WANIMA、初の無観客配信ライブが浮き彫りにしたバンドの根幹 無人のスタジアムで展開した興奮のステージを観て
「Japanese Pride」や「BIG UP」など、新旧曲を織り交ぜたセットリスト。ことあるごとに「COMINATCHA~」を連呼しているKENTAだが、アルバムの曲が必ずしもメインではない。驚いたのは中盤のハイライトに「Mom」が配置されていたこと。これもアルバムには入らなかったシングル収録曲だ。ふと思い出す。ツアー初日、スタジオコーストも本編ラストはこの曲だったと。
「Mom」は亡くなった祖母、母親代わりだった大切な人に捧げる歌だ。この時ばかりは笑顔を引っ込め「自分のことで申し訳ないけど……たぶん今もどっかで見とるはず」と語りだすKENTA。みんなのWANIMA、いつでも元気なWANIMAのイメージとはまるで違う表情が、ハッとするほどリアルだった。半ば叫ぶように気持ちを歌にぶつける彼は、泣いているのかと思うくらい、いや見ているだけで泣きそうになるくらい、ひとりぽつりとしているように見える。世間のイメージは違うのだろう。満面の笑顔は普段それを隠している。ただ、彼の根底にあるのは圧倒的な孤独なのだと思う。そういうものがカメラには映し出されていた。演奏後の一言もまた切実である。いわく、「大切な人がいなくなって、向き合うことができなかった。今、なんとかZOZOマリンに立てている。今見てる人たちを失いたくない」。その後で彼はこう続けるのだ。「WANIMAとともに生きていてください」。
孤独だから、痛みがあるから吹き飛ばす勇気が欲しくなる。WANIMAの根幹は、きっと無観客のほうが露になる(普段は誰もが大声で唱和しているから、楽しくて目と耳が散らかるのだ)。圧倒的なダイナミズム。FUJIのシンバルをきっかけにギターとベースが走り出し、KENTAとKO-SHINのコーラスは幼少期から一緒だった時間の長さを示すようにぴたりと重なり合う。3人が一体になればなるほど、音楽は孤独から連帯の喜びへとベクトルを変える。最初から「その曲ヤバいよ! 映画館壊れるよ?」と煽り気味だった「いいから」などは最高の爆発力を見せていたし、続けざまに放たれた「ともに」は全国で大合唱が起こったのだろう。ただ、これがひと夏の祝祭じゃないことはしっかり伝わってきた。センターから再びメインステージに移動しての1曲目が「りんどう」だったのも象徴的。弱いまま強くなりたい。そんな人たちのためにWANIMAがいる。
一時間半、本編が終わり盛大な花火が上がった後には驚きの発表が。なんと水面下でレコーディングを終えていた彼らは、9月23日、つまりライブ翌日に2ndミニアルバム『Cheddar Flavor』を発売するという。え、明日? と慌てた人がほとんどだろう。絶対の箝口令を敷きながらこの日を迎えたようだ。音楽でワクワクさせること。自らが高揚と興奮の発信源になること。ツアー中止の無念はいかほどかと余計な心配をしていた自分を笑いたくなった。彼らはもっとタフだ。もう次のタームが始まっている。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。