森七菜、歌唱面でも惹きつける天真爛漫な魅力 ホフディランカバー「スマイル」から読み解く
先日発表されたORICON NEWSの恒例企画『2020年 ブレイク女優ランキング』で、森七菜が堂々の1位に輝いた。上白石萌音や浜辺美波らを抑えての大躍進と、上半期の同ランキングでは圏外だったところからの追い上げというから、まさにブレイクと言っていい勢いだ。決め手となったのはNHK連続テレビ小説『エール』(NHK総合)での好演と、火曜ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)で初の主演に挑戦したことだろう。前者はちょっとお固くてクールな文学少女、後者は持ち前の機転の良さでスイーツ開発に挑むフリーターと時代背景も役どころも違うが、どちらもひたむきさや芯の強さを感じさせるキャラクターだったことも好感度に表れたのではと推測する。加えて『ラストレター』『青くて痛くて脆い』『461個のおべんとう』の3本の映画に出演し、TAMA映画賞及びヨコハマ映画祭では最優秀新人賞も受賞。女優としてさらに飛躍していくためにも、申し分のない足場固めができたと見て間違いないだろう。
しかし、我々視聴者がもっともその姿を目にした作品というと、『オロナミンC』のCMだったのではないか。2020年からCMキャラクターに抜擢されて以降、これまでに4編が放送済み。内容はというと高校の生徒会長に扮した森が、放送室や屋上などさまざまなシチュエーションのなか、『オロナミンC』をグビッと飲んでおなじみのキメ台詞を発するというもの。キャッチコピーの通り、元気いっぱいで溌剌とした彼女の魅力が全編にわたって発揮され、見ているだけで清々しい気分になる。途中、転んだりバケツの水をひっくり返したりするドジっ子ぶりもポイントで、“身近な先輩”といったイメージによりリアリティを与えている。そんな彼女が映像の中で歌っているのが「スマイル」だ。
「スマイル」はワタナベイビーと小宮山雄飛からなる二人組ユニット、ホフディランが1996年にリリースしたふたりのデビュー曲。〈いつでもスマイルしようね〉というシンプルなフレーズが繰り返される中に、〈完璧なんかでいられる訳がないだろう…〉〈人間なんかそれ程キレイじゃないから〉とチクっと一刺しするような毒が忍ばせてあり、ワタナベイビーのふにゃふにゃとした独特の歌声と相まってシュールにも響く楽曲だ。それを森は、ただただまっすぐに衒いなく口ずさむことで、よりポジティブさを前面に出してみせた。がむしゃらでもなんでも、笑っていればなんとかなる! とでも言うような勢いのある歌い方も、CMの中の彼女の表情と相まってむしろ爽快。決してうまく歌おうとはしていないのに、伸びやかであっけらかんとした歌声には、まるで小学生の合唱のような素直さがある。先の見えないコロナ禍にあって、聴く人を勇気付けるようなフレーズには背中を押された人も多かったのではないだろうか。
音源化を望む声に押されてか、7月には本家のホフディランをプロデューサーに迎え、フルバージョンのカバーを配信限定でリリース。同時公開されたMVではCMのオフショットやレコーディング風景、カフェでの一コマなどくるくると変わる表情を披露し、「気取らない飾らない感じが癒される」「理想の彼女感」などのコメントを集めた。現在、再生回数は1700万回を突破。CMソングから派生した異例のヒットは、森七菜と「スマイル」との相性の良さを何よりも物語っている。