藤あや子&m.c.A・Tが語る、“民謡×HIPHOP”異色コラボで示した唯一無二のエンターテインメント

藤あや子&m.c.A・T対談

 演歌歌手の藤あや子と、音楽プロデューサーであるm.c.A・Tによる異色のタッグが、1月1日に「秋田音頭ーAKITA・ONDOー」をリリースした。同曲は江戸時代に生まれた日本の民謡「秋田音頭」とヒップホップを融合した、新感覚のダンスミュージック。秋田出身で幼少の頃より民謡の踊り手として育ってきた藤と、1980年代後半にブラックミュージックの要素をいち早く取り入れたアーティストとして活躍するm.c.A・Tが、それぞれのフィールドをクロスオーバーする新たなジャンル“HIPHOP民謡”を打ち出した。

 二人は、“同曲をきっかけに、若い世代や海外に向けて発信していきたい”と話す。インタビューでは、今回のコラボが始まったきっかけや同曲の制作の裏側をはじめ、それぞれから見た演歌とJ-POPの可能性、またm.c.A・Tが音楽プロデューサーとして感じた2018年の音楽シーンの状況などを広く語ってもらった。DA PUMPのTOMOが振り付けで参加することも決定し、元日早々、音楽シーンを賑わせてくれる存在となりそうだ。(編集部)

秋田音頭とヒップホップには共通項が多い

藤あや子&m.c.A・T

ーーまず、藤さんとm.c.A・Tさんの共演は、2008年に開催された藤さんの20周年記念リサイタルが最初だったそうですね。

藤あや子(以下、藤):はい。映画監督の小松莊一良さんが総合演出をしてくださったリサイタルの中の企画で、「秋田音頭」をヒップホップにアレンジして歌うというものがあって。私も面白いことをやるのは大好きだし、普段は洋楽やヒップホップも聴くので、「面白そうだから、ぜひやりましょう」と。ただ、A・Tさんが歌っている姿と、実際にお会いして感じた印象は、まったく真逆なものでした。すごくシャイで丁寧な方。ステージでスイッチが入った時は、豹変するじゃないけど、ぶっ飛んじゃうんですよね。最初は、そこにすごく驚きました。

m.c.A・T:僕は、その小松監督が1992年に手がけた音楽ダンス映画『ハートブレイカー 弾丸より愛をこめて』のサントラを手がけていて、そのテーマソングが「Bomb A Head!」だったんです。彼とはそれ以来の親友で、しばらく会ってなかったんですけど、「藤あや子さんのコンサート演出を手がけている」と聞いて、「すごい域まで行ったな~」と思っていたところ、「秋田音頭をヒップホップアレンジしたい」と話をいただいて。お相手が、藤あや子さんですから、最初は緊張しました。その時に秋田音頭を研究して作ったものが、今回の「Ayako Mix」に近いです。

ーーm.c.A・Tさんとしては、それ以前に民謡や日本の伝統音楽とクラブミュージックを融合させることを考えたことはありましたか?

m.c.A・T:ありました。例えば北海道のアイヌ民謡をベースにすることも考えたんですけど、同じ民族音楽でもゴスペルなどと比べると、やっぱりリズムの取り方が異なっていて。それを無理やり合わせるのも違うので、どうやったら上手く融合できるか模索していた時に、あや子さんの20周年リサイタルで秋田音頭をやることになったわけです。

ーー藤さんは秋田県のご出身なので、秋田音頭は子供の頃から慣れ親しんでいた音楽ですよね。

藤:私は10歳から民謡の踊り子として舞台に立っていたので、私の中での秋田音頭は、歌うよりも踊るものという印象だったんです。実際に秋田音頭は、数ある民謡の中でも踊ることに特化していて、リズムが単調なので延々と踊り続けることもできるし、即興性が高くて歌詞の替え歌もたくさんあって。例えば愚痴を言ったりとか、その場で思いついたことをリズムに乗せて歌い合うんですね。そういう部分は、ヒップホップのラップにすごく近いんじゃないかと思っていました。

m.c.A・T:延々と踊りつけられるところはP-FUNKだし、その場で思いついたことを言い合うのはラップのサイファーだし、そういうヒップホップとか洋楽との共通点がたくさんあるのは、すごく面白いと思いました。

ーーそれから、m.c.A・Tさんが昨年に開催したイベント『俺フェス』で、藤さんと「秋田音頭」のヒップホップ版を再演した。

m.c.A・T:はい。2008年の音源を掘り出してきて、ステージでは生の三味線や尺八、それにDJも入れて、新しい形で再演しました。その時のノリが、すごく面白くて。僕のファンも藤さんのファンも喜んでくれたので、「これは可能性があるな」と思って、それが今回のリリースに繋がりました。

藤:前から形にしたい気持ちはありましたけど、布石となったのはやはり去年のイベントでしたね。

ーー今回「秋田音頭ーAKITA・ONDOー」としてリリースするにあたっては、過去2回のトラックをどういう風にブラッシュアップしたのですか?

m.c.A・T:メインミックスは、2008年のバージョンに少しシンセを加えて、ただオートアルペジオは極力少なめにして。グルーブはケンドリック・ラマーとかのイメージで、アフリカのパーカッションを和太鼓のように聴かせました。カップリングに収録の「Bonjour Club Mix」は、逆に引き算の作業をしたのですが、なるべくスネアを使わず3拍目にアクセントを付けることで、今っぽいノリになるんです。そのへんはすごく研究しました。あとは、現場で洋楽的なハーモニーをやってもらいました。

藤:その場で「コーラスをやってください」と急に言われて。A・Tさんの中ではイメージがあったと思いますけど、私はまだ完成形が想像できていなかったので、そこは職人として、言われたことをきっちりやろうみたいな意識でした。

m.c.A・T:演歌歌手の方というと、リズムの取り方をあえて後ろにずらす方が多いですけど、あや子さんは違っていて。民謡をやられていたからなのか、歌い出しからピーンと当たっていて、まるでシンセで音を出しているみたいですごく気持ち良くて。すぐ「その歌い方でいきましょう」って。

ーー演歌とは違ったリズムの取り方は、難しくはなかったですか?

藤:声は楽器みたいなものですから、いかようにもコントロールできますので! それに先程「洋楽が好き」と話しましたけど、そもそも子供の頃は演歌を聴いたことがなくて、正直それほど興味はなかったんです。自分でも「何で演歌歌手になれたの?」って思うほどです。だからこぶしを回すこともできなかったんですけど、21歳の時に当時所属していた民謡一座に残るために、踊り手だけでなく歌い手もやらないといけない状況になって、我流ですけど必死になって毎日2時間くらい練習して、そこで初めてこぶしを回せるようになったんです。つまり、そもそも私の中に民謡や演歌はなくて、スイッチを入れて意識して歌うものなんです。普通に歌えばオンリズムになるけど、オンで歌うと演歌じゃないと言われるので、演歌を歌う時はあえて崩したりもしているんです。

ーー先日、別の若手演歌歌手の方を取材したのですが、その方は演歌しか聴いたことがなかったと。藤さんは、真逆ですね。

藤:でも演歌界には、その方のような人のほうが、断然多いと思いますよ。(坂本)冬美ちゃんもそうですし。私は規格外なんです(笑)。テレビ番組やコンサートで古い演歌の曲を歌わなければいけない時は、今はネットですぐ聴けるけど、昔は「その曲知らないから、音をちょうだい」って、毎回いくつも音源をいただいて勉強していました。それくらい演歌の曲を知らなくて。今も普段聴く音楽は洋楽ばかりで、R&Bもよく聴きますし、先日もBon Joviのコンサートに行きました。

ーー本来はm.c.A・Tさん寄りの方だったんですね。

藤:そうなんです。だから今回みたいなコラボは、すごく嬉しいです。居心地がいいというか。オンで歌うのが気持ちよくて、「音楽ってこれだよね~」って(笑)。本来自分が好きなものがやれている感覚があるし、それプラス、今まで培ってきたものがベースになってやれているので、そのことが本当に嬉しいですね。

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