鍵盤プレイヤーのいるバンドはなぜ増加? 音楽プロデューサー島田昌典に聞く、J-POPにおけるピアノが果たす役割

鍵盤プレイヤーのいるバンドはなぜ増加? 音楽プロデューサー島田昌典に聞く、J-POPにおけるピアノが果たす役割

 Official髭男dism、King Gnu、Suchmos、sumika、Mrs. GREEN APPLE。ここ数年の間にブレイクしたバンドの共通点の一つは、優れた鍵盤プレイヤーがいることだろう。そこでリアルサウンドでは、aiko、Superfly、いきものがかり、秦 基博、back numberなど数々の名曲を手がけるプロデューサーであり、自身もキーボーディストとして活躍する島田昌典氏に「J-POPにおけるピアノが果たす役割」についてインタビュー。ピアノを取り入れたバンドが増えている背景からはじまり、島田氏がアレンジを手がける際に意識していること、ストリーミングの浸透によって生じているポップスの構造の変化、ダンスミュージック全盛だからこそ感じている生楽器の重要性など、興味深い話を聞くことができた。(森朋之)

ピアノは日本人にとって身近な楽器

ーーOfficial髭男dismI(以下、ヒゲダン)やKing Gnuを筆頭に、ピアノ、鍵盤楽器を取り入れたバンドが人気を得ています。4つ打ちのダンスビートとギターリフを中心にしたバンドが数多く登場した後、現在はポップスとしての魅力を備えたバンドが増えている印象もありますが、島田さんはどのように感じていますか?

島田:確かにそういう印象はありますね。ピアノはもともとクラシックの楽器で、とても表情豊かなんです。抑揚も付けやすし、音域もオーケストラ以上なので、幅広い表現ができるんですよね。

ーーアンサンブルにピアノが入ることで、表現の幅が広がると。

島田:ええ。しかもピアノは、日本人にとって身近な楽器だと思うんですよ。1970年代の高度経済成長期に、アップライトピアノを買うことは中流階級の憧れでしたし、ピアノ教室が流行ったこともり、ピアノを持っている家が急速に増えた。僕も小さい頃にピアノを習っていましたが、我々の子供にあたる世代が、ヒゲダンやsumikaの世代なんですよね。物心ついたときから、なぜかピアノが家にあって、それを弾いてみたことで音楽に興味を持った人も多いんじゃないかなと。まあ、これは勝手な想像ですが(笑)。でも、小さい頃の習い事としてピアノは定番ですし、ストリートピアノが置いてあるとみなさん積極的に演奏されていますよね。学校教育でもピアノは欠かせないものなので、弾いたことがない人でも音色には親しみがある。そう考えると、ギターよりもピアノの方が大衆受けするサウンドだと言えるかもしれません。あと、親世代が聴いていた音楽の影響もあるかもしれませんね。日本だと松任谷由実さん、海外ではキャロル・キング、エルトン・ジョンなどを聴いていた世代の子供たちが、いまバンドをやっているというか。

ーー世代が一回りして、幼少期にオーセンティックなポップスを聴いていた人たちがバンドを組んで世に出てきた、と。

島田:そうですね。彼らの曲を聴くと、ピアノのリフやフレーズなどに、70年代の歌謡曲やポップスの匂いがすることもあるので。あと、いろんなサウンドにマッチするんですよね。たとえばEDMでも、ギターより鍵盤のほうが合うと思うんですよ。バンドであっても、Coldplayなどはそういう要素(ダンスミュージックと鍵盤)を取り入れていて。この前、SHE’Sの曲(第92回センバツ MBS公式テーマソング「Higher」)をプロデュースしたんですが、彼らもバンドとピアノ、エレクトリックなサウンドを融合させてますよね。

ーー島田さんが楽曲のアレンジを手がけるときは、やはりピアノで構築するんでしょうか?

島田:「その人が何の楽器を使って曲を作ったか」が大きいんですが、ピアノを使うことが多いです。特にJ-POPの場合は、コードが複雑な曲が多いですし、テンション系だったり、いろいろな響きのコードを試しながらアプローチするので。

ーーJ-POPは全般的にコード進行が複雑ですからね。

島田:そうですね、洋楽はもっとシンプル。70年代の歌謡曲はAメロ、Bメロ、サビがはっきりしていて、曲のなかに起承転結があって。転調も多いし、ドラマティックなんですよね。それは今のJ-POPにもつながっていると思いますし、そういう展開の曲が好きなリスナーも多いんじゃないかなと。ただ、サブスクが浸透してきたことによる音楽の聴き方の変化の影響もありますけどね。「なるべく早く歌が聴こえてこないとダメ」というか、イントロが30秒くらいあるとリスナーは待ってくれないので。実際、最近の曲はイントロはワンフレーズだけでフックの役割になってることが多いですね。

ーー全体の尺も短くなっている?

島田:5分くらいあると「長い」と感じる人もいるようですが、それも曲によると言いますか。曲の長さよりも「この曲で何を伝えたいか」が大事なんですよね。その曲が持っているものを伝えるために、どういう構成にするかを考えるので。(楽曲の長さに関しては)メディアの変化もありますね。60年代、70年代のポップスは、ドーナツ盤(シングルのアナログレコード)に収録できる時間が決まっていたから、2分、3分の曲が多かった。CDの時代はまた違ったし、いまはスマホで音楽を聴く人が多いですから。最終的なチェックをするとき、iPhoneにもともと付いているイヤホンを使うアーティストもいるので。

ーー音楽の聴かれ方の変化は、楽曲のアレンジにも影響すると。

島田:それがすべてではないですけどね。基本的には、いままで誰もやっていないサウンド、オリジナリティをどう聴かせるか? ということなので。他にはないユニークな部分がリスナーを惹きつけると思うし、そのためにいろいろな実験をしながらアレンジしています。リズム、ハーモニー、音色を含めて、すべての要素が複雑に絡んできますよね、そこには。

ーーなるほど。先ほども話に出ていたSHE’Sの「Higher」の場合はどうだったんですか?

島田:バンドのプロデュースをするときは、その楽曲からメンバーの顔が見える、音が聴こえることを大事にしていて。SHE’Sはボーカルの井上竜馬くんがピアノを弾いて歌っているので、それをしっかり聴かせることが基本。デモの段階でアルペジオの素敵なリフがあって、それを中心にアレンジしました。さらにストリングスがエモーショナルに絡んで、リズムを強く押し出すというイメージですね。高校野球の曲だから、“汗”や“エール”というテーマも意識していました。

SHE’S「Higher」

ーーなるほど。やはり島田さんがアレンジを担当したSuperflyの「フレア」(NHK連続テレビ小説『スカーレット』主題歌)に関しては?

島田:越智志帆さんご本人がデモを作られていて、それをもとにアレンジしました。陶芸をテーマにしたドラマなので、土のイメージから民族楽器やパーカッションを入れて。たまたまエレキシタールを持っていたので、試しにその音を入れてみたら上手くハマって、ユニークなサウンドになったと思います。

Superfly「フレア」

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