Eveの音楽と映像に誘われた“胡乱な食卓”の世界 東京国際フォーラムで迎えた壮観のツアーファイナル
Eveが仙台、名古屋、大阪、広島を巡った『winter tour 2019-2020「胡乱な食卓」』のファイナル公演を1月11日、東京国際フォーラム ホールAにて開催した。
Eveのワンマンライブは、会場に足を踏み入れた瞬間から始まる。今回はロビーに動くオブジェのフォトスペースや、Eveの映像作品ではおなじみのキャラクターで「モナ・リザ」「最後の晩餐」などの名画をオマージュした肖像が飾られており、来場者は早くもライブの世界観へと誘われた。開演前の場内では、怪しげな館の中で思い思いに過ごすキャラクターたちの映像をリピート上映。ハンドベルの音を合図に映像が進み、時計の秒針と鐘の音が聞こえると会場のどよめきの声が大きくなる。バイオリンの調べと体の芯まで響く重低音に包まれる中、映像の館の中にEveの姿が現れた。
今回のライブでは、音楽と映像を用いて表現するEveのアーティスト性が最大限発揮されていたように思う。自らの姿よりも映像やそこに映し出される歌詞が引き立つ曲もあれば、映像の中に溶け込んだ姿を印象的に用いたり、逆に自らの姿だけにフォーカスを当てるなど、各曲の世界観をもっとも伝えるに相応しい視覚的演出を取り入れつつ、全体として一つの物語が進んでいくような流れを生み出していたのがこれまでのライブと異なる点だった。
1曲目は新曲の「LEO」。館のシチュエーションでは、前方の紗幕と後方のスクリーンの間にEveが立つことで映像と一体化。燭台の蝋燭に囲まれ、Eveが歌う言葉が次々と舞い降りてくる。低音をベースにした余白のある音作りもただならぬ緊迫感と熱を生み出していた。大粒の雨に蝋燭の火が消されると、象徴的なイントロから「トーキョーゲットー」へ。前方の紗幕が下りた「ナンセンス文学」、スクリーンが割れるエフェクトから始まった「アウトサイダー」は、観客とコミュニケーションを取りながらライブ感あるパフォーマンスを見せた。
Eveがホールでライブをするのは、今回のツアーが初。軽く交わした挨拶の中で、目の前の景色に圧倒されたと告げ、Eveが初期に作った大切な歌としてギターを手に「sister」を歌った。教室の窓外に黒板アートで物語が描かれるノスタルジックな映像を背に、原点とも言えるこの曲をホールクラスで披露したのは、Eveにとっても感慨深いものがあったのではないだろうか。
映像の中で雨が降り出すと、舞台は再び怪しい館の中へ。水槽の中に潜り歌われたのは、トロピカルハウス調の「やどりぎ」。振り返れば、この日のライブの中で一曲を通して歌詞がしっかり映し出されたのはこの曲だけだった。〈矛盾した衝動はぼくを育てるのかな〉など、Eveが紡ぐ印象的な言葉の数々にも意識が向かう。水槽の水の泡は雫に変わり、その質感も鮮明に描かれた「楓」の舞台は絵画の中。温かみのあるバンドサウンドに乗せ、語りかけるようにして同曲が歌われた。
Eveが2月12日にリリースするアルバム『Smile』の中で初めて出来た曲であり、昨年の今頃出来た思い入れのある曲と説明があった「闇夜」は、Eveの新境地となった弦のサウンドも取り入れたミドルテンポのナンバー。ロビーにも飾られていたキャラクターたちの肖像や同曲ジャケットイラストが並ぶ額縁をバックに優雅に歌唱した。歌い終えると額縁は車窓に姿を変え、Eveの優しい歌声とともに「君に世界」の美しい景色が移りゆく。その後、館のエレベーターが上昇する中で歌われたのは、新曲「胡乱な食卓」。「LEO」同様に音数は絞られ、ボーカルエフェクトも用いた新たなEveの音楽性が提示された一曲だ。インストゥルメンタルの「fanfare」は過去楽曲のイラストがフラッシュバックし、これまでの作品を糧にEveが覚醒するかのような様子が映像と演奏で体現された。