米津玄師、原曲のイメージを刷新する比類なきアレンジ力 「パプリカ」「まちがいさがし」セルフカバー解説
「まちがいさがし」は2019年に菅田将暉の楽曲としてリリースされた。ドラマ『パーフェクトワールド』(フジテレビ系)の主題歌に起用され、年末には『紅白歌合戦』でも歌唱されたこの年のヒットナンバーだ。ピアノの調べの中で菅田の凛々しい歌声が紡がれ、荘厳なストリングスとコーラスワークが光る温かなバラード。誠実に“君”を想う気持ちを募らせたラブソングであり、菅田の声が映える美しい歌詞とメロディは絶品だ。
“菅田じゃないと歌えない曲じゃないと意味がない”という考えの中、長期間かけて作り込まれた「まちがいさがし」をも、米津はセルフカバーで自分の元へと引き寄せた。鳥のさえずり、弦を爪弾く音、乾いたクラップのようなビート。一聴すると本当に「まちがいさがし」が始まるのか? と疑うイントロで幕を開け、ボイスエフェクトや低音の効いたリズムなど、全編に渡って原曲とは異なるアレンジが配されている。しかし米津自身の歌声は『STRAY SHEEP』でも屈指のナチュラルな味わいを持ち、メロディをしなやかに歌いあげている。
菅田将暉のために綴られた歌詞も米津自身が歌う言葉として自然に聴こえてくる。過去の楽曲で言えば「サンタマリア」や「アイネクライネ」、「orion」といった1人の相手へと真っ直ぐ想いを込めた歌の系譜にこの「まちがいさがし」は鎮座しているのだ。さらに「自分は間違い探しの間違いの絵の方に生まれたのかもしれない、でもだからこそ今目の前の人との出会いがあって…」という米津がこの楽曲を作る上で軸となった考え方(参照)はこれまでも様々な楽曲に息づいてきた。親密な相手を慈しみ見つめる行為、“はぐれ者”で“人と違う”という自意識、米津玄師の重要な要素を2つも含んだ「まちがいさがし」は彼自身の歌としてそもそも相応しかったのだ。そんな必然に満ちた楽曲を坂東祐大とのタッグという米津玄師の最新モードで再編曲。自ら歌う楽曲として抜群に身体へ馴染むトラックを練り上げてある。これは菅田の「まちがいさがし」へ最大限のリスペクトを込めた対抗のように思える。同世代の仲間に向け、気概とプライドを持って自身の表現をぶつけた至極のリアレンジだ。
前作『BOOTLEG』でも「打上花火」のセルフカバーが話題を呼んだように、今回も原曲のイメージを刷新する比類なきアレンジ力を見せつけた米津玄師。彼の言葉とメロディは、いつだって彼の世界へと還るように約束されているのかもしれない。ちなみに彼の最新提供曲は嵐の「カイト」だ。この楽曲もいつか聴き手を仰天させるようなアレンジが施され、米津自身による歌唱版が公開される可能性はきっとある。その日を楽しみに待っておきたい。
■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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