氷川きよし、なぜ『ゲゲゲの鬼太郎』OP&EDに抜擢? 50年受け継がれてきた主題歌から考える
現在放送中のTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(フジテレビ系)第6シリーズは、アニメ放送開始50周年を記念して、これまでオカッパだった猫娘が八頭身美人の“ねこ姉さん”として描かれていたり、鬼太郎がオリジナル本来のキャラクターに近く、あまり人間に寄り添わなかったり、第1シリーズ、第2シリーズで鬼太郎の声を務めていた野沢雅子が目玉のおやじの声優を担当していたりなど、大胆なリメイクが施されていることで以前から話題になっている。その『ゲゲゲの鬼太郎』で、現在OPテーマ「ゲゲゲの鬼太郎」を歌唱しているのが、演歌歌手の氷川きよしだ。10月から放送が開始された新章『西洋妖怪編』では、OPテーマだけでなくEDテーマ「見えんけれども おるんだよ」の歌唱も担当している。
〈ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー〉はカエルの輪唱
1968年に放送がスタートしたTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』は、当初は高度経済成長期に加速した消費社会へのアンチテーゼが込められていたが、その時代ごとに脚色が加えられて放送されてきた。しかし、OPテーマ「ゲゲゲの鬼太郎」だけは、50年前から曲自体は変わっていない。作詞を原作者の水木しげる、作曲を坂本九「見上げてごらん夜の星を」などを手がけた作曲家いずみたくが担当。以来50年にわたって、メロディと歌詞はそのままに、歌い手とアレンジを変更しながら歴史を重ねてきた。これまでにOPテーマを担当した歴代の歌手は、熊倉一雄、吉幾三、憂歌団、泉谷しげる、ザ50回転ズと、特徴的な癖ある歌声の持ち主が名を連ねる。しかし、その声質こそが、OPテーマを歌う上での肝になっていた。というのも、これまでのシリーズすべてにおいてアニメのOP映像では、冒頭の〈ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー〉というフレーズに合わせて、必ずカエルが歌っている画が当てられているのだ。『ゲゲゲの鬼太郎』というタイトルにおける“ゲゲゲ”の由来については諸説あるものの、歌詞における〈ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー〉というフレーズは、カエルの鳴き声を表現しているのだろう。
氷川きよしは、歴代OPテーマと比べると、キーが高く柔らかい歌声の印象だ。しかし、これまでと勝るとも劣らないものになっているのは、氷川の声質に合わせたアレンジにあるように思う。氷川きよしが歌う「ゲゲゲの鬼太郎」は、まるで時代劇のような笛の音色から始まり、一転して聴き馴染みのあるイントロが流れる。オーケストレーションされたサウンドは、随所にジャズ調のピアノやマンドリンの音色などの要素も確認でき、これまでよりもどこか軽快で上品だ。それは演歌界における、氷川の存在感にも似ている。さらに曲の後半には、巧みに構成された追っかけのコーラスがあり、それがまるで「かえるのうた」の輪唱のようだ。ポイントとなるのは、笛のメロディ。これが時代劇や演歌を想起させることで、氷川と楽曲を絶妙に引き寄せている。50年歌い継がれる楽曲、緻密な編曲、そして氷川の声という三種の神器が揃ってこそ、初めて成立するのが、氷川きよしがいま歌っているOPテーマ「ゲゲゲの鬼太郎」だと言えるだろう。