Ghost like girlfriendが語る、メジャーデビュー作で示したシンガーソングライターとしての信念

Ghost like girlfriend、メジャーデビュー作で示した信念

 岡林健勝によるソロプロジェクト、Ghost like girlfriend。一昨年頃から徐々にネクストブレイク候補として注目を集めてきた彼が、いよいよメジャーデビュー作となるアルバム『Version』をリリースする。

 アルバムは、『WEAKNESS』『WITNESS』『WINDNESS』という3枚のミニアルバムで追求してきた幅広いサウンドセンスと、その核にある歌としての芯の強さを込めた一枚だ。インタビューでは、その制作過程から、シンガーソングライターとしての彼の信念まで、話を聞いた。(柴那典)

40年後、50年後に歌っていることを意識した

ーーアルバム『Version』を聴いて、これは「歌のアルバムだ」と思いました。いろんなジャンル、いろんなサウンドをやっているけど、真ん中に歌があることが伝わってくる印象でした。

岡林:すごく嬉しいです。

ーーアルバムはどんなものを目指して作っていたんでしょうか?

岡林:今回は「一生もの」っていうテーマで、いろんな種類の曲を詰め込むことをコンセプトとして作ったんです。制作の際には、弾き語りで作っていたんですけど、自分が40年後、50年後、おじいさんになった時に歌っていることを意識していて。この音源のアレンジやキーやテンポ感で歌えたら、それはそれで格好いいと思うんですけど、テンポやキーを落としたり、違うアレンジで歌ったらどうなるんだろうとか、そういうことを考えながら作っていたんです。それくらい、歌を意識していました。

ーーなるほど。いろんなスタイルの曲をやるということを志向しつつ、アレンジやサウンドメイキングの部分は、言ってしまえば服のようなもので、歌はどんな服に着替えても残っていく、と。そういうイメージがあったということでしょうか?

岡林:そうですね。昔からシンガーソングライターっていう自負でやっていたので、その意識はあったんですけれど、今回はさらに強かったです。詞曲が自分の芯であるということをアピールしていきたいという。

ーーGhost like girlfriendという名義で活動を始めた当初はユニットっぽいイメージも、匿名性のメリットもあったと思うんです。でも、岡林健勝という名前も、顔も明らかにした。その上でシンガーソングライターの自負を持って、歌が真ん中にある音楽を作るというのは、いわばシンガーソングライター像のアップデートのように思うんですね。そのあたりはどうでしょうか。

岡林:ほんとに仰っていただいた通りですね。歌詞と曲とアレンジという3つの要素のうち、全部を同時に磨いて精度を高めていくという人は、自分の周囲で知っている中には見当たらなくて。だからこそ自分がやるっていう使命感も抱いていいんじゃないかと思って。そういう意志から、Ghost like girlfriendは始まっているんですけれど、それがさらに強まった結果できたアルバムという。

ーー前の取材では、『WINDNESS』に至る3枚のミニアルバムが三部作のようになったのは結果論だったと仰ってましたよね。でも、この『Version』というアルバムは、そうじゃないと思うんです。おそらく最初から確固たるビジョンを持って作っていったんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?

岡林:まさしくそうです。初めて作るフルアルバムだったし、これでメジャーデビューというのもあったので、自分の人生史を振り返る時にあまりにも目立ってしょうがないアルバムになるだろう、と。なので、そういう意味でも「自分はこういうものです」っていうのを、聴いてくださる方、まだ知らない方、それに自分自身に対しても言えるようなアルバムにしようということを考えました。あと、この先、一生続ける所存ではあるんですけど、その中で血迷って迷走した時に、自分で何をどうやって作ってたんだっけっていうのがわかる道しるべ的なアルバムにはしたかったので。そういう感じですね。今までインディーズ3枚で広げてきた風呂敷の上で暴れまわるような楽曲もあれば、まだ広げていないところ、耕していない畑を改めて耕すような作業もしようと、新しく開拓し始めようって気持ちで作ったアルバムではあります。

ーーなるほど。気負い方としては、かなりでかいスケールですよね。

岡林:そうですね。

ーー岡林さんって、今、年はおいくつでしたっけ?

岡林:24です。

ーーお話を聞いていると、50年後の自分、74歳になった自分がタイムスリップして今の自分に会いに来てる感覚がどこかにありそうな気がするんです。

岡林:あはははは! でも、それはわりとあるかもしれないですね。毎回そういう気持ちはあります。「fallin’」という曲も、50年後に歌ってても恥ずかしくないように作りましたし。そういう気持ちで3枚ミニアルバムを作ってきたので、「どういう曲だったら一生誇っていられるか」っていう芯みたいなものはできあがっていて。その基準を指標にしながら作ったと思います。

ーー特に1曲目の「Last Haze」は、そういうことを象徴している曲だと思うんです。この曲ができたタイミング、自分の中の位置づけはどんな感じでしょうか?

岡林:この曲が、アルバムを作ろうとなった時に最初にできた曲ですね。去年の11月なんですけど、いろんなことがあって、人生史上一番体調を崩しまして。病院3件くらいまわって、MRIを受けたりして、メジャーデビューが決まったと言われたけど、その前に死ぬだろうなと思って。結果的に、診察結果を見たらストレス性の何かだったらしくて。人よりはむしろ健康体だったっていう、あっけないオチだったんですけど。「あ、まだ生きられるんだ」って思った時に、安心感を覚えたというか、トンネルを抜けた感じになって。その時にサビで歌ってる歌詞の原形のような言葉がすっと出てきたんです。

ーーそれが〈明日死んでも良いなんて全て叶うまで無しにしようぜ〉という一節だった。

岡林:そうです。で、これを形にしたいと思って。イメージとしてはGhost like girlfriendなりの「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」(浜田雅功と小室哲哉のユニット・H Jungle with t)みたいな曲にしたいと思ったんですよ。それで「WOW WAR TONIGHT」を聴きながら年末を過ごして、今年の1月1日にフルコーラスを作ったんです。その日に作ったのは、空気レベルから幕開け感を取り入れたいなと思って。そういう、原点にして頂点みたいな曲を作りたいなと思って作ったのがこの曲でした。

ーー「WOW WAR TONIGHT」というのはどういうイメージなんでしょう?

岡林:自分が求めている音楽が、どういうコンディションでも楽しめる音楽というものなんです。楽しい気持ちで音楽を聴いてるとメロディやアレンジに耳がいくんですけど、失恋したとか体調が悪いとかだと、歌詞に耳がいくようになるのってあるじゃないですか。どういうコンディションになっても、違う視点から楽しんでもらいたいというか。楽しい時に聴いたらすごく楽しい曲だと思うんですけど、暗い時に聴いたら号泣できる。どのコンディションでも楽しめる曲が2つあって。それが究極を言うとはっぱ隊の「YATTA!」と、浜田さんの「WOW WAR TONIGHT」なんですよ。歌詞は世知辛くて、でも曲調は明るくて、そういう、いろんな要素を詰め込んで、アンバランスになりそうなんだけどバランスが整っているものを作りたい。これまでもそういう自負はありますし、これからもその精度を高めたいと思っていたので。だとしたら、自分としての極みみたいな曲を作らなきゃいけないと思ったんです。

Ghost like girlfriend - Last Haze【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ーーなるほど。いろんな意味で、この曲がオープニングにあるのはとても重要なことだ、と。『Version』っていうタイトルは最初から決まっていた言葉だったんでしょうか。

岡林:そうですね。元々は1stミニアルバムの『WEAKNESS』の仮タイトルが『Version』だったんです。マスタリング直前まで『Version』っていうタイトルで行くと決めていたんですけど、スタッフさんとの話し合いもあって「まだ、これを使うには早い」となったんです。この人が何者なのかっていうことをちょっとでも知られていないと漠然としたアルバムに見えてしまう。だから、名刺となる作品が揃ったタイミングで使おうと言われて、たしかにそうだと思ってずっと温存していたんです。

ーー全然前の段階からあった言葉だったんですね。

岡林:3年前からありました。で、この3年かけて3枚のミニアルバムで「自分はこういう者です」ということを提示してきて、ここにきてフルアルバムでいろんなバージョンの曲を収録できるタイミングが訪れたので。あの時に言われていたことや、自分が考えていたことはこの3年でクリアできたし、なおかつ自分がチャレンジしたいことを叶えられた時に最もふさわしくなるタイトルはこの『Version』だなと思って。なので、最初に『Version』って名付けてから、どういうアルバムにしようかと考えていったんです。

ーーでは、3年前の『WEAKNESS』の時に『Version』と付けようとした真意は、どういうものだったんですか?

岡林:それは、本名名義で、店舗限定ではあったんですけど、一度ミニアルバムを出して、結果的に誰にも知られることなく終わったということがあって。で、改めて自分の人生としてリスタートできるようなアルバムにしようってことで、『Virgin』っていうタイトルを最初に付けようと思ったんです。ただ、本名名義でミニアルバムを作った時よりは自分の幅は広がったと思っていたので、響きが近い言葉で『Version』はどうだろうかっていう。

ーーで、その時の思いが、今もちゃんと続いている。むしろその思いをちゃんと説明できる土台を作ってきた自負がある、と。

岡林:そうですね。たぶん、誰にも知られていない状態で「いろんな種類の曲を収録しました」って言っても説得力が生まれなかったでしょうし。「そうなんですね、わかりました」って言って、聴かないという選択肢をとる方の方が多かったと思うんです。

ーーそうなんです。これは、僕もまさに思ったところで。いろんなタイプの曲が入っているということは、逆に言うと、キャッチコピーがつけづらい。

岡林:ははははは。

ーーたとえばラジオとかテレビの音楽番組で「Ghost like girlfriendの音楽性はここが魅力です」みたいなことを5秒で喋ろうと思ったら、なかなか難しい。でも、『Version』っていう言葉が持っている意味合いは、たぶんそういうことですよね。

岡林:そうですね。名刺となるような曲、この人はこういう曲を歌っているよねっていうようなイメージになる代表曲がないと「いろんなものがあります」って言ってもしょうがないので。要は以前よりは自分に自信がついた証でもあるかもしれません。

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