マカロニえんぴつ はっとりが語る、様々な愛を歌にする意味 「“誰かに何かを伝えたい”というのは愛あっての発想」

はっとりが語る、様々な愛を歌にする意味

 マカロニえんぴつが、メジャー1st EP『愛を知らずに魔法は使えない』をリリースする。彼らにとって、そして音楽シーンから見ても「機は熟した」というところだろうか。

 ユーモラスなようで不可思議なこのバンド名を、昨年から今年にかけて初めて耳にしたリスナーも多いかもしれない。しかし彼ら自身はインディでの活動によってこれまでに相当な数のリリースを続けており、そのサウンドのクオリティは高い。評価と注目度を少しずつ上げてきて、その扉を大きく広げるタイミングがついに訪れた、という印象を受ける。

 マカロニえんぴつの世界は基本的にポップなメロディと日本語詞、そして開かれたバンドサウンドによって成り立つ、親しみやすいものではある。しかもその音楽性の振り幅は広く多彩で、洋楽ロックへの憧憬がつねにあり、ところどころにディープな部分も存在する。その結果、どこかつかみどころがないような……いや、正確にはつかみどころが多くて、イメージ以上に仕掛け満載のバンドなのだ。歌もまた、はっとり(Vo/Gt)の声が、軽やかな響きの一方でエモーショナルな要素を多分に含んでおり、決して一筋縄でいくものはない。

 リアルサウンドで初のインタビューとなる今回は、はっとりにバンドの成り立ちからこれまでの道のり、そして創作における姿勢と最新作について聞いた。彼は何気ない質問や話題からでも、楽曲に込めた意志や感情的な話をとてもナチュラルに語ってくれた。ポップにひょうひょうと、しかし歌の中ではディープなことを歌いきる、そのクリエイティビティは破格の可能性をはらんでいると感じた。このバンドは本物だと思う。(青木優)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

楽しんでやれているスタンスを崩さず、より楽しく音楽を作っていきたい

ーー以前、僕がマカロニえんぴつをイベントで観た時に、はっとりさんは「ヘンなバンド名だと思われるかもしれませんが」と言われていて。で、自分たちのバンド名については過去に曲の中でも言及していますね。〈あの娘に勧めたいけどバンド名がな ダサすぎ〉と。

はっとり:そうですね、「トリコになれ」という曲(2019年のミニアルバム『LiKE』収録)で。

マカロニえんぴつ「トリコになれ」 MV

ーーつまりバンド名について、そういう自覚があると。

はっとり:自覚……バリバリあります(笑)。自他ともに、ということですね。今のお話で「他」も強いんだなということがわかりました(笑)。再確認できて、良かったです。

ーーただ、もともとは哲学的な理由からつけられた名前なんですよね。

はっとり:そうです。「マカロニ」の空洞が「無」を示していて、それに対して「えんぴつ」は白紙に書き進めていくものだから「有」の象徴で。僕ら的にはこの相反するふたつのものを一緒にしてしまえ、と。「無」から存在を自由に書き進めていこう、自由に音楽を作っていこう、と。型にはまらずに自分たちなりの色をどんどん描いていけたらな、と思います。だから哲学的な意味はあるんですけど、伝わりづらいというか(笑)。

ーーそこでよくあるバンド名のように「何とかズ」や「ザ・何とか」にしようとは思わなかったですか?

はっとり:それは……候補にはなかったですね。「何とかズ」は、まあパンクバンドとかだったらサマになるんだけど。そもそも「マカロニえんぴつ」とつけてる時点で、そういうこだわりはないですね。「何とかクラブ」なら良かったかな。カッコいいじゃないですか? ちょっとおしゃれで。

ーーそのぐらいジャンルではない、それこそ型にはまらない音楽を目指してたということですね。

はっとり:そうですね。僕のカッコいいと思うバンド像はユニコーンなので、「型にはまらずに、いろんなジャンルをやるバンドになりたいな」という憧れはずっとありました。でもインディーデビューしてからしばらくは四つ打ちの曲が多かったです。フェスブームに乗じたサウンドになっていた気がします。そう考えると今のほうが自由かもしれないですね。曲調については。

ーーでは結成にあたり、はっとりさんはそういう自由な音楽性を具現化できそうな人たちに声をかけたわけですか?

はっとり:いや~、全然もう、手当たり次第という感じだったんですよ。実は演奏を見ないで誘ってるんです。音楽を専門に学ぶ大学のロック&ポップスコースに入学したんですけど、見た目がいかつい同級生が意外と多くて、話しかけるのに気が引けたというか(笑)、怖かったんですね。だからちょっと地味目な連中に声をかけたという。断らなそうな……自分に近い人間を選んでたのかもしれないですね。友達が少なそうな、と言ったらあれですけど。

ーー(笑)はっとりさん自身がそうなんですね。

はっとり:そうそう、ひとりでいるような感じの(笑)。そしたら「やるよ」と言ってくれて。先にドラムから誘って、次にベース(高野賢也)。で、ギターのよっちゃん(田辺由明)は、当時はかけもちでサポートという形だったかな。鍵盤は、最初はサポートを先輩にお願いしてたんですけど、あとで長谷川(大喜)に声をかけて。彼だけエレクトーンのコースで、新潟の大会で1位になるくらいの実力だったんですけど、そこで入団テストじゃないけど、練習室に呼んで。だから彼だけ加入する前に演奏を見てますね(笑)。

ーーそうしてメンバーを選んだご自身の目利きはどうだったと思います?

はっとり:うん、いいメンバーを誘ったとは、今でもすごく思いますよ。途中でドラマーが抜けてちょっとガタついたんですけど、ほかのメンバーの参加意識がグッと高まって、曲を作るようになってきたんですよね。そこから「あっ、いい曲を書くじゃないか」みたいに僕が刺激を受けたりして。だから運が良かったなと思います。

マカロニえんぴつ はっとり(写真=堀内彩香)

ーーメンバー各人が曲を書くのは、先ほどのユニコーンがそうですよね。

はっとり:ああ、そうですね。まあ歌ってくれれば、もっといいんですけどね(笑)。ゆくゆくは。

ーー今度のEPでも「ルート16」を長谷川さんが作曲していますね。

はっとり:モータウンチックな、16(ビート)がきいた曲で。この曲は僕、好きですね。これは彼のデモから形を変えてないです。最初からこの雰囲気で、アレンジも派手にせず。はい。

ーーで、マカロニえんぴつは最初にCDを出してから5年が経っていて、今回からメジャーからのリリースになるんですが、それにあたって何か特別な思いはありますか?

はっとり:もちろんメジャーは、バンドを組んでいる人にとっては憧れの舞台だと思うし、「やっと来れたな」という達成感はあります。これまでも、インディーズではあるけどすごくいろんな人に出会えたし、かなりいい経験をたくさんさせてもらったので、この楽しんでやれているスタンスを崩さず、より楽しく音楽を作っていきたいです。じゃなければメジャーでやる意味がないと思うし、トイズファクトリーはバンドのそういう思いを理解してくれているので、ワクワクしていますね。「これからまた、さらに楽しくなるんじゃないかな」って。

ーーバンドのオフィシャルの動画ではメジャーに行くことについて「チームを大きくしていくイメージ」「バンドもいい変わり方をしていく」ということを言われてましたね。

はっとり:そうですね。入口を広げるというか、出会えてない人のほうが多いわけですから、出会いをもっとたくさん増やしていきたいです。チームというのは、スタッフ陣もそうだけども、相変わらず「好きでいてくれる人をゆっくりでいいから増やしていければな」ということです。最初から「全年齢対象ポップスロックバンド」と謳っていたので、より多くの人に、より広い世代に、という思いは変わらずにありますね。最近はより幅広い世代に聴いてもらえるようになってきたので、これからさらに頑張りどころかな、と思ってます。

マカロニえんぴつからメジャーリリースのお知らせ

ーーでは今、バンドは「いい変わり方」をしていけている気はします?

はっとり:しますね。今回のEPも「最新作にして最高のものができたな」と思ってるんですよ。毎回それは思うんですけど、レコーディングはどんどん楽しくなるし……それは恵まれた環境の中でやれてるからだと思います。期待もしてもらえてるし、だからこそそれに応えようと、僕だけじゃなくてバンドみんなが思えてるから。だけど、そこまで気負わずに、楽しむことを忘れずにいれていることは大事かもしれない。今回の作品には、まっとうなロックソングもあれば、ふんだんな仕掛けを1曲に詰め込んだプログレッシブな曲もあるし。この表情がアルバムごとにもっと変わっていけたらいいですね。これから先、フルアルバムサイズでも。

マカロニえんぴつ はっとり(写真=堀内彩香)

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