くるりが12人編成で届けた豊かな音楽体験 『ソングライン』ライブで再現した中野サンプラザ公演
今年9月におよそ4年ぶりのニューアルバム『ソングライン』をリリースしたくるりによる、『くるりワンマンライブ2018』が10月8日と9日、東京・中野サンプラザにて開催された。
筆者が観たのは2日目となる9日。定刻になり客電が落ちると、ステージ後方の幕が降ろされる。すると、アルバム『ソングライン』のジャケットをモチーフにした大きなスクリーンと、巨大なタイトルロゴが現れ客席からは大きな拍手が上がった。
続いてメンバーの岸田繁(Vo/Gt)、佐藤征史(Ba)、ファンファン(Tp)、サポートメンバーの松本大樹(Gt)、湯浅佳代子(Tb)、副田整歩(Sax/Fl)、梶谷裕子(Violin)、徳澤青弦(Cello)、毛利泰士(Mp)、朝倉真司(Dr、Per)、野崎泰弘(Key)、山本幹宗(Gt)という総勢12名がステージに上がり、まずはアルバムの1曲目「その線は水平線」からライブがスタートした。
乾いたディストーションギターを岸田がかき鳴らし、その音に導かれるように次々と楽器が積み重なっていく。朝倉の叩くタメまくったドラムと、休符を意識した佐藤のグルービーなベースがじわじわと聴き手の心と体を温めていく。開演前から焚かれていたスモークに青白いバックライトが差し込むと、まるで朝靄の中で水平線を眺めているような、幻想的な気分になった。続く「landslide」では、岸田が軽やかに爪弾くアコギと松本のバンジョー、山本のマンドリンが、朝倉の叩く太くて柔らかい、同時に輪郭のざらついたカホンのリズムの上で、まろやかに溶け合う。「その線は〜」とは対照的な、オレンジ色の照明が上方から夕日のように差し込み、バイオリンの切ないフレーズと共に郷愁を誘っていた。ポール・マッカートニーの「New」を彷彿とさせるイントロが、遊び心たっぷりな「How Can I Do?」では、佐藤がベースをコントラバスに持ち替え、ホーン&ストリングスセクションと共にチェンバーポップなアンサンブルを彩る。サビで〈How Can I Do?〉とリフレインするシンプルなメロディ、その後ろで様々な楽器が入れ替わり立ち替わり、目まぐるしく変化していく和声がとにかく楽しい楽曲だ。対位法などを取り入れたこのマジカルなアレンジは、2007年のウィーンでのレコーディングから深まった、岸田のクラシックへの関心が結晶化したもののひとつだろう。
「えー、オープニングからここまでの3曲を、アルバムと全く同じ曲順でお送りしてきました」
ほとんどの観客が薄々気づいていたことを、岸田がそう切り出したことで客席から安堵のような笑いが起きた。そう、この日は『ソングライン』の全曲再現ライブで、おそらくそのために12人編成が組まれたのだろう。
「と、思わせておいて、次でMetallicaのカバーやったりしてね」などとジョークを飛ばしつつ、タイトル曲「ソングライン」へ。うねるような佐藤のベースライン、ラヴェルの「ボレロ」を引用したファンファンのトランペットソロ、サビ終わりのブレイクでフィーチャーされるメロトロンの音色など、バンドのアイデアを「これでもか」とばかりに詰め込んだ、エクストリームなアレンジが圧巻。The Beatlesの「Dear Prudence」をオマージュしたエンディングでは、松本による長い長いギターソロが炸裂。岸田は満面の笑みを浮かべながら、「もっともっと!」と彼を煽っている。最後は岸田のコンダクトに合わせ、徐々にテンポアップしていくバンドアンサンブルが突然終了。一瞬の静寂のあと静かなアルペジオでエンディングを迎えると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
畳み掛けるように、プログレッシブなインスト曲「Tokyo OP」へ。複雑な変拍子や、入り乱れるポリリズムがオーディエンスを圧倒する。変則チューニングの練習曲から思いついたという岸田のギターリフに、徳澤のチェロや梶谷のバイオリンが一糸乱れぬユニゾンで応戦する。かと思えばポルタメント奏法で不穏な不協和音を醸し出すなど、阿鼻叫喚のサウンドスケープを作り出していた。
8人編成で「風は野を越え」を披露。スタジオでセッションしながら作ったというこの曲は、“わかりやすいカタルシス”を迎えることなくダラっと進んでいく彼らの真骨頂とも言えるもの。ルートを避けるように動き回る佐藤のベースが、つかみどころの無い浮遊感を見事に醸し出している。さらに、ハネるような朝倉のフィルがリンゴ・スターを彷彿とさせる「春を待つ」、岸田がハンドマイクで歌う「だいじなこと」と、ゆるやかに楽曲が進んでいく。「だいじなこと」は1分半の小曲だが、後半で転調した瞬間に客電がつき何とも言えない高揚感に包まれる。弾けるようなホンキートンク調のピアノと、「How Can I Do?」と同じくサビで毎回変わっていくアレンジが楽しい「忘れないように」は、後半でファンキーな展開を迎える構成がゾクゾクするほどスリリングだった。