『エール』コンサートで古関裕而の名曲と名優達の歌声を堪能 吉原光夫から山崎育三郎×森山直太朗、二階堂ふみまで

『エール』コンサートで名優達の歌声を堪能

「……って今日は木曜日ですけど、明日は何するの?」

「明日はなんと特別編。人気キャスト総出演によるカーテンコールをNHKホールよりお届けしま~す!」

「見てね~!」

 豊橋の海岸から裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)がそう呼びかけた実質の最終回となる『エール』(NHK総合)第119話。「『エール』コンサート」と題された最終話は、裕一のモデルとなった昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而の名曲・9曲を15分間でバトンのように繋いでいく、さながら一足早い『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)を観ているかのようであった。

 今年3月に放送がスタートした『エール』は、新型コロナウイルスの影響から2カ月半の再放送期間を挟み、朝ドラとしては異例の8カ月にわたるオンエアとなった。けれどそんな逆境にも負けない、特に生々しく戦争の恐ろしさを描いた第18週「戦場の歌」をはじめとする後半パートは、キャスト、制作陣による、いい作品にしたいという熱い思いが伝わってくる朝ドラだった。

 「ずっと音楽は人のそばにある」ーー紀元前1万年からスタートした第1話で、そう謳われているように、『エール』という作品の中心にいつもあったのが、音楽だった。裕一が務める司会のもと歌われる9曲は選曲と人選を含め、古関裕而への敬意と視聴者に明るいエールを届けようというメッセージが伝わるものだ。

 まず、触れるべきはなんといっても岩城(吉原光夫)による「イヨマンテの夜」だろう。「度肝を抜く」というのは事前に聞いていたが、その声量には思わず笑ってしまうくらいに圧倒されてしまった。「イヨマンテの夜」は、16分音符と8分音符の2拍子系であるにも関わらずメロディは3連音符が続く、西洋音楽を学んできた裕一の“悪い癖”が出た難曲。発売当時、『NHKのど自慢』(NHK総合)でこぞって歌われたことで火がついたヒット曲だ。劇中では久志(山崎育三郎)が、先日放送された『うたコン』(NHK総合)では細川たかしが「2020 イヨマンテの夜」として歌唱していた。それほどの実力者でなければ簡単には歌えない。勇ましく鳴る銅鑼。その音にも負けない声で「アーホイヨーアー」と高らかに歌いだす吉原。主題歌「星影のエール」(GReeeeN)を出演者が歌い継ぐ「みんなでエール」にて歌声を披露はしていたものの、劇中では一度も歌唱シーンがなかったこともギャップと驚きに繋がっている。劇団四季出身として、最後の最後に吉原光夫が本領を発揮した瞬間だ。

 多くの視聴者が感動の名場面に挙げるのが、久志が甲子園のグラウンドで「栄冠は君に輝く」をアカペラで熱唱するシーンだった。夏の全国高校野球選手権大会でもお馴染みの「栄冠は君に輝く」は、古関の故郷・福島駅の新幹線ホームの発車メロディにも採用されている楽曲だ。そんな世代を超えて愛される名曲を歌い継ぐのは久志と恩師・藤堂(森山直太朗)。裕一や鉄男(中村蒼)と同じように、久志もまた藤堂に歌う喜びを教えてもらった一人。試合に勝った人も、負けた人も、その一生懸命な姿を讃える真っ直ぐで温かな「栄冠は君に輝く」は、自身も球児だった山崎が歌うからこそ今この時代に響く楽曲だ。そして、藤堂がビルマで戦死して以降に作られた楽曲を2人が歌うのは、まさに夢の共演である。アコースティックギターを爪弾きながら、ゆっくりと伸びやかに歌いだす森山直太朗の歌声も素晴らしい。ラストは主旋律を歌う山崎育三郎に、森山がコーラスを重ねていく。途中で2人が視線を合わせ、嬉しそうにはにかむ場面もある。先述した『うたコン』には山崎も出演し、久志の妻・藤丸を演じた井上希美とともに「船頭可愛や」を、そして山崎のみで「君に伝えたいこと」を披露した。この「君に伝えたいこと」は、『エール』を通して意気投合した森山が作詞・作曲を手掛けた山崎育三郎としての新曲。「藤堂が久志に贈る歌」として書かれた、大切な人との別れの歌だ。さらに、そのシングルのカップリングに収録されるのは「栄冠は君に輝く」。古関メロディは、これからも歌い継がれていく。

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