つんく♂は海外からJ-POPシーンをどう見ている? ハワイ移住後の音楽との関わり方の変化

 平成のJ-POPシーンを牽引し続けた音楽家/プロデューサーのつんく♂。今回リアルサウンドでは、ハロー!プロジェクト総合プロデューサー退任、声帯の全摘出などを経て、ハワイに移住したつんく♂にメールインタビューを行う機会を得た。生活拠点を移したことで音楽の楽しみ方や関わり方に変化はあったのか。また、海の向こうから日本の音楽シーンをどのように見ているのか。2018年の出来事を中心に振り返ってもらった。(編集部)

日本からハワイへーー拠点を移して変化した音楽の楽しみ方

つんく♂

 1998年から企画・プロデュースをしてきたモーニング娘。及びハロー!プロジェクトの総合プロデュースが、2014年に退任となりました。同年、大病も発覚し、声帯を全摘出することになりそこから人生を見つめ返す時間を持ちました。

 家族会議を幾度となく行います。結論なんて出るわけもありませんが、どうすれば前向きに今後の人生を歩いて行けるか、夫婦間でもそういう観点で話し合いを繰り返し、次のことにポイントを置きました。一度客観的に自分を見つめ直すこと、そして子育てのこと、もちろん、身体のため、健康のため。仕事のためだけじゃなく音楽を聞くということ。これらを考えた結果、ハワイというキーワードに出会います。結果、2016年夏からハワイでの生活が始まりました。

 大病する以前の生活はとにかく仕事をしていたし、音楽は研究するためであって、趣味として聞く機会をほとんど失っていたのは事実です。ハワイは車社会。東京ではマネージャーがずっと車を運転してくれていた生活でしたが、今は子どもの学校の送り迎えも、買い物も、仕事に行くのもほとんどが自分の運転。なので、もっぱら移動中はカーラジオでFMを聞きます。

 実はこの時の情報が大事で、今のアメリカのヒットチャートが流れるチャンネルにしていると、どんどんヒット曲が自然に耳に入ってきます。大人な僕がすぐ気にいる曲もあれば、あっという間に子どもらが覚えるようなキャッチーな曲もある。1年前のヒット曲も僕にとっては最近の曲だと思うけれど、子どもらはそんなヒットナンバーがかかってくると「あ、これ懐かしいね」って言い出したりします。時間のスピード感は子どもと大人では全然違うのですが、「ああ、なるほど。確かに去年の曲だもんな」ってな感じですね。

 J-POPにおいて、「恋」(星野源/2018年)やアニメ『妖怪ウォッチ』の「ゲラゲラポーのうた」(キング・クリームソーダ/2015年)も子どもからしたら随分前の話題となっているのと同じように、洋楽においても同じように感じるのを冷静に受け取るのはとても斬新で、面白い発見だなぁと思います。

 音楽はふだんそうやってFMでチェックしているので、時間のある時は子どもらと一緒にYouTubeでヒットチャートのMVを見たりして楽しんでいます。日本の曲は、任天堂のWii U(『カラオケ JOYSOUND for Wii U』)で懐メロを楽しんでいます。ま、僕は歌えないですが、妻や子どもらが歌ったりして。子どもらは洋邦問わずに歌っていますよ。

2018年を振り返って

 2018年の出来事をふと思い返すと、自分の仕事でいえば、近畿大学の入学式。例年、年度始まりのキーポイントになっています。ほとんどが18歳であろう大学1年生たち1万人と一気に会えるチャンスは人生においてなかなか無いと思っていますので、毎年毎年とても大事に彼らの角出を祝福させてもらっています。その式は僕がプロデュースをしているのですが、いつも何倍もの元気や勇気をもらっています。

 音楽シーンでいえば、ダンスでしょうか。日本においてはダンスというよりは、振り付け感が強いようですね。とはいえ、世間的に「見る」という意味では、レベルの高い韓流男子たちの息の揃ったダンスを(おそらくYouTubeなどで)バンバン見ていると思うので、一般的なパフォーマンス全体に対する評価へのハードルは高くなっていると思います。30年前だったら、Michael Jackson「スリラー」のユニゾンダンスで十分魅了されていたのが、今ではあのゆる目のユニゾン感覚では刺激が足りなく感じてしまうように。

 しかし、昨今のアメリカのユニットの傾向を見ていても(それはヨーロッパを含めても)、ユニゾンシンクロ率に対してそこまでこだわりは感じません。たとえばシンクロナイズドスイミングを見ていても、ロシア、日本の水準は高いですよね。もちろん、韓国や中国も高い。個性を出す・出さないという主張は西洋では当然強いけれど、ポップス界におけるユニゾンのぴったり感覚は、現状は韓流が突き抜けていますね。もちろん韓流においても、20年前のgod、10年前の東方神起、今のBTS(防弾少年団)ではタイム感が違います。

 いまや、そういう海外文化も雰囲気だけでなく、本当に感覚的な刺激を見極める力は、小さい子どももインターネットで養われています。今後もテレビでバンバン宣伝をすれば売れる、というようなことが難しくなっていきそうです。なので、ダンス以外の要素でも売れる要素を持っていないと、刺激だけでいうと、より鋭いものしか残っていかないことになると思われます。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる