BAD HOP、横浜アリーナ無観客ライブが熱狂を生んだ理由とは? リスクを背負って踏み出せる野心

BAD HOP『Lift Off』

 また、同氏は本公演のステージやSNS上での視聴者のリアクションについても、以下のように述べる。

「中盤(1時間40分くらい)のYZERRのMCが良かったです。「18歳の時に横浜アリーナに来た時は、アーティストとして立つのは無理だと感じたけど、辿り着くことができました。しかし、負債を負って立つとは思っていませんでした」と語る彼を観る時点での僕は、自身を当然のようにファンとして観ていました。しかし「俺は本気でヒップホップが大好きで、この国で流行らせたいという情熱は誰にも負けないと思っています。本気でそう思って毎日生きています。みんなはどうですか? 」と、突如こちらを試してくるような質問に、背筋が伸びる思いになりました。彼らの音楽は彼らの覚悟の産物であり、聴く側にも劣らない覚悟を持つことを望んでいるのではないかと思ってしまいます。会場の熱気の中にいたら、また違って感じたでしょう。距離感があるが故の、観る・観られる立場が逆転したような緊張感もあるんですね。全体的にタイトなショウの最後をT-Pablowが熱っぽいMCで引き締めた後、誰かの気の抜けた「おねがいしまーす」の声で一気に笑いがおきた瞬間、BAD HOPのメンバーたちが川崎のお兄ちゃんたちになる瞬間も良かったです(笑)。

 しかし、今回のライブで気になったところもありました。時折、カメラが引きになる場面があり、リハーサルを見ているような気持ちになったことです。あと楽曲の間に長い沈黙が入るシーンもありました。客席の声が無い分、これもリハーサルを見ている気持ちになってしまいます。おそらく仕方のない事情があるのかと思うのですが、その2点は盛り上がった高揚感を冷ます瞬間でもありました。

 とはいえ、歓声が無くてもSNSの賑わいをチェックしながらライブ映像を観るのは、観客たちの脳内の声が聞こえるようで新鮮でした。様々な見方にリアルタイムで気がつけるのはSNSの良いところだと思います。引き合いに挙げるには異なる部分もありますが、L'Arc-en-Cielのファンたちが同じ横アリで中止された公演を、あたかも公演されたかのようにツイートする#エアMMXXも話題となりました。#エアMMXXでは、本人たちも乗ったことでSNS上が大いに盛り上がり、ライブは存在しないのにタイムライン上に会場が出来、生のライブ体験とはタイプの違う楽しみ方でした。ネット上で楽しむのと、現場で楽しむのでは、どちらが好きか決めるのは個人の自由だと思うので、今後もネットでのライブ中継が一般化するといいなと思います」

 同氏が述べていたように、BAD HOPの「勝負時には危ない橋でも渡ろうとする」覚悟は見る人に強い憧れを抱かせることだろう。また、彼らのリリックに重みを感じるのは、そんな彼らのリアリティを実際にリスナーも目の当たりにしているからなのかもしれない。いくつかの懸念点もあったにせよ、本公演はこれから活躍するであろう次世代のラッパーやアーティストに大きな影響を与えるライブであったことは間違いない。

 現在BAD HOPはクラウドファンディングおよび投げ銭を実施中。すでに3000万円以上の支援が集まっているようだ。いくつもの伝説を残してきたBAD HOP。彼らの今後の動向も随時追っていきたい。

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