アルバム『Rainbow Planet』インタビュー
杉山清貴が語る、音楽への向き合い方と制作への哲学 「違う景色を見ることはとても大事」
自分をどこまで高められるか
ーータイトル曲「Rainbow Planet」の作詞は売野雅勇さん。80年代から数多くのヒット曲を生み出してきた名作詞家です。杉山:80年代から何度も歌詞を書いていただいて。僕が初めて1位を取った曲(「水の中のAnswer」/1987年)の歌詞も売野さんですね。「Rainbow Planet」の歌詞も素晴らしいです。景色の作り方がすごく上手いし、小道具の使い方を含めて、聴く人にイメージをしっかり与えてるというか。80年代から活躍している方の底力は、やっぱりすごいですよ。
ーーアルバムに収録された新曲10曲のうち、8曲の歌詞を作詞家が手がけていますね。
杉山:それもオメガトライブ時代の経験のおかげというか、人が書いた歌を歌うことにまったく抵抗がなくて。たとえば鈴木慎一郎くんが書いた歌詞(「二人の色彩」「暗闇を照らす微笑み」「Fall in you」)はすごく独特だし、自分からは絶対に出てこない。そういう歌と対峙すると、ゾクゾクするんですよ。そういうときはシンガーに徹して、「これをどう料理して、どう歌うか」ということに集中して。せっかく作ってもらった曲に命を吹き込むわけですから、生半可な気持ちではやれないですよね……何て言うと、ちょっと大げさかもしれないけど。
ーー杉山さんから「こういう曲を作ってほしい」と依頼することは?
杉山:全くないです(笑)。楽曲の制作はすべてMaritnさんに任せていて、僕からは一切口出ししないので。「Rainbow Planet」の歌詞も、送られてきて初めて「え、売野さんじゃん」と知ったくらいですから。自分が関わると、どうしても自分の色を出したくなるし、なかなか新しいものはできないんですよね。Martinさんはもともとエンジニアで、音のこだわりもすごいんです。マスタリングはアビーロードスタジオなんですが、すごくいい音ですよね。
ーーリード曲「Other Views」は、杉山さんの作詞。“違う風景”“違う視点”というテーマの歌詞ですね。
杉山:福田くんが書いた曲を聴いて、「20代なのに、The Eaglesみたいな曲を書くんだな」と嬉しくなって、「これは自分で歌詞を書くしかないな」と。テーマは、自分が持っている哲学のようなものですね。“違う景色を眺めてみる”という歌詞がまさにそうなんですが、僕は「これは違うな」と思ったら、すぐに飛び出すことにしてるんです。オメガトライブの解散もそうですけど、悩みそうになったら、その場所に固執しないで、違うところに行って、違うことをやる。違う景色を見ることは、とても大事だと思うんですよね。それでも40代までは「どうしようかな」と悩むこともあったんだけど、あるとき「これってすごく無駄な時間だな」と気付いて。イヤならやめればいいいし、抜け出せばいいと決めてからは、生き方がすごくラクになったんです。いつかそのことを歌詞にしたいと思ってたんですが、なかなか難しくて。でも、福田くんの曲を聴いて、「このメロディだったら載せられるな」と。
ーーアルバムの最後に収録されている「もう僕らは虹を見て、綺麗だとは言わない」は、杉山さんが作曲を担当。
杉山:Martinさんに「1曲、作曲しませんか?」と言われまして(笑)。どうしてもポップスの癖で、Aメロ、Bメロ、Cメロという構成になりがちなんだけど、この曲はそれに捉われず、淡々とした雰囲気にしたくて。アコギ1本でデモを作ったら、Martinさんに「これはギターサウンドにしましょう」と提案され、小倉(博和)さんにアレンジしてもらいました。高柳恋さんの歌詞もいいんですよ。タイトルを見たときは、「『Rainbow Planet』というアルバムなのに、“虹を見て綺麗だと言わない”って何?」と思ったんだけど(笑)、読んでいくうちに「そうか」と。長く生きるというのは、物事に動じなくなることだし、分かり切ったことをいちいち言う必要もないんだなっていう。この曲が最後にあるのもおもしろいですよね。
ーー全編を通して感じられるのは、やはり杉山さんの歌の魅力だと思います。35年以上に渡って歌い続け、リスナーがライブに足を運んでいるのはすごいことですが、歌うことへのスタンスは変化しているんでしょうか?
杉山:やっぱり波はありますよね。作品作りもそうですが、パフォーマンスに関してはやはり自分の歌が大事だし、おざなりじゃやれないというか……。「年だからしょうがない」という時期もあったんですが、「もっといい感じで歌いたい」「スキルアップしたい」と思い始めてから、客足が顕著に伸びてきたんです。偉そうな言い方かもしれないけど、「自分をどこまで高められるか」という姿勢が大事だし、それはお客さんにも伝わるんだなと。「去年よりいい歌が歌えているな」と毎年思ってますからね、自分では。
ーーしばらくはライブができない状況が続きそうですが、アルバム『Rainbow Planet』の曲を生で聴けるのも楽しみです。
杉山:この前、インスタで弾き語りライブを配信したんですよ。ライブをやれないのはすごく大変ですが、インスタライブやYouTubeなど、表現の場が持てることは救いですよね。それがなかった時代だったら、もっと喪失感が強かったんじゃないかな。いまはそれを埋めるアイテムがあるし、それらをフル活用しながら、音楽を届けていきたいですね。
■リリース情報
『Rainbow Planet』
発売:2020年5月13日(水)
【初回限定盤】¥4,000(税抜)
【通常盤】¥3,000(税抜)
1.Omotesando'83
2.二人の色彩
3.誘惑のChaChaCa
4.Daughter
5.暗闇を照らす微笑み
6.Rainbow Planet
7.Fall in you
8.Other Views
9.君がどんな遠くにいても
10.もう僕らは虹を見て、綺麗だとは言わない。
11.Velvet Moon (2019 Christmas concert ver.)
[DVD] 初回限定盤のみ
1. Other Views (Music Video)
2. Hand made (Special Movie)