ポーター・ロビンソン、マデオン、長谷川白紙らが共演 『Secret Sky Music Festival』が示した新しいフェスの在り方
日本時間5月10日、アメリカ合衆国出身のDJ・プロデューサーであるポーター・ロビンソンが主催するオンラインフェスティバル『Secret Sky Music Festival』が開催された。同フェスはYouTubeを中心にオンラインで配信され、その収益は全て新型コロナウイルス救済支援のために寄付される。
自粛生活が前提となった現在において、オンライン上での音楽フェスティバルはそれほど珍しいものではない。オンラインゲーム『フォートナイト』を筆頭に、バーチャル空間を生かした体験というのも増えてきている。しかし、『Secret Sky Music Festival』を通して得た体験は、その中でも非常に特殊なものであるように感じた。それは、このフェスティバルには現実=リアルとバーチャル空間の垣根が存在しないように思えたからである。
その背景には、ポーター・ロビンソンが持つ音楽性、あるいは世界観が挙げられるだろう。彼はゼロ年代~10年代前半のエレクトロやゲーム音楽(『beatmania』など)や日本のアニメ(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など)、さらにボーカロイド音楽に多大な影響を受け、その要素をダンスミュージックに落とし込んでいる。ポストアポカリプスの世界で繋がりを求める「Sad Machine」や、明確にゲーム音楽を意識したVIRTUAL SELF名義での活動はその例と言えるだろう。結果として、彼の音楽はバーチャル世界を強く意識させるものとなっている。
今回の『Secret Sky Music Festival』には、そんなポーター・ロビンソンの世界観や音楽性に共鳴したアーティストが集まっており、KNOWER、DV-i、San Holo、GRRL、Shadient、kz(livetune)、Doss、長谷川白紙、Jai Wolf、Nanobii、Anamanaguchi、キズナアイ、マデオン、WAVEDASH、G Jones、A. G. Cook、Lil Texas、そしてポーター・ロビンソン本人に加え、彼のゆるキャラことDJ Potaroの計19組が参加。約14時間にも及ぶ大ボリュームのイベントとなった。
重要なのは、今回参加したアーティストがポーター・ロビンソンと共通したルーツの一部を持っており、そのうえでより進化した“何か”を提示していることである。だからこそ、フェスティバルに集まったオーディエンスは、どのパフォーマンスも熱狂を持って受け入れることができたのだ。
特に驚きと歓声を持って迎え入れられたのは、日本からの参加となった長谷川白紙によるパフォーマンスであろう。ジャズとブレイクコアが融合し、切り刻まれたようなボーカルの譜割りや楽曲展開が印象的なカオティックでポップな音楽性は、ボーカロイド音楽からの影響を引き継ぎ、さらに進化させたものとなっており、YouTubeのコメント欄は称賛の声で溢れ、「今回のフェスティバルでの最大の発見」という声も多く見ることができた。
筆者個人としては、ニューヨーク在住、<Maltine Records>からもリリース歴のあるDV-iによるパフォーマンスを取り上げたい。まるで初代PlayStationでリリースされた3Dシューティングゲームのようなサイバー感溢れるビジュアルと、当時のゲーム音楽を彷彿とさせる「ゼロ年代における未来」を完璧に再現したうえで、立体的に空間設計されたエレクトロサウンドの完成度には大きな衝撃を受けた。実はDV-iはデザイナーとしてVIRTUAL SELFのアートワークなどを手掛けており、ポーター・ロビンソンにとっても強く共振するところがあったのであろう。
パフォーマンスではDV-i本人は一切画面上に登場せず、フルスクリーンにはVJが映し出されていたのだが、これは今回のフェスティバルにおける一つの特徴とも言える。多くのフェスティバルでは、共通したステージ機材を使ってパフォーマンスが行われるが、『Secret Sky Music Festival』では、各アーティストには放送枠のみが与えられ、その中で何を映し出すのかは個々人に委ねられていたのだ。結果として、どのアーティストもVJに強いこだわりを見せており、これはリモートで制作された今回のフェスティバルだからこそのメリットと言えるだろう。
このように、VJが大きな役割を担っていたというのが、リアルとバーチャルの垣根がないように感じられた最大のポイントである。例えば、kz(livetune)は秋葉原のクラブ・MOGRAの中でパフォーマンスを行いながらも、リアルタイムで映像加工が施され、自身が光の粒子となる演出を見せてくれた。ポーター・ロビンソンの盟友、マデオンによるパフォーマンスは、一見すると部屋の中で行われているように見えたが、実はそれ自体がVJであり、やがて背景が溶け出して様々なCGを映し出すようになり、マデオン自身の色も楽曲に合わせて変わっていくという仕掛けで観客を驚かせる。
リアルのフェスティバルであれば異色の存在とも言えるであろうバーチャルアイドルのキズナアイについても、途中で髪色・ヘアスタイルを変えるバーチャルならではの展開を交えつつ、それでいて違和感なくフェスティバルに溶け込んでおり、エレクトロを軸としたキュートなパフォーマンスで観客を魅了していた。全てが画面の向こう側で創り上げられる『Secret Sky Music Festival』だからこそ、このようなリアルではできないパフォーマンスが可能となるのである。
また、このフェスティバルでは、なんと“観客席"がウェブ上のバーチャル空間に設けられていた。これはカリフォルニアに拠点を構えるデジタル制作集団、Active Theoryが手掛けたものであり、アクセスしたユーザーはそれぞれが一つの点となり、キーボードやタッチ操作を使って動くことができる。その動きは線となって残り、それらが折り重なってカラフルな空間を創り上げていた。この“観客席"を通して、たとえ参加者全員が自分の部屋の中で一人で見ていたとしても、一体感を感じることができるようになっていたのである。