くるりとミツメによる“記念碑的”対バン 両者が日本のインディーロックに与えた影響とは?
ただただアレンジを闇雲に変えていてはバンドとしての統一感を欠く懸念も否めないわけだが、くるりもミツメもこれまで決してそんな破綻を起こしておらず、そこが興味深い共通点でもある。それはおそらく、彼らの「らしさ」が、芯に持っているソングライティングのピュアさから生み出されているものだからだろう。くるりはビートルズを一番の影響源に挙げる(参考)だけあり、実験性と歌モノとしての普遍性を常にバランス良くアウトプットに反映しているのが見事であり、一方のミツメはボーカル・川辺素のピュアな歌を活かすようにアンサンブルに余白を残したり、アンビエントで奇妙なシンセサウンドで空間を際立たせるのが抜群に上手い。両者の直近作である『ソングライン』(くるり/2018年)と『Ghosts』(ミツメ/2019年)はそれぞれその極地のアルバムとも言えるだろう。
ミツメは今年結成10周年。若手から中堅に差し掛かる彼らの存在もまた、後進のアーティストに少しずつ影響を与えているように感じられる。例えば、MONO NO AWAREなどはどうだろう。アレンジの振り幅こそくるりやミツメよりは狭いとはいえ、日本的なポップさが持ち味の歌メロ、コロコロと転がり変化していく展開や各パートが饒舌に絡み合うようなアレンジに、既定のバンドアンサンブルに囚われない発想力を感じさせるあたりは、彼らと通じるところがある。加えて最初期から当たり前のようにさらりとシンセサウンドも取り入れているあたりはまさに“ミツメ以降”のバンドらしいと言っていいだろう。
そんな歌心と自由に飛躍する発想力を持ったアレンジの両立を、インディーシーンのバンドが衒いなくできる道筋を作ったくるり。そしてその土壌を肥沃なものにしたミツメ。いい意味で“ポップな変人”たちである彼らの邂逅は、まさに今、日本のインディーロックバンドがどうあるべきかを示す記念碑的な意味を持つことだろう。チケットを手に入れることができた人はぜひ、彼らの作ってきた道に想いを馳せながら、来たる共演を堪能してほしい。
■井草七海
東京都出身、ライター。 2016年頃から音楽関連のコラムやディスクレビューの執筆を始 め、現在は音楽メディア『TURN』にてレギュラーライターおよび編集も担当。