を共にし、そのなかで生まれた心の葛藤や恋心を描いたファンタジー風のミステリー。昨年12月25日に公開されたMVでは、茜とハルが出会った駅、〈ポケットのなかで繋ぐ手と手〉など、小説と楽曲を象徴するシーンを織り込み、ノスタルジックな世界を描き出している。小説のストーリー、楽曲の雰囲気と重なるイメージを創出しているハラダミユキのイラストにも注目してほしい。
さらに「monogatary.com」では、初の試みとなる“純文学”コンテストも開催中。メジャーデビューを果たしたオルタナティブロックバンド・羊文学とのコラボによる「羊文学賞」だ。ユーザーが指定の楽曲を視聴し、そこから着想した物語を募集するこの賞もまた、”物語×音楽“の発展形と言えるだろう。物語、音楽、映像を中心に、新たなコンテンツを生み出し続けている「monogatary.com」。このプロジェクトは2021年も、日本のエンターテインメントを大いに賑わせてくれそうだ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■配信情報
AMAOTO 1st Single「終わらない LOVE SONG ft.JUQI」
主要音楽配信サービスで配信中
原作:夕陽が裏 著者:タイライツバメ
原作はこちら
■AMAOTO
プロデューサーAMANEによる正体不明の音楽ユニット。今作「終わらないLove Song ft. JUQI」は今年音楽業界最有力新人と評されたYOASOBIでのブレイクで記憶に新しいmonogatary.comが開催していた“モノコン2020”での課題曲。ジャケットはイラストレーターのハラダミユキが担当。
Instagram