『邂逅ノ午前零時』特別対談
CIVILIAN コヤマヒデカズ×majikoが語る、“ネットカルチャーと音楽”を取り囲む環境の変化と現在
海外だとコライトで曲を作るのが当たり前
ーーなるほど。今、お二人に話してもらった10年前のインターネットと今のインターネットって、これ、このまま新曲の「僕ラノ承認戦争」に結びつくテーマなんじゃないかと思うんです。
コヤマ:はい。まさにそうですね。
ーー改めてきっかけから聞ければと思います。この曲を作った経緯はどういうものだったんでしょう?
コヤマ:もともと、こういうコンセプトの作品を作りたいという話をバンドでしていて。誰とコラボレーションすればいいんだろうと、いろいろ話し合っていたんです。そんな中でmajikoさんから2マンライブ(『なんてことない平日でも 誰かにとっては特別な日 vol.1』)に誘っていただいて。その時に、「majikoさんとならいいものができそうだ」と思ったので、後日改めて「一緒にやってほしい」という話をしました。
majiko:すごく嬉しかったです。
ーーということは、去年の2マンのアコースティックライブの方が先だった。これはmajikoさんからの呼びかけだったんですよね。
majiko:一緒にやれたらいいなってずっと思っていたんです。CIVILIANのことも知っていたし、世界観も好きだったので。でも私にとってはレジェンドだったんで、一緒にやりたいと思う反面、おこがましいのではないかとも思っていたんですけど。快く承諾していただきました。その日はナノウとして出していた「文学少年の憂鬱」をカバーさせてもらって、私の曲をコヤマさんがカバーしてくださって。すごく幸せな空間でした。
ーーそのライブの時のコヤマさんの手応えも大きかった。
コヤマ:お話をいただいた時から「一緒にやってみたらいいかもしれない」と勝手に思っていて。歌っている姿とか声の表現を見て、それが確信に変わりました。
ーー『邂逅ノ午前零時』はCIVILIANがいろんな人とコラボをするというコンセプトの作品になっています。そのアイデアはどういうところから生まれたんでしょう?
コヤマ:発想の発端になったのは、去年の5月にいろんなゲストの方を呼んで東名阪の2マンの企画イベント(『CIVILIAN presents INCIDENT619』)をやったことですね。中田裕二さん、(酸欠少女)さユりさん、GARNiDELiAと一緒にライブをする中で、企画として自分たちがみなさんのバックバンドをやらせていただいて。真剣に人の曲を演奏するのが、自分たちにとっても刺激になった。その手応えがあったのと、個人的にも、一人で曲をつくることの限界も感じていて。海外だとコライトで曲を作るのが当たり前になってるわけだし、他の人に力を借りたり、他の人のテイストと合わせた時にちゃんといいものが作れるようになっていきたいなって思いもあったんですね。
ーーmajikoさんとしては、「コラボをやろう」と言われてどう思いましたか?
majiko:まず「マジですか?」って(笑)。で、これは絶対に格好いいものにしようと思いました。打ち合わせをしたんですよね。デモをまず作ってくださるということで、それを聴いて「格好いい!」って思って。私はコヤマさんの書くひねくれている歌詞が大好きで、自分の書く歌詞でもそういうところは影響されているなと思うので、嬉しかったです。
ーー曲のテーマとかモチーフはコヤマさんのほうで最初に作っていた。
コヤマ:そうですね。曲はいつものように作って、majikoさんとは2番の歌詞を一緒に考えて。道筋みたいなものは自分で考えていました。
ーー2番の歌詞に〈ナイトプール〉ってありますよね。これ、曲の中のキラーフレーズだと思うんですよ。すごく2010年代末っぽい時代感がある。
majiko:いかがわしいですよね、ナイトプールって(笑)。
ニコニコ動画=成り上がっていくためのツール
ーー曲名にある“承認戦争”というキーワードは最初の段階からありましたか?
コヤマ:はい。最初に話したところとつながるんですけど、自分がボカロをやり始めた00年代終わりの頃に比べて、インスタもTikTokもそうですけど、今は誰もが自分の顔を出して発信するわけじゃないですか。自分は音楽で承認欲求みたいなものが満たされているところもある。でも、自分がもし10代の高校生の頃に音楽や自己表現をしていなかったら、他で何かしらやっていたかもしれないと思うところもあって。つまり、承認欲求を満たしたい、なにかしら見てもらいたいと思って発信することは、昔と比べて圧倒的に簡単になった。それって、すごい気持ち悪いなって思うこともあるんですよ。ある意味、“欲望のるつぼ”みたいなところだなって。でも、自分にそういう欲があるからこそ同属嫌悪みたいな気持ちもある。そういうことを考えているうちに曲のモチーフになっていった感じです。
ーーmajikoさんはそういうモチーフを受け取ってどう感じました?
majiko:私自身も承認欲求があるほうの人間なので、このモチーフには共感できました。それが大きいがために自殺しちゃった友達や知り合いも見てきたんです。承認欲求が満たされない思いの中でずっと生きていて、それが限界に達したんだろうなという。私たちがいるこの世界って、承認欲求の戦争というか、強いものが勝って弱いものは負ける、まさに弱肉強食の世界だと思っていて。まさに“承認戦争”だと思いました。リファレンスも受けて、しっかりと書いていきました。
ーーおっしゃる通り、ある種の戦争、戦いのような状況を作り手が認識する時代になっていると思うんですよね。というのは、 今はYouTubeをきっかけにストリーミングで音楽が広まっていく時代になっている。10年前はCDが主体で、YouTubeやニコニコ動画はあったけれど、そこは別に商売の場所ではなかったんですよね。でも、YouTubeは曲名の隣に再生回数の数字がある。たとえば友達に「この曲いいよ」って勧められたとしても、その数字が100回か100万回かで「いいよ」の意味が違っちゃうようなところがある。そういうイメージがあるんですけど、そういう当事者としての感触ってどんな感じなんでしょう?
コヤマ:でも、僕はニコニコ動画でボカロ曲を投稿してた時から、再生回数は気にしてましたね。あの当時からやっぱり数字で殴り合ってる感じはありました。同時期に投稿していたボカロPの方と今でも会って話をするんですけど、当時はニコニコのシステム自体に動画のランキングがなかった頃で。有志のユーザーが独自の方法でランキングの動画を作ってたんですよ。みんなその動画を見て1位のボカロ曲を聴いて「くっそー! 次こそは!」って思ってたんですよね。1位になる動画は、曲の良さやメロディのキャッチーさとか、やっぱり人気になるだけのものがあるんですよ。当時からそんな感覚はあったんで。
ーーmajikoさんもそういう実感はあります?
majiko:ありましたね。私はニコニコの時代、そういう風にランキングにされるのがイヤだったんですよ。あの頃の歌い手って、有名なボカロPがあげた曲をどれだけ早く歌えるか、みたいな競争があったんです。だんだんそれに疲れちゃって。私は人気具合をマイリスト数で見ていたんですけど、そういうところからちょっと離れようと思って、マイリスト数が100以下の曲を探すようになりましたね。そうしたら再生回数は伸びないんだけど、私はそれでよかったんです。勝負とか競争は本当に苦手なんで。
ーーお話を聞いてるとすごく面白いですよね。ニコニコ動画って、最初は業界とか産業と切り離された、遊びの場所だったわけですよね。でも、それが同時に、コヤマさんの言う「数字で殴り合う」場所でもあったわけで。
コヤマ:なんか、意味合いが変わってきたなっていうのはありますね。最初はみんなが楽しくやっていただけの場所なんですよ。勝っても負けても「くっそー!」って思うだけで、「次は絶対もっといい曲作ってやる」みたいな、なんだかんだ楽しんでやってる感じがあったんです。でもボカロPも歌い手の人もメジャーに行くようになって。自分自身が成り上がっていくためのツールになり始めてから、数字の意味が変わってきたな、という感じがあって。
ーーたしかにそういう変化はありますね。僕が見てきた印象だと2011年から2012年くらいがターニングポイントだったかな。
コヤマ:僕は何年かちゃんと覚えてないですけれど、僕もそれを感じ始めて投稿するのが辛くなってた時期がありました。「何をやってるんだろう」って絶望しながら作っていた時の記憶はありますね。
ーーこれって、2019年現在、すごくリアリティのある話だと思います。かつてはニコニコ動画というプラットフォームの中だけで起こっていたことだけれど、今はYouTubeがあってTwitterやインスタやTikTokがあって、いろんなところで「数字で殴り合う」ようになっている。そういう実感が曲になっている、と感じました。
コヤマ:そうですね。YouTuberのみなさんが、ありとあらゆることをやって、再生を伸ばそうとしているのを見たりもするんですよ。実際、再生回数が伸びる動画は面白いし、発想がすごいなと思ったりするんです。そういう人たちって、数字を戦闘力に変えている人たちの極北だと思っていて。そこに対して音楽で何ができるんだろうか、みたいなことも考えたんです。これから先、CIVILIANとして、一人のバンドマンとして、どうやって数字で戦っていくか。それは真剣に考えなきゃいけないなって思ってますね。
(取材・文=柴那典)
■リリース情報
New EP『邂逅ノ午前零時』
2019年3月13日(水)発売
価格:¥1,500(税込)
<収録曲>
01 邂逅ノ午前零時
02 I feat. まねきケチャ
03 僕ラノ承認戦争 feat. majiko
04 campanula ※中田裕二プロデュース
<初回仕様限定盤>
2018年7月18日に開催されたワンマンライブの模様やMVなどがお楽しみ頂けるスペシャルサイトへのアクセスキー封入(閲覧期間:2019年12月25日まで)
応募ハガキ封入
<購入者特典>
全国のCIVILIAN応援店もしくはツアー会場でニューEP『邂逅ノ午前零時』を予約で、下記の特典をお渡し。
<対象店舗一覧>
1.CIVILIAN応援店舗(カレンダーカード)
2.CIVILIAN TOUR “Hello,civilians.” 2019全国編 会場 CD販売所(B3ポスター/ランダムでメンバーサイン入り)
※特典は店舗ごとに無くなり次第の配布終了。
※②のLIVE会場での予約は全額前金。ポイントカード等も使用不可。
会場によっては配送受付を行わない場合あり。
特典ポスターは商品と同時に配送。
詳しくは会場のCD販売所にて。
■ライブ情報
『CIVILIAN“Hello,civilians.” 2019全国編』
2019年3月17日(日) 東京 マイナビBLITZ赤坂(ツアーファイルナル)
スペシャルゲスト:まねきケチャ、majiko