アルバム『Version』インタビュー
Ghost like girlfriendが語る、メジャーデビュー作で示したシンガーソングライターとしての信念
今の自分が作った曲を歌い続けられるか
ーー2曲目の「girlfriend」はアルバムの中ではどういう位置付けなんでしょうか。岡林:これは、それこそ代表曲というか、この人はこういう曲を歌っているということが一発でわかるような曲を書きたいなと思って書いた曲なんですね。なので、自分の顔が表に出るまで姿形代わりに使っていたロゴを見ながら作った楽曲で。聴いてくださる方が、あのロゴを浮かべてくれたらいいなと思いながら作ったという。なので、「Last Haze」が自分の音楽を続けていく所存というところから一生を歌っているとしたら、自分の作家性っていう枠組みから見る一生を体現したのが「girlfriend」という。どっちも自分にとって名刺になる曲です。
ーーただ、アルバムは「Last Haze」や「girlfriend」の感じでずっと続く感じではないですよね。中盤からどんどんドロドロした、生々しいものになっていく。そういう意味で、アルバムの流れや構成はどういうふうに考えてらっしゃったんでしょうか。
岡林:もともと『Version』っていうタイトルを最初に決めて、11曲収録するということを決めて、自分の理想のアルバムはどういうテンポ感のものが何曲目にくるのかっていう設計図を書いたんです。で、レコードよろしく前半と後半、表と裏っていうふうに作った方が、中だるみせずに全力を尽くし続けられると思ったので、6曲目の「あれから動けない」っていう楽曲でまず一幕終わる構成になってるんですね。で、7曲目「shut it up」でまた後半の幕開けになる。こっちは裏のことなので、前半の名刺となる楽曲が続いていた表面より、さらにグロテスクなことを歌っている。そういう作り方ですね。
ーーなるほど。設計図が最初にあったと。
岡林:そうですね。そこから作りました。
ーー「あれから動けない」が前半のラストになっている、というのは?
岡林:この曲は、ずっとお付き合いしていた人と別れて、忘れる決心をするみたいなところで終わるんですけど、でも「あれから動けない」っていうタイトルは、踏ん切りをつけられていないんですよね。それ以降、ビジョンが見当たらない、同じところでループし続けるという。そういう意味としても、一旦アルバムの流れとして終わらせているというか。
ーーでは、11曲目「feel in loud」はどうでしょうか。自分のデビューアルバムがこんな風に終わりたいっていうイメージは、どういうところにあったんでしょう。
岡林:これは曲調からですね。最後の曲を何にするかっていうのが、一番時間がかかって。これはアルバム用に作った楽曲ではないんですけど、完成したらここにふさわしいとピンとくるものがあって。まだ何も決まってないし、デモもないですけれど、次のフルアルバムの1曲目のBメロを、この最後の「feel in loud」のBメロから持ってこようと思っていて。
ーーおお。
岡林:この作品と次の作品で一つになるものを作ろうと今思っているので。そういう意味でも、次があることを自分にも思わせたかったですし、聴いてくださった方にも想いとして残したかったので。なのでこの曲を最後に持ってきたっていう感じですね。
ーーアルバムにはKing Gnuの常田大希さん、赤い靴の神谷洵平さん、元LILI LIMITの土器大洋さん、DATS/yahyelの大井一彌さんなど、いろんな人たちが参加していますよね。みなさん、もともと付き合いのあるミュージシャンなんでしょうか?
岡林:もともとご挨拶程度に接触があったのが神谷さんで、土器さんは、家が近所で去年ぐらいからよく一緒に遊ぶようになって。そのお二方は面識があったんですけど、他の常田さんと大井さんに関しては、ほんとに何の接点もなく、いきなりオファーをさせていただきました。
ーーじゃあ、一緒にやりたいですっていうラブレターを書いた?
岡林:そうですね。こういうことをしたいんですけど、どうでしょうか? ってお伝えしたら、受けてくださったという。
ーーこれは改めて聞きたいんですが、シンガーソングライターの美学として、全てを一人でやるっていうのは当然ありますよね。と同時に、今の時代のシンガーソングライターって、世界的にもアレンジャーやプロデューサーみたいな方との共同制作になっているのがほとんどである。それに加えて、今回のアルバムでは常田さんのように裏方的な人ではなく自身の色を持っている人に、その味を出してもらおうという作りになっている。それは、どういう考えだったんでしょうか。
岡林:まあ「仲良くなりたい」っていう単純な思いもあるにはあるんですけど。例えば常田さんに参加していただいた「Midnight Rendez-Vous」はアーティストやクリエイター目線の曲なんです。夜中に作品作りをしていて、ゼロからイチが一滴生まれるさまを綴った楽曲なんですけど。で、今、日本の音楽シーンでそういうゼロイチの作業をものすごい濃度でやっている方が常田さんだと思っていて。曲調の泥臭さとも楽曲のコンセプトとも合いそうだなっていうことで、声を掛けさせていただいて。常田さんだけでなく、自分一人だけだと天井が見えると思ったときに、その天井を超えさせてくれるような方々に声を掛けさせていただきました。
ーーなるほど。お話を聞いていて思ったんですが、今の時代、シンガーソングライターというアートフォームって、やれることが沢山ありますよね。
岡林:ああ、そうですね。
ーーさらに言うならば、この取材でも前の取材でも「シンガーソングライターとして曲、詞、アレンジの3つを全部突き詰めることを丁寧に誠実にやっていこう」ということ念頭に置いてやってきた、と。で、時流を考えても、そういう人が評価されている流れがあると思うんです。
岡林:なるほど。
ーー佐野元春さんとか岡村靖幸さんだって歌詞と曲とアレンジの3つの武器を研ぎ澄ましてきた人であるわけで。結局のところ、そういうあり方って、シンガーソングライターとしての一つの正解なんじゃないかと思うんです。だから、最初に仰った「74歳になった自分が歌ってて恥ずかしくない曲」っていうのは、そういうことなんじゃないかと思ったんです。
岡林:嬉しいです。ありがとうございます。
ーーシンガーソングライターというところで言えば、今挙げた以外にも、たとえば吉田拓郎さん、小田和正さんのように、いろんな先人たちがいますよね。売れたとか売れてないとか、キャリアがあるとかないでランク付けしちゃうと、おこがましいとかそういう話になっちゃうかもしれないけれど、少なくとも自分で作った歌を自分で歌うというところにおいては同じ土俵に立っている。彼らがそうであるように、自分もそうありたいっていう思いはあるんじゃないでしょうか。
岡林:まさしく、そうです。特に佐野元春さんって、うちの母親がもともと大ファンだったり、「ヤングブラッズ」を今でも歌っていたりもするので。なんでシンガーソングライターをやってるんだろうって、たまに考えたりするんです。もともとバンドを組みたくて、その準備期間として曲を作ってたんですけど、結局バンドも組まずに一人でやっていて。それって、なんでなんだろうって。でも、自分が将来的になりたい道があって、それに必要な選択肢を必然的にとったということなのかもしれない。今の自分が作った曲を歌い続けられるかどうかって、そういうことでもあると思うんです。運命と言ったらおこがましいですけど、それに近いものを、話を聞いていて思いました。
(取材・文=柴那典/写真=池村隆司)
■リリース情報『Version』
発売:6月19日(水)
<初回限定盤(2CD)>
価格:¥3,200(税抜)
<通常盤(CD)>
価格:¥2,800(税抜)
<CD収録内容(初回限定盤、通常盤共通)>
1. Last Haze
2. girlfriend
3. Midnight Rendez-Vous
4. sands
5. pink
6. あれから動けない
7. shut it up
8. burgundy blood
9. Under the umbrella
10. fallin’
11. feel in loud
<初回限定盤ボーナスCD収録内容>
・fallin’(AmPm remix)
・煙と唾(EVISBEATS remix)
・(want)like(lover)(パソコン音楽クラブ remix)
・髪の花(SASUKE remix)
・Tonight(Night Tempo remix)
・cruise(TiMT remix)
■ライブ情報
『Ghost like girlfriend 「Tour Virgin」』
7月1日(月)恵比寿・LIQUIDROOM OPEN 19:00/START 20:00
7月4日(木)大阪・Shangri-La OPEN 19:15/START 20:00