鍵盤プレイヤーのいるバンドはなぜ増加? 音楽プロデューサー島田昌典に聞く、J-POPにおけるピアノが果たす役割

J-POPにおけるピアノの役割とは

“切なコード進行”はギターよりもピアノの方が合う

ーー話をピアノに戻したいのですが、島田さんがポップスにおけるピアノの存在を意識したのは、どんな音楽がきっかけだったのですか?

島田:小学校のときに聴いたThe Beatlesですね。僕が知ったときはすでに解散していたので後追いで聴いたのですが、初期の頃はエレキギターが中心で。ライブをやらなくなって、レコーディング・バンドになってからは曲のなかにいろんな楽器が入ってくるようになって。「Lady Madonna」のようにピアノがカッコいい曲もあって、よくマネして弾いていました。エルトン・ジョンも聴いていましたが、ほとんどの曲がピアノが中心になっていて。キャロル・キングなどもそうですが、歌の合間に出てくるピアノのオブリガード、(ボーカルに対する)カウンターメロディが好きだったんですよね。歌い手が手癖で弾いているフレーズが多いんですが、それが歌の合いの手になっていて、印象的な旋律をイントロに持ってきたり、ストリングで奏でていることもあって。そういうアレンジのやり方には影響を受けていますね。

ーーピアノには切ないフレーズが似合うイメージもありますね。

島田:そうかもしれないですね。“切な(い)コード進行”というものがあって、キーがCだとしたら、C→E7→Amとつなげることで切なさを表現できる。このコード進行は、ギターよりもピアノのほうが合うのかなと。歌謡曲やJ-POPでもよく使われているし、日本人に刷り込まれている部分もあると思います。

ーーなるほど。洋楽から受けた影響をJ-POPに落とし込む際に気を付けていることは?

島田:先ほども言いましたが、“誰もやっていないサウンド”は常に目指していますね。まあ、誰もやっていないサウンドはじつはなくて(笑)、レジェンドたちが作ってきた音楽を血肉化して、自分のなかにある音楽とミックスしているというか。自分が聴きたい音楽を作りたいという気持ちもありますね。

ーー自分自身が聴きたい音を追求することがヒットにつながる?

島田:いや、ヒットにつながるかどうかは考えません(笑)。意識しているのは、何回でも聴きたくなるということですね。特に今の時代は、たくさんの人が繰り返し聴いてくれたらヒットしたということになると思うので。

ーーヒゲダン、King Gnuの楽曲にも、何度も聴きたくなる魅力がある?

島田:そうですね。ヒゲダンはまず、メロディラインが印象に残りますよね。日本人好みだし、洋楽的な要素もあって。この先、どんなメロディが出てくるのか楽しみです。King Gnuは1曲のなかの情報量がすごく多い印象があって。メンバー4人が好きなようにやりまくっているし、天才に近いミュージシャンが揃ったバンドだなと。J-POPの枠にとらわれない存在だし、ぜひ海外に出てほしいですね。

ーー2010年代以降EDMの世界的トレンドが続いてきましたが、島田さんはやはり、オーソドックスなポップスを追求したい気持ちが強いんでしょうか?

島田:そうですね。DJが作った音楽も素晴らしいし、EDMはこれからも進化するジャンルだと思います。僕は3~4分の楽曲でリスナーを感動させ、大げさに言えば、その人の人生に入っていけるような音楽を作りたいと思っています。ただ、一般的には音楽の作り方はどんどん変わってますよね。打ち込みが中心になって、生楽器をスタジオで鳴らしてレコーディングをする機会が減っている。バンドでもデータのやり取りで制作するのが普通になっているし、“せーの”で楽器を鳴らした時のアンサンブル、ダイナミクスレンジ、抑揚などを体験したことがないのはかわいそうだなと。最近のバーチャル楽器は本当によくできていますが、やはり楽器本来の音を知っていたほうがいいと思んですよ。僕のスタジオにはいっぱい楽器があるので、プロデュースするときは、その音色を活かしてほしいなと。

ーーピアノもそうですが、本当の生楽器の響きを知ることが楽曲制作面にも影響を与えることになると。

島田:安いピアノであっても、その楽器なりの良い音というのがあるんですよ。楽器本来の響きを知れば、バンドのアンサンブルも変わってくるし、そこから新しいアプローチにつながることもあって。音色もそう。アナログシンセで好みの音を作るのは時間がかかりますけど、それがオリジナリティになっていくので。

ーー島田さんがプライベートスタジオを作ったのも、若いミュージシャンに生音の良さを知ってほしかったからなんですか?

島田:もともとは自分が爆音を鳴らしたいから作ったんですけど(笑)、ユニークな楽器が揃っているし、スタジオに来たミュージシャンはみんなビックリしますね。

■島田昌典プロフィール
1961年生まれ、大阪府出身。
80年代後半から音楽活動を開始し、キーボーディスト、 アレンジャー、 プロデューサーとして数多くのアーティストの楽曲制作に携わる。
2001年、自身のプライベートスタジオ「Great Studio」を立ち上げ、鍵盤楽器をはじめギター、 ベースなど数々のビンテージ楽器、録音機材を収集。 ここから数々のヒットソングを創作している。

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