Lamb Of God、Xibalba、Oranssi Pazuzu……エクストリームメタル界の“今”を切り取った新作7選

Bleed from Within『Fracture』

Bleed from Within『Fracture』

 アメリカ出身のバンドが4組続いたので、ここからはイギリス/ヨーロッパに目を向けていきましょう。このBleed from Withinはスコットランド・グラスゴー出身のデスコア/メタルコアバンドで、当初はLamb Of Godのカバーから活動開始したものの、すでに活動歴15年という中堅クラス。適度なメロディアスさとモダンかつテクニカルなバンドアンサブルを武器に、UKメタルシーンの次世代を担う存在として注目を集めています。

 セルフプロデュース作となる通算5作目のアルバムは、初期ほどデスコア色は強くないものの、90年代のPantera、2000年代のLamb Of Godなどにも通ずるグルーヴメタルや、メロディックデスメタル以降のモダンメタルからの影響が色濃く表れたダイナミックな1枚に仕上がっています。先のLamb Of Godの新作同様、従来の“らしさ”を損なうことなくメジャー感を強めた今作は、おそらくこのバンドにとって「新規リスナーへの名刺がわりの1枚」になることでしょう。なお、6曲目「Night Crossing」にはTriviumのマシュー・キイチ・ヒーフィー(Vo/Gt)がゲスト参加。彼らしい叙情的なギターソロを楽しむことができます。

BLEED FROM WITHIN - Night Crossing feat. Matt Heafy (OFFICIAL VIDEO)

Behemoth『A Forest』

Behemoth『A Forest』

 ポーランドのブラックメタル/デスメタル・バンドBehemothが2018年発売のフルアルバム『I Loved You At Your Darkest』に続く最新EP『A Forest』を5月末にリリースしました。本作は全4曲入り/約20分という、いわば次のフルアルバムまでの繋ぎ的な小作品集ですが、その内容は非常に充実したものとなっています。

 タイトルトラック「A Forest」は、かのThe Cureの1980年に発表した楽曲のカバー。原曲が持つダークさ、ゴシック感をより強調させた壮大なメタルカバーには、スウェーデンのスーサイダルメタルバンド・Shiningからニクラス・クヴァルフォルト(Vo)がゲスト参加しており、豪華な“暗黒の宴”が繰り広げられています。同曲はスタジオテイクに加え、ニクラスも参加したライブ音源も収録。同じ曲が2曲続くものの、「スタジオならではの作り込み」と「ライブならではのダイナミズム」を比較できるのも本作の醍醐味かもしれません。このほか、『I Loved You At Your Darkest』制作時のアウトテイク2曲も収められているので、同作の延長として接してみてはどうでしょう。

Behemoth - A Forest feat. Niklas Kvarforth (Official Video)

Oranssi Pazuzu『Mestarin kynsi』

Oranssi Pazuzu『Mestarin kynsi』

 今回最後に紹介するのはフィンランドのサイケデリックブラックメタルバンドOranssi Pazuzu(オランシ・パズズ)の日本デビューアルバム『鉤爪の主(Mestarin Kynsi)』です。彼らは2007年の結成以降、今作含め5枚のアルバムを制作。中でも2016年の4thアルバム『Värähteliiä』がPitchforkを筆頭に欧米主要音楽メディアで絶賛されただけでなく、Metallicaのジェイムズ・ヘットフィールド(Vo/Gt)がSpotifyお気に入りリストに挙げたことで一躍注目を集めることになりました。

 新たにエクストリームメタル界の最大手レーベル<Nuclear Blast Records>と契約し、最初のリリースとなる今作はブラックメタル的アプローチをベースに、スペイシーなサイケデリックサウンドやKing Crimsonにも通ずるアバンギャルドなプログレッシブロック的アレンジが随所に散りばめられた、濃厚で聴きごたえのある1枚に仕上がっています。全6曲で50分というトータルランニングからもわかるように、1曲が7〜10分と非常に長尺ですが、途中で飽きるどころか「次に何が来るかわからない」縦横無尽かつ予測不能なサウンドスケープに夢中になるはずです。ブラックメタルをはじめとするエクストリームメタルのみならず、70年代のプログレッシブロック、Nine Inch NailsやRadiohead、Mogwai以降のポストロック/エクスペリメンタルロックとも共通するスタイルは、メタルという枠にとらわれず広く多くのリスナーに届いてほしい傑作です。

ORANSSI PAZUZU - Uusi teknokratia (OFFICIAL MUSIC VIDEO)
RealSound_ReleaseCuration@Tomokazu_Nishibiro0705

■西廣智一(にしびろともかず)Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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