『壊れたピアノとリビングデッド』ツアーインタビュー
MUCCが語る、“ホラー”コンセプトのZeppツアーと新たな編成で掴んだ手応え
“ホラー”をコンセプトにしたミニアルバム『壊れたピアノとリビングデッド』リリース後、先日4月1日までZeppツアーを開催してきたMUCC。今回リアルサウンドでは、2014年以来となるメンバー全員へのインタビューを行った。吉田トオル(Key)を迎えて5人で行なわれたZeppツアーを振り返りながら、5月1日の中野サンプラザ公演から新たにスタートするホールツアー『壊れたピアノとリビングデッド feat. 殺シノ調べ』への意気込みを聞いた。(編集部)
鍵盤が入ることでアレンジに余白が生まれて、ギターが自由になる(ミヤ)
ーー本題へ入る前に最新作『壊れたピアノとリビングデッド』(以下、『壊ピリ』)について聞きますが、もともとあのミニアルバムは予定していた作品ではなかったと?
ミヤ(Gt):そうっすね。今年はツアーの中で新曲を披露していって、最終的にそれをアルバムにしようっていう話だったんで、ここでミニアルバムを出す予定はなくて。でも結果的に「ホラー」っていうコンセプトが浮かんだことでああいうものができたっていう。
ーーそのコンセプトがそのままZeppツアーにも生かされた、と。
ミヤ:たまたまZeppっていう会場がどこも構造が一緒だったので、コンセプトありきのセットを組んだツアーがやりやすいっていうのもあって、より作り込んだ感じの演出をしようっていう方向に転んでいった感じですね。
ーーちなみに作品に対する周りの評判はどうでしたか?
逹瑯(Vo):意外と良かったですね。急ピッチで作ったアルバムだったからあんまり実感なかったけど、評判は良かった。
YUKKE(Ba):俺の場合、自分からアルバムの評判を聞きに行ったり探したりすることが多いんだけど、今までのアルバムより話題になってましたね。やっぱりコンセプトがしっかりあるアルバムって伝わりやすいんだなって。そもそもMUCCってコンセプチュアルな作品が得意なバンドだなっていうことと、ホラーっていうキーワードもバンドが昔から持ってる顔のひとつで、それをここまで突き詰めてやったことが良かったんだと思う。
SATOち(Dr):俺はいつもよりレコーディングが楽しかったです。ミヤがエンジニアもやったことも大きいのかなって。バンドがコンセプトに向かってひとつになりやすかったというか。
ーー成り行きとはいえコンセプチュアルな作品があったことで完成したツアーだったと思うんです。で、そういう成り行き任せでバンドが面白い方向に転がっていくのもMUCCらしいなと思うんですが。
ミヤ:でもあのアルバムは新しい作品を作ってるっていう感覚よりも、ライヴの演出を考えてるような感じで。つまり、すでにあるものをプロデュースしたり仕上げたりしてる感覚でしたね。悪く言えばそのままじゃ外に出せないようなモノをちゃんとした作品にしていく作業、みたいな。
ーーそもそも『壊ピリ』は形にならなかったデモ曲を掘り起こしたところが出発点だったわけで。
ミヤ:それもあるし、今回はどの曲もホラーっていうテーマに寄せていった結果、エンターテインメントの要素がいろいろと紐づいてきて、ツアーもああなったっていう。
ーー最近のMUCCはここまで作品やライヴをコンセプトに寄せていくことはなかったと思います。
ミヤ:でも俺はもともとそういうことが好きでバンドをやってるんで。エンターテインメントの要素を入れないで、唄いたいこととか伝えたいことだけを楽曲で表現するならフォークソングでいい。でもそれをロックバンドの楽曲としてやりたいから。それが今回は極端に明確だったというか、いつもより盛ってる感じですね(笑)。
ーーその結果、鍵盤に吉田トオルさんを招き、さらにアーティスト写真でもメイクと衣装をまとった彼を登場させるという(笑)。
ミヤ:それもコンセプトをここまで前に出さなかったらやらなかったことで。例えばコンセプトがなかったら入れなかった曲にまで、トオルさんが弾くオルガンが入ってる。「サイコ」とかはオルガンがなくても成立する曲だけど、オルガンが入ることでホラーっぽくなるし世界観が広がって。ちなみに『壊ピリ』のデモ曲の配信も始まっているので、そっちはオルガンが入ってないから聴き比べてほしいんですけど。
ーーツアーはそのコンセプトに寄せた内容でしたね。ライヴを観てて4人が楽しそうにやっているのが意外でした。というのもコンセプチュアルなライヴって演出とか決めごとが多くて、メンバーは大変なんじゃないかと思っていたので。
逹瑯:そういう大変さはなかったですね。やっぱりもともと好きなもの――ホラーっていうコンセプトが自分らの血に入ってるものなんで、曲ごとの世界観とか歌詞とか、そういうのがスルッと自分の中に入っていく感覚があって。しかもそこに背景とか演出がいつもより盛られてるぶん、自分の表現に額縁がついてるような感じだったから、むしろ個人的には楽でした。
YUKKE:俺も逹瑯と近い感覚でしたね。MUCCに入った頃からホラーっていうコンセプトを持っていたというか、MUCCにおけるYUKKEというキャラクター自体がそうだったから。それを今になってここまで出せるのが楽しかったですね。あと、20周年の時に『哀愁のアンティーク』とか、初期のアルバムのツアーを経験したことが活かされた感じがする。あそこで一回昔のMUCCのホラーっぽさを取り戻したぶん、今のライヴはやりやすいですね。
SATOち:トオルさんが入ったことでドラムの位置もちょっと変わったし、いつもと違って緊張するかな? と思ったけど、いつも通りにやれました。あと、トオルさんが入ってライヴ中アイコンタクトをする人が1人増えたぶん、演奏で上手くいかないところもあって。でもそれが逆にライヴっぽいというか、演出に合わせて自分らをカッチリ作り込まなくてもやれる感じになってるんだと思います。
ーー昔のMUCCはコンセプトとか世界観に振り回されてる印象があったけど、今回はそんなこともなくて。作品もライヴもコンセプト自体を楽しめてる感じがあります。
ミヤ:そこまでガチガチに作り込んでやってるつもりはなくて。例えば演奏とかステージに立つ上での気分は、普段どおり。もちろん曲とか演出によってステージングがいつもと変わることはあるけど、それも無理してやってることではないので。あと、トオルさんの音が入ったことで、自分がギターで遊べるようになったんですよ。鍵盤が入ってくることで曲のアレンジに余白が生まれて、そのぶんギターが自由になる。
逹瑯:ピアノが入ったことでむしろガチガチじゃない、良い意味でルーズな演奏を楽しめるというか。セッションじゃないけど、ガッツリ決め込まないところに楽しさを見い出させるポイントがあって。
ーーそれだけトオルさんが大変だってことでもあると思いますが(笑)。
逹瑯:それはそう思います(笑)。
ーーでもこれだけ長く4人でやってきたバンドにポンっと入ってきて、ステージであんなになじめる人っていうのも珍しいかも。
YUKKE:コンセプトもちゃんとわかってくれてるし、トオルさんはステージングも面白いんですよ。「自己嫌悪」の時にミヤがギターを剣に見立ててメンバーを刺す場面があるんですけど、あれをやられた時のトオルさんのリアクションが最高で。刺されて鍵盤の下から這い上がってくるところなんか、マジでゾンビだから(笑)。
ミヤ:あれは完全にトオルさんのアドリブっすね。打ち合わせもしてない(笑)。
ーーそういうアドリブまでメンバーでもない人がやってしまうノリがすごく重要だと思います。普通だったらサポートメンバーとしてステージに端っこで――。
ミヤ:トオルさんはサポートじゃないっすよ。ステージであれだけのことをやったらもはやメンバーですよ(笑)。
YUKKE:ちゃんとMUCCのポスターにサインしますからね、トオルさんも(笑)。
ーーそういう存在がバンドにいることで、4人の風通しが良くなったところもあるんじゃないですか?
逹瑯:そうですね。いい意味でトオルさんは適度に無責任でいてくれるんですよ。もし本当のメンバーになったら、たぶん今みたいにライトな感じで意見をしてくれることも難しくなる。変に抱え込まず、柔軟で、重たくなりそうなバンドの空気をいい感じでかき回してくれる。そこがいいですね。
YUKKE:トオルさんがいることでスタジオでのみんなの会話も増えましたね。あと一緒にいるだけで俺らにとって勉強になることも多いし。
SATOち:トオルさん、本当は大変なのかもしれないのに、「今日ミヤくんからこんだけ注文あったよ~」とか楽しそうに言いながら、いっぱいミヤから指示が入ってる譜面を見せてくれるんですよ。
ーーあの人のいないMUCCは想像できない存在になりつつありますね。
逹瑯:次のアルバムでトオルさんがいなくなったら、俺らもお客さんも絶対寂しくなると思いますよ。教育実習の先生がいなくなった時みたいな(笑)。