矢野顕子が語る、コロナ禍の「愛を告げる小鳥」制作で得た音楽の喜びと気づき 「最後は“自分”である」

矢野顕子が語る、コロナ禍に得た音楽の喜び

「愛を告げる小鳥」は、音楽の喜びがカタチになったもの 

ーーその安心のトラックを受けて、自宅で最後の歌入れをしたわけですね。

矢野:これがまた2020年、ということになると思いますけど、ちょうど「Black Lives Matter」のプロテストが激しかったときだったんですね。夕方頃にさあ歌を入れようかなと思うと、ヘリコプターがものすごい音で飛んでたりして……。それを避けていたらもう11時ぐらいになったりしていましたから、結局は夜中に歌っていましたね。本当に2020年の録音ですね。

ーーそんな制作プロセスからこそ、大切なナンバーになったのではないですか。

矢野:ひとことで言えば「これがやりたかったんだ、私は」ということがわかりました。これ、というのは、音楽そのものというか、今回で言えば4人の心が通った演奏。つまり「音楽って、楽しい!」っていうこと。ああ、これがやりたいんだな、と思いました。そして、やりたいことをやって「ちょうどいいもの」ができたと思います。「愛を告げる小鳥」は、音楽の喜びがカタチになったもの……かな。

ーーリモートでの録音で発見したのは「矢野顕子がやりたいこと」だったわけですね。

矢野:ロックダウンが始まった当初は、無料でのリビングルームコンサート、ベッドルームコンサートの配信が多くありましたよね。その時点では、私自身はそれこそプロの手を借りられない環境であれば、やらなくてもいいかもしれないって思っていました。それよりは「今日は窓を拭こうか」とか(笑)。なぜかそっちに気持ちがシフトしていましたね。でも、それぞれの状況も考え方も変わっていく中で、このコロナ禍での自分のやり方、道筋を選べるようになってきた。じゃあ、そこで大事なことは何だろうって考えると、結局は「自分は何が作りたいのか」「どうやって作るのか」、そこにたどり着きましたね。

ーーそこの「芯」があぶり出されたということですね。

矢野:そうですね、最後は「自分」である、と。これまでは、いろいろなお仕事をいただいたりして、それに背中を押されてきた分、ストップして時間ができてみると、関心が自分に向きましたね。それこそ「私ってここがホントにダメなんだ」とか思ってみたり(笑)。でも、それで落ち込むわけではなくて、あらためて確認するというか、自分発見みたいなことが起きたのは面白かったですね。もうひとつ思ったのは、「やり残してはいけない」ということですね。実は、コロナ禍でコンサートができないとなったときに、残念だとは思いましたけれど、でもどこかで「OK、わかった」という気持ちもあったんです。それは、私が過去にしっかり最高のコンサートをしてきたと思っているから。今まで出し惜しみをしていたり、あんまり努力をしていなかったら、きっと「やっときゃよかった」と思うんだろうけど、仮にずっとコンサートが出来なくても「いや、思い残すことはない」と。もちろん新たに今まで以上のコンサートができるはずっていう気持ちはありますが、その時々で「やり残してなかった」ということにも思い至りましたね。

ーーさらにここから先、状況がどう変わるかはわかりませんが、この体験を経てこれからの矢野顕子は変わりそうですか。

矢野:はい、基本的には「私もリモートでもできる」(笑)。「プロの仕事はプロに任せよう」という考えは変わっていませんけれど、任せられないこの状況がひとつの標準になるのであれば、やりたいことに近づけるための環境を整えていこうと思っています。より素晴らしい「冷蔵庫」を用意したい(笑)。自分でCDクオリティの音を録ることができる、少なくともそこに近づけるように、コンピュータのソフトも含めて習いだしたところです。60の手習いとでも言いますか……道は遠いですけど(笑)。

ーーそういう意味では、自宅で自撮りしたというミュージックビデオも新鮮でしたね。このインタビューを読んでからあらためて見てもらうと、きっと矢野さんの笑顔が「やれました! これも楽しい!」っていう喜びの表情に見えるのではないですか。

矢野:あ、ほんと? そう見えるかしら(笑)。

ーーそれこそニューヨークから「小鳥」が飛んでくるようなイメージでした。

矢野:私としては、部屋がしっかり映っていて「あそこをもっと片付けておけばよかった!」なんて思ってますけどね(笑)。

■配信情報
「愛を告げる小鳥」
9月16日(水)より配信中
配信はこちら
特設サイト
MV

■ライブ情報
『矢野顕子 さとがえるコンサート 2020』
12月13日(日)NHKホール(東京)
17:30開場/18:30開演
全席指定 ¥8,800(税込)
問:ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00~19:00)

■書籍情報
『宇宙に行くことは地球を知ること』
野口聡一 矢野顕子
取材・文 林公代
光文社新書から9月17日発売

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