ユカリサ、3人のハーモニーが織り成す静謐で豊かな音楽性 1stアルバム『WATER』言葉と音の味わい深さ
空気公団の山崎ゆかり、ザ・なつやすみバンド/うつくしきひかりの中川理沙、tico moonの吉野友加。この3人が集って結成されたユカリサが、4月8日に1stアルバム『WATER』をリリースした。ユカリサは3人が曲ごとにボーカル、コーラス、作詞作曲を担当し、ハープやピアノ、オルガン、シンセベースなどが彩りを添える。そのサウンドは慎ましやかで気張りがなく実に穏やか。tico moonではあまりボーカルをとらないという吉野の歌声もすっぴんの魅力を湛えており、磨けば光る原石のようだ。
どこまでボリュームを上げても静謐さを失わないのは、必要最低限の音でアンサンブルが成り立っているからだろう。無駄な音を削ぎ落としたミニマムな音像は、リスナーの想像力を無限に掻き立てる。音の配置や音色がまた絶妙で、この音はここにしかない、という必然性と確信のもとに鳴らされている。そのことがすべての音の強度を上げているのは間違いないだろう。
元々筆者は押しつけがましく芝居がかった音楽は苦手だ。もちろんミュージシャンや作品によるし、圧が強くても好きな音楽はいくらでもある。ただ、インパクト重視が行き過ぎて音圧を無駄に詰め込んだようなものは好きではない。そして、その正反対に位置するのがユカリサの『WATER』である。すべての音に対して深いデリカシーがあり、自分を大きく見せるような演技は皆無。かといって、いわゆる“癒し系”とされる漂白・脱臭された音でもない。音と音の行間で静かに熱を発し、凛とした視線でこちらに訴えかけてくれるような親密さがある。中川はバンドサウンドの妙について、吉野は山崎と中川のボーカルについて、以下のように回答している(以下、「」内はすべてメールインタビューへの回答)。
「ハープとピアノの組み合わせはすごく心地良いし、ゆかりさんは曲によって音を自由に変えられる。それぞれ全然違う声と音域なんだけど、合わさるとすごく自然に溶け合うところが気持ち良くて面白くて、3人でいろいろ積み重ねてみたり引いてみたり音で遊んだりしながら新しいものを作っているような感覚があります」(中川)
「2人の存在感溢れる歌声がとても好きです。ゆかりさんの歌声には説得力もあり、たまに説法を聴いているような有難い気持ちになったり、優しさが溢れて温かくなることもあります。理沙さんの歌声には軽やかな羽が生えているようで、どこまでも飛んでいけるような気分になったり、暖かな日差しを感じることもあります。いつも自由に語りかけているような2人の歌声は、自然な流れで私の歌も受け入れてくれて、引っ張ってくれる大きな存在です。そして、2人の音楽力は歌うことだけでなく、作曲や作詞、曲の読解力みたいなところにもあると思うので、本当に素晴らしい音楽家だなと尊敬する存在でもあります」(吉野)
なお、『WATER』というアルバムタイトルについてだが、山崎によると、曲のタイトルに水に関するものが多かったことと、「絶対必要なもの=水、そして音楽だという思いもありました」という。確かに、彼女らの音楽は当たり前にいつも傍にある水のように、聴き込むことも流し聴きすることもできる。必要不可欠だが、普段あまりその存在を意識する機会は少ないとでも言えばいいか。中川の答えはこうだ。
「私はピアノを弾く時、水のような音を出してみたいなといつも思うし、わりと普段からいろんなことを水と繋げて考えることが多いんです。『みずうみ』『声のしずく』もそんな中でできて、ふんわりと大きなことを歌っているような歌詞なのですが、友加さんもゆかりさんもスッと受け入れてそこからまた広げてくれるような予感がして、提案してみました。最初にゆかりさんから『musuitai』という曲が送られてきた時に、水の中にいるような、ひんやりするようで温かい、不思議な心地のする曲だなぁと思いました」(中川)
また、「録音よりもまず初めに、メンバー皆で海へ行きジャケット写真を撮った」(山崎)のも大きかったという。人気のない凪いだ海で立ち尽くし、遠くを眺めている3人の姿が浮かぶようだ。ビジュアル的にはトレイシー・ソーンの『遠い渚 - ディスタント・ショア』やフリッパーズ・ギターの『three cheers for our side〜海へ行くつもりじゃなかった』のアートワークと関連付けたくもなる。個人的には寺山修司の「なみだは にんげんのつくることのできる 一番小さな海です」という言葉を連想したりもした。
ちなみに、筆者がユカリサの存在や音楽を知って想起したのは、Tilleryという米国のボーカリスト3人組によるユニットだ。メンバーはレベッカ・マーティン、グレッチェン・パーラト、ベッカ・スティーヴンスという、現代ジャズ界屈指の逸材。結成から6年経ってリリースされたアルバム『Tillery』は、フォークやカントリー、ジャズからプリンスのカバーまでを収録した秀作。普段はバンド活動をホームグラウンドにしている3人が集まり、気の置けない仲間同士でアルバムを一枚作った、という意味ではユカリサとも近しいのではないか。