TikTok発、おさるのうた「セイカツ」注目度が上昇中 多くの共感集める音楽の力

 TikTokなどのSNSをきっかけにヒットへ繋がるアーティストや楽曲が増えてきている。この潮流は、2020年の音楽シーンを語る上での最大のトピックだろう。なかでも代表的なのは瑛人「香水」だ。〈君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ〉というサビのメロディとリリックは一度聴いたら忘れられない。多くの人の心を掴み、プロからアマチュアまで多くのミュージシャンがカバーを行い、それがSNSに投稿されて自然発生的に大きなムーブメントになった。今ではカラオケでも定番曲だ。

 それに続くようにりりあ。「浮気されたけどまだ好きって曲。」や、もさを。「ぎゅっと」がTikTokをきっかけにバズり、瑛人と同様に多くのカバー動画がネット上に投稿されている。テレビやラジオ、雑誌などをきっかけに飛躍するアーティストが多かった今までとは違い、新しいヒットの形が生まれたのだ。そんな「新しい音楽シーン」の中で最も注目度が上昇しているのが、おさるのうたである。

 おさるのうたは現役高校2年生のシンガーソングライター。これ以上に詳しいプロフィールは明かされていないし、顔出しもしていない。無名で謎が多いシンガーソングライターだが、昨年12月にTikTokにオリジナル曲を投稿してから、少しずつ知名度と人気を上げて行った。特に「セイカツ」は話題になり、YouTubeに投稿された弾き語り動画は470万回再生、TikTokでは1,500万回再生(10月11日時点)を超えている。SNSユーザーによるカバー動画や二次創作動画は4万作品を超えている。無名のシンガーソングライターが音楽の力だけで評価され、多くの人の心を動かしたのだ。

セイカツ/おさるのうた (Full)

 SNS発のヒット曲は弾き語りであったり素朴でシンプルなアレンジの楽曲であることが多い。シンプルなアレンジだからこそ気軽にカバーしてSNSにユーザーが投稿したいと思うのだ。例えば瑛人もシンプルなギターの弾き語りだ。複雑で音数が多い編曲が中心である日本のヒット曲においては異質である。おさるのうたも弾き語りで素朴な演奏と歌声。歌唱も技術的にテクニカルなことは行わずにシンプル。60年代のフォークシンガーのような素朴で親しみを感じる歌声である。

 〈君のいない日々生活毎日は 僕は進めそうにないから〉というフレーズから始まり〈どうか素晴らしい日に〉というフレーズで歌は終わる。幸せなことについても失望したことについても、日常のささやかな生活について等身大の視点で歌われている。特に若者にとっては、同年代のシンガーソングライターの紡ぐ歌詞は共感しやすく胸に沁みるのだろう。そして共感するからこそ、自分でも歌って演奏したくなる。素朴だからこそ自分でもやってみたいと感じてしまう。だから「セイカツ」を元にした作品が4万を超える状況になっている。

おさるのうた「セイカツ」
おさるのうた「セイカツ」

 10月8日には満を持して「セイカツ」を含めた3曲が配信シングルとしてリリースされた。LINE MUSICではすぐに上位にランクインし、リリース日のリアルタイムランキングでは1位を獲得している。LINE MUSICは「LINE着うた(R)」などのサービスや、気軽にLINE経由で友人へおすすめの曲を紹介しやすいこともあり、他の定額配信サービスと比べるとユーザーは、LINEのヘビーユーザーと同様に若年層(16歳~24歳)が多い。この部分からも若者に支持されている音楽であるとうかがえる。TikTokも10代から20代の若者のユーザーが多い。利用者層が被っていることもあり、LINE MUSICでもバズに繋がったのだろう。

 おさるのうたは様々なタイミングが合致してバズったといえるが、それは理由のほんの一部だ。音楽として魅力がなければ、どれだけ時代性があったとしても人の心を掴むことはできない。TikTokをきっかけにバズるアーティストが増えてはいるが、それと同時に数え切れないほどのアーティストがTikTokを利用して活動を始めている。その中で注目されてヒットするのはほんの一握り。その中でバズを巻き起こせたおさるのうたは、紛れもなく魅力ある音楽をやっているはずだ。現代の若者の視点で歌われる令和のフォークソング。懐かしさと新しさが共存して、感情がダイレクトに伝わる音楽。その個性があるからこそ多くの人の心を動かしたのだ。

 TikTokなどSNSをきっかけにバズったり、新しい音楽の届け方を提示するアーティストはこれからも増えていくだろう。ここから新しい日本の音楽シーンが作られていくかもしれない。おさるのうたのように、埋もれた才能がこれからも続々と発掘されることが楽しみだ。

■むらたかもめ
オトニッチというファン目線で音楽を深読みし考察する音楽雑記ブログの運営者。出身はピエール瀧と同じ静岡県。移住地はピエール中野と同じ埼玉県。‬ロックとポップスとアイドルをメインに文章を書く人。
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