ユカリサ、3人のハーモニーが織り成す静謐で豊かな音楽性 1stアルバム『WATER』言葉と音の味わい深さ

ユカリサ、言葉と音の味わい深さ

 先述したように、吉野のボーカリストとしての初々しさと瑞々しさは特筆に値する。ホームグラウンドであるtico moonを離れたこのアルバムを萌芽に、今後歌い手としてより広く知られていく可能性がある。ポテンシャルは無限。そんなことを示唆する回答が彼女からは返ってきた。

「歌うということに関しては、今までtico moonのライブでは1ステージに2曲ほど、サポートのライブでもコーラスを数曲歌う程度でした。ユカリサではメインで歌う曲の他もほぼ全ての曲でコーラスをするので、ライブでずっと声を出し続けていることが自分にとってはとても新鮮なことでした。元々歌うことは好きでしたのでたくさん歌うことを楽しんでいる部分もありますが、自分自身はハープを弾く人との認識が長年強かったので、これからはハープを弾くことと歌うことの両立の在り方を模索しながら、自分自身の演奏スタイルを見つけていきたいなと思っています。実験が好きなのでいろいろと楽しみながら試していこうと思います」(吉野)

 筆者は自宅のステレオで繰り返し『WATER』を聴いているのだが、本作ほど一対一で向き合うのに適した音楽もない、と思う。例えば人がたくさん集まるフェスで悦びを分かち合うというよりは、自分の内面に潜行し、ひとつひとつの言葉や音と触れ合うというシチュエーションがしっくりくるのだ。こじつけではなく、コロナウイルスにより自宅待機を余儀なくされるこの状況で、彼女たちの曲はまるで清らかな聖歌のように響く。

ユカリサ「いらない」Official Music Video

 もちろん、当人たちも意識・意図してはなかったことだろうが、音楽が現実とシンクロしてしまう例はいくらでもある。祈りにも似たこのアルバムに虚心坦懐に耳を傾け、今は独りの部屋でユカリサの音楽に身を委ねていようと思う。3人の声質の違いやコーラスワークの美しさ、情景描写が巧みな歌詞など、聴く度に驚きや発見が待ち受けている。それは、先述のように音と音の間に隙間があり、イマジネーションを膨らませられるからだろう。

 最後に余談めくが、本作を気に入った方は2000年にリリースされたコンピレーションアルバム『SO FAR SONGS』もぜひ聴いてみて欲しい。羅針盤やハレルヤズ、Maher Shalal Hash Bazから連綿と続く“うたもの”の系譜(通常の“歌もの”などと区別するためあえて平仮名で表記された)をまとめた名盤で、LABCRY、浜田真理子、渚にて、ふちがみとふなと、フリーボなどの曲を収録。直接ユカリサに影響があったとは思えないが、偶発的に隔世遺伝が起きたことは考えられる。良質な音楽がバトンタッチされる貴重な瞬間に立ち会えたかもしれないと思う。

■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa

ユカリサ『WATER』

■リリース情報
ユカリサ『WATER』
4月8日(水)発売
LABEL:fuwari studio/発売元:Polystar Songs

<収録曲>
01. musuitai
02. みずうみ
03. 飛花落葉
04. 声のしずく
05. ichiring
06. 深海に降る
07. 浜辺にて
08. 帰ろう
09. いらない
10. WATER

■ライブ情報
『ユカリサ「WATER」Release Live』
5月14日(木)京都・磔磔
6月18日(木)東京・WWW
(日程変更の可能性もございますので、ユカリサHPなどでご案内させていただきます)

※4月25日(土)埼玉・senkiya公演は中止 

■ユカリサ関連リンク
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