コナン・グレイの歌う“若さ”が胸を打つ理由とは? テイラー・スウィフトを虜にした、若きシンガーソングライターの魅力に迫る

コナン・グレイの歌う“若さ”が胸を打つ理由

コナン・グレイ
Photo by Dillon Matthew

 ただ、あえて名前を出すとしたら、2010年代を征したシンガーソングライター、テイラー・スウィフトその人だろう。コナンはかねてより、実生活をベースに叙情的でキャッチーなリリックを編み出す彼女へのリスペクトを明かしてきた。確かに、ときに刺激的な感情をポップに昇華させて共感を呼ぶ作家性には通じるものがある。「Crush Culture」のミュージックビデオに見られるような、自らのネガティブな感情をコメディ調で表現してみせる手法もテイラー的と言えるだろう。なにより、前出「Wish You Were Sober」のサウンドは、コーラス部の跳ねるような歌い方ふくめて、まさしく「ポスト・テイラー世代」なインディポップと言えよう。事実、テイラー・スウィフト当人もアーティストとしてコナンを称賛した。彼女がアップしたInstagramのストーリーズには惜しみのない賛辞が並ぶ。

「アルバム『Kid Krow』全体に夢中だけど、とくにこの曲「Wish You Were Sober」はマスターピース。騒ぎ立てたくはないんだけど、一生涯ずっと、聴きつづけると思う」

Conan Gray - Wish You Were Sober (Official Video)

 もちろん、コナン・グレイはコナン・グレイだ。テキサスの「ハードな環境」で成長した彼は、大切な友人たちと寄り添いながら、異性愛規範には沿わず(しかしながらセクシャリティのラベルを貼られることも拒否し)、パーソナルな感情を歌にしつづけてきた。『Kid Krow』のなかには「(Online Love)」という曲がある。これはおそらく位置情報をもとにマッチングできるデートアプリの歌で、町を通りすがった男性にメッセージを送っても返信されない状況を描いたものだ。「ただ彼は今バッドモードにいるだけ」(〈maybe he's just in a bad mood〉)と自らフォローしてみるものの、結局、そのまま「(デリート)」(〈(Delete)〉)という言葉ですぐに終わってしまう。シンプルで短い、まるで短編小説のような作品だが、その短さゆえにオンラインデート文化の刹那が染みわたる。

 また、日本では「金満病」(財政的な豊かさから生じる精神的症状)とも翻訳される「Affluenza」というタイトルの曲は、珍しく他人の目線に立って作詞したもので、マネーという単語が繰り返されながら「毎日パーティする君は友だち全員を憎んでいるみたいだ」(〈Every day’s your birthday/You threw a party but you kinda hate all your friends〉)と投げかける内容になっている。彼自身は経済的にも厳しい環境で育ったようだが、LAの大学で出会ったリッチな同級生も大きな苦しみを抱えていることに気づいた経験がベースになっているという。経済格差が叫ばれる今、やや珍しい主題かもしれないが、だからこそ常に自らの感受性を歌にしてきたコナンの味がある。

コナン・グレイ
Photo by Dillon Matthew

 終盤にくる曲は、故郷の親友との記憶を振り返りながら成長する恐れを歌う「Little League」。リトルリーグとは少年野球を指すが、コナン自身は所属したことはなく、あくまでも友だちと観戦した思い出を象徴する、青春時代のランドマーク的存在のようだ。おだやかに始まった先のコーラスでは郷愁のエモーションが爆発している。「僕らが若かったとき それがどういうことか知らなかった ただ愚かでワイルドで自由だった」(〈When we were younger/We didn't know how it would be/We were the dumb, the wild, the free〉)。まるで青春映画のようだが、きっと、アルバム『Kid Krow』は、年齢を問わず多くの人の胸を打つだろう。若かったときの淡い思い出は多くの人が持つものだ。そして、たとえば騒がしい場所での孤独や自己嫌悪を呼ぶイラだちといった感情の揺らぎは、「若さ」とラベリングされやすいものでありながら、実際には大人たちも持ち続けているものなのだから。

Conan Gray - Little League (Lyric Video)

■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。

コナン・グレイ
『Kid Krow』

■リリース情報
コナン・グレイ
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