矢野顕子が鳴らす“今日ここにしかない音楽”を体感 小田和正も登場した『さとがえるコンサート2019』東京公演を振り返る

矢野顕子が鳴らす“今日ここにしかない音楽”を体感 小田和正も登場した『さとがえるコンサート2019』東京公演を振り返る

 矢野顕子のライブが始まる瞬間。この日の会場である渋谷のNHKホールの客席には、いつも通りの独特の緊張感、いわば“ワクワクする緊張感”が漂っていた。

 毎年恒例となった『矢野顕子 さとがえるコンサート 2019』。今年のバンドメンバーは、佐橋佳幸(Gt)、小原礼(Ba)、林立夫(Dr)。そして全国の各会場にそれぞれ違うゲストが登場するというスタイル。初日の埼玉・三郷公演にはSeiho、大阪公演は田島貴男、神戸公演に松崎ナオ、名古屋公演には「やのとあがつま」としてのアルバムを2020年3月にリリースする上妻宏光がゲストで登場。そして2019年12月8日、ツアーの最終日である東京公演のゲストは小田和正。矢野さんが小田さんとどんな曲を歌ってくれるのか、期待が高まらないわけがない。

 その期待感はもちろん自在に変化する彼女の歌とピアノ、素晴らしいメンバーによる演奏への期待感でもある。これから奏でられる音の一粒も漏らさず受け止めようとする、客席の“ワクワクする緊張感”の中に艶やかなピンクの衣装で矢野顕子が登場した。

 1曲目は「電話線」。1976年のデビューアルバム『JAPANESE GIRL』に収録されて以来、40年を超えて歌い続けているナンバー。そして「東京は夜の7時」(1979年)、メンバー紹介をはさんで「Welcome to Jupiter」(2015年)。「糸井(重里)が作詞したナンバーが続きますが……偶然です(笑)」と前置きしての「クリームシチュー」(1997年)、「Watching You」(1989年)、新曲「愛を告げる小鳥」(2019年)、「春先小紅」(1981年)。

 
 各曲の発表年をあらためて見てみれば、デビューからの40数年を行き来するセレクション。本人も曲の間のおしゃべりで「今年はニューアルバムのリリースがなかったので、思う存分に古い曲も選びました」と語っていたが、この「オールタイムベスト」と呼びたい選曲そのものが、まず今回の『さとがえる』ならではのギフト。そして「奥田民生が私のために書いてくれた……と私は(勝手に)思っています(笑)」とユニコーンの「すばらしい日々」を披露。カバー曲もすべて“矢野顕子の歌”に変換してしまう彼女が〈君は僕を忘れるから〉と歌う瞬間、どこか孤独なこの曲の存在感がキリリと立ち上がる。

 この「すばらしい日々」が前半のラストナンバー。休憩時間に入った客席は、すでに幸せそうな笑顔で満ちている。その笑顔は、ベストセレクション的な曲のラインナップへの笑顔であると同時に、なんと言ってもこのメンバーによるすばらしい演奏への賛辞。佐橋佳幸はエレキとアコギを持ち替えながら随所にここぞというフレーズを奏で、小原礼が丁寧に、そして艶っぽく曲の流れを創り出し、林立夫は的確なビートを刻みながら矢野顕子の歌に呼応する。主役が矢野顕子の歌とピアノ(&キーボード)であるのはもちろんだけれど、それぞれの曲の中でそれぞれの音が主役になる瞬間を感じる。矢野アレンジの妙、コーラスワークの新鮮さも含めて、“昨日や今日じゃない”とはまさにこのこと。

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