デジタルシングル「もういい」インタビュー
Suspended 4th Washiyamaが語る、メッセンジャーへの自覚「共感というより、納得していただきたい」
世間を見て言いたいことが増えてきた
一一まず〈もういい〉って叫ぶところから始まりますけど、どアタマから作っていったんですか?
Washiyama:や、これはわりと曲が先で。曲、メロディができてから、どういう言葉乗せようか考えていって。最初のセクションも、もともとはただのイントロだったんですよ。
一一そうなんだ。どうやって作られたのかよくわからない構成で。
Washiyama:この曲、デモの段階とかなり違っていて。かなりミステイクみたいなのを採用してるんですね。デニス(ドラム)から録り始めるんですけど、キメとアクセントが違うな、みたいなことが多々あって。そこにベースが合わせていくと「そしたらフレーズ変えないかん」「じゃあもっとヤベェのにしよう」みたいな。その積み重ねでどんどん演奏が難しい感じになっていって。元はもっと普通にロックやろうって感じの曲だったんですよ。サビ終わりのベースソロも最初はギターソロだったし。そういうアクシデントがたくさんあってこうなったんです。
一一いつも以上に濃いし、どこを切っても音が詰まってる。
Washiyama:各々が技術を磨く時間はすごくあったんで、それをこの一曲にどれだけ投影できるかみんな考えてたと思う。それこそデニスが違う解釈をしてきたのも、新しい技を出したいから、みたいなところがあって(笑)。みんなやりたいこと詰め込んだから、今までよりわかりやすく難しい。
一一イントロがないのも初じゃないですか? 全編を歌が引っ張っていく。
Washiyama:なんか言いたいことがたくさんあったんで、歌をたくさん入れてみました。今起こってるすべてが「どうでもよくねえ?」みたいな。
一一もう少し具体的にお願いします。
Washiyama:具体的に、それこそ僕らの住んでる愛知県の知事とか。いわゆるオトナというか、自分らを管理する人たちの動きを見ても、どう考えてもナンセンスじゃないですか。それに対して何か言いたくなってる人一一まぁ自分もそうですけど、そこも含めて「もうどうでもよくねぇ?」みたいな。同時にほんとに何もできない無力さもあったし、ぶちまけても何も変わらないだろうなっていう感じもあって。でもこれ、みんな思ってるだろうなって。めちゃめちゃ何か叫んでも、あんまり何も変わらない。だったらもっと自分のテリトリーでやれることやるしかないなって、そういう感じも込めたつもりです。
一一今の話、この10年くらいで世界的に加速してると思うんですね。香港デモとかもそうだけど、力のない人間は黙るしかないというムードが確実に強まっていて。
Washiyama:あぁ、確かに。Rage Against the Machineじゃないですけど、そういうバンドが出てきてほしいなって思ってたフシもある。なんとなく、みんなが思ってることを言えるバンドになれたらいいなぁっていうのは、ここ2〜3年くらい思ってましたね。それこそ路上でサスフォーやり始めた時は「とりあえず音楽できる場所見つけたな」くらいにしか思ってなかったし、自分の歌に責任持ってたわけでもないけど。だから、ほんとここ2〜3年です。世間を見て言いたいことが増えてきた。おっさんになってきた。
一一いや、大人って言いましょう(笑)。メッセンジャーの自覚が出てきた?
Washiyama:に、なれるな、っていう感じっすね。メッセンジャー的な立ち位置になれそうだなって。別にそこまで偉そうなこと言うつもりはないけど、みんなが思ってることを世間に吐き出せたらなって思ってます。みんなの中間っていうか、みんなが思ってること。自分の言葉でありつつ、周りにいる人たちの意見の中間を狙いたい。それで全員が納得してくれるような。共感というより、納得していただきたい。歌詞に納得して、サウンドに納得してくれる奴らがお客さんになってくれたらいいなってずっと思ってる。
一一共感と、納得は、違いますか。
Washiyama:そうですね。共感って、ファーストインプレッションでわかる、みたいな感じ。納得は、多少わだかまりもある、80%同意、くらいに近いのかな。自分の中の感覚ですけど。でも納得ってワードが好きなんですね。納得する、でも微妙に反対意見もある、くらいのほうが人間って面白いじゃないですか。100%共感されても。
一一そこにあるのは、自分とあなたは違う人間だから、という枕詞。
Washiyama:そうです。ずっと言ってるんですけど、バンドロゴの入ったタオルとか掲げる行為がけっこう苦手で。バンドTシャツも俺あんまり好きじゃなくて。もちろん自分らのバンドのグッズを身に着けてくれる人、すごくありがたいんですけど、でもそれが生活の主体になってほしくない。一部であってほしいんですね。わかんないけど、多様性を求めてるのかな。全員一丸になるよりは、もっと各々のカルチャーを持った状態で来てほしいというか。
一一その感覚も今回の歌詞に入ってますね。ここまで思想をはっきり出した曲は初めてじゃないですか?
Washiyama:そうですね。この歌詞はもう思ってること全部ポロポロ出てるかもしれない。今までけっこうふざけたこと書いてたし、もっと馬鹿げたことを歌っていたかったんですけど、まぁ状況が状況だし。さっきも言ったけど、みんな怒った楽曲も出してないし。やってやろうって感じでした。
一一恰好よく言うと、2020年が作らせた曲。
Washiyama:そうです。作らされました。全然作るつもりなかったのに。あからさまに世間に対して物言いがしたいんだって自分でもびっくりしたし。やっぱり自分が関わってるバンドや音楽業界が直接影響受けてるじゃないですか。もう居ても立ってもいられない感じでしたね。
一一後半、静かになる部分で〈才能が溢れて喉の奥から湧き出てくる〉っていうフレーズがあって。これ、なかなか言えないなぁと思いましたね。
Washiyama:ほんとっすか(笑)。でも、才能持ってると自負してる奴しかアーティストやってないと思うから。意外と普通だと思いますよ。
一一みんな自負はしてても、言葉にはしないんじゃないかな。Washiyamaさんのその自信はどこから来てるんですか?
Washiyama:え? 若気の至りだと思いますよ。
一一自分で言う(笑)。
Washiyama:ほんと、誰にも負けねぇとは思ってるんで。その根拠はストリートライブから来てるのかな。それこそ12月にも路上でやったんですけど「氷点下でライブしたことあるお前? 手ぇ動かんぜ?」みたいな。そういう、環境が悪いところでもライブができることが大きな自信になってる。そこでちゃんとお客さんの足を止められるとか、アメリカで路上でいきなりやって歓声もチップもいただくとか、誰しもできることではないと思うし。それこそライブハウスだけでずっとやってる人たちには絶対できないだろうなって。そういう尖りの気持ちはあります。尖りっていうか自信か。「やってみろよ」っていうのが自分の原動力のひとつです。そういう気持ちを持ったまま頂点取りたい。
一一サスフォーの考える頂点って?
Washiyama:んー、たとえば……自分たちの演奏を完全コピーできる人間が増えてきた、みたいな状況ですかね。それで「自分たちがやれることは完全になくなってしまった、あとは俺らを超えてくれ」みたいに言える時。そういう老後みたいな生活ができるのが頂点なのかな。
一一……どこまで本気で言ってます?
Washiyama:五分五分ですけど(笑)。でも俺らがやんなくても、楽器を扱える、操れる人間がほんとにいるんだってことがわかれば安堵して辞めると思う。その一瞬が頂点なんだろうなって感じですね。めちゃくちゃ大勢の人前でやることが頂点だとは思わない。そういう意味で、自分たちの音楽をコピーしたい、真似たいっていう人がたくさん出てきたら俺らの役目は終わりかなって思ってます。
一一簡単にはできないでしょう。毎回「これくらい弾いてみろやコラ」って喧嘩売られてるような感覚になる音だし。
Washiyama:まさにそうですよ。弾いてほしい。できるなら。
一一裏には「誰にもできないだろ」って自負もある?
Washiyama:そうですね。技術以外、各々の持ち味もあるし。特に自分が出してるのは人間性だと思ってて、技術うんぬんよりも独自性、クリエイティブなところを創作物として評価されたいんですね。で、そこまで完コピできるってなると自分の人間性まで見てくれないと無理ですよね。「もういい」の歌詞にも〈誰か代わりになってくれ〉ってあるけど、自分の代わりになるくらいの人をずっと探してるのかもしれないですね。そういう意味で「弾いてみろよ」とも言ってるし、さらに言うと「代わり、出てこいよ」って言いたいところもある。
一一わかりました。今のところ「もういい」は一曲だけ異色のシングルですけど、これが今後に与える影響ってありそうですか?
Washiyama:んー、10カ月ぶりにやっと出せた新曲だし、いろんな意味で重たいので。今デニスも曲書いてくれてて、デニスの曲もまさに「もういい」みたいな不満が溜まった感じの歌詞なんですね。自分も最近書いてる曲、かなり世の中に不満があるなぁって俯瞰で見ても思うんで。そういう意味ではこれが転機になる曲かもしれないですね。
■リリース情報
配信開始日:1月20日(水)
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