『秋田音頭-AKITA・ONDO-』リリースインタビュー
藤あや子&m.c.A・Tが語る、“民謡×HIPHOP”異色コラボで示した唯一無二のエンターテインメント
秋田音頭から世界に広がるメッセージ
ーー民謡の歌い方は、我流でというお話でしたけど。
藤:最初は、秋田の民謡歌手で日本一を獲った方のお一人で、千葉美子先生のカセットを買ってきて、何十回と聴いて研究しました。ここでこぶしを何回まわして、ブレスはここでとか、譜面に記号を書き入れながら聴いて練習して。それで、ようやくこぶしが回せるようになったかなというところで、実際に千葉美子先生の門を叩いて、弟子入りをしました。私が、千葉先生の弟子第一号だったんです。それで、「じゃあとにかく秋田民謡だけ、徹底的に全部やりましょう」と。秋田民謡って、すごくたくさんあるんです。
ーーどれくらいあるんですか?
藤:秋田長持唄、刈干切唄、相馬馬子唄など、尺八ものだけでもすごくたくさんあって、数えきれないほどあります。そこから毎回課題曲を与えられて勉強していったんです。
ーーじゃあ今後も、いろんな秋田民謡でコラボができそうですね。
藤:(笑)。でも確かに、尺八ものはちょっとゆったりとしていて、いいかもしれないですね。
ーー中盤では、民謡のロングトーンを聴かせるところがあって、そこはとても気持ちいいですね。
藤:本当に気持ちいいです。30年近く演歌を歌っているうちに、自分の中で、民謡の声が隅に追いやられてしまっていたので、その引き出しを久しぶりに開けてもらいました。
m.c.A・T:本当に素晴らしいから、僕らからは特にディレクションする必要もなかったです。テイクを重ねるたびにどんどんノリがよくなっていって、そのロングトーンのソロは、どんどんフレーズが大きくなってアドリブも入ってきて。僕らも思わず盛り上がって、「フォーッ!」って叫んでいましたよ(笑)。
藤:気持ち良くて、ついつい増えてしまって(笑)。
ーー民謡と演歌は、歌い方がそんなに違うものですか?
藤:ちゃんとやれば、まったく違いますよ。基礎がまったく違うものですから。私は性格的に、基礎をきっちりやってからでないと前に進めないタイプなので、どちらも基礎から徹底的にやりました。だからこそ、今回のようなコラボもできたと思っています。
m.c.A・T:そういう歌に対する考え方は、海外のR&Bとも通じるところがあると思いますね。例えば男性R&Bだったら、しっかりやっていれば行き着くところはスティービー・ワンダーの歌い方なんです。スティービー・ワンダーにこぶしはないけど、彼の歌いまわしを覚えれば、その後のR&Bはたいてい歌えるようになる。例えばK-Ci & JoJoとか、テディ・ライリーがプロデュースしたGuyであるとか、「何でこんなに格好いいんだろう」と思って実際に自分で歌ってみると「これはスティービー・ワンダーと同じだ」と気づくんです。R&Bにおいては、スティービーが民謡の先生みたいなものですね(笑)。
ーー今回は、新たな歌詞が加わっていますが、そこはどのようにして?
藤:A・Tさんが考えて来られた歌詞があって、それを読んだらすごくグッときたんです。それで、秋田音頭から世界に広がっていくようなテーマやメッセージ性を持たせたほうがいいと思って、そういうイメージで書きました。
m.c.A・T:今年は災害が多くて、北海道で地震があって大変だったけど、道産子や東北人は負けないんですよね。日本人はいろんなことを乗り越えてきて、戦後もそうだし、だからきっとこれからも大丈夫なんです。そんな日本人を観てください、ということを伝えたいと思いました。
藤:それに、未来を担う子供たちのためにも、私達がいなくなった後に「日本人で良かったな」と誇りを持ってもらえるような意味も込めたいと思いました。少し重いメッセージであったとしても、こういうノリの曲だからこそ、幅広い方に伝わるんじゃないかなと思います。
m.c.A・T:だけど、決して堅苦しくないんですよね。秋田音頭の性格上、どうやっても堅苦しいものにはならないんです。
藤:秋田音頭は、陽気なお祭りの歌ですからね。
ーー三味線や尺八など、和楽器も入っています。
m.c.A・T:来てくださった演奏家の方々は、あや子さんが連れてきてくださったんですけど、みんなけっこうお若いのにテクニックがすごいんです。例えば三味線を弾いてもらったら、「絶対ギターの運指だよな」って思うような弾き方をされたり、ベースのスラップ奏法みたいな弾き方もされたりしていて。
藤:音色は三味ですけど、演奏はまったく三味感がない(笑)。
m.c.A・T:その方たちも、ロックや今の曲も好きでたくさん聴くとおっしゃっていたので、すぐにこの曲の雰囲気を読み取って、それに合った弾き方をしてくれたんだと思います。
藤:みなさん尺八や三味線の世界では、屈指のトッププレーヤーですからね。
m.c.A・T:尺八もブルーノートスケールを吹いちゃうし。あや子さんと同じで、邦楽のプレーヤーの方だけど、基礎がしっかりあるから、いろいろな演奏方法ができるんでしょうね。その上で、秋田音頭のメロディも混ぜてくれたりして。
藤:だから楽器のレコーディングは、私達も楽しませてもらいました。プロ集団なので、ちょっと言えば「分かりました。こういう感じですね」って、さらっとしかも的確にやってしまうんです。
ーー秋田弁の語感もすごく新鮮でした。
藤:これでもめちゃめちゃ分かりやすく歌っていて、本場はもっと聞き取りづらいんですよ(笑)。
ーー〈じっぱり〉と出てきますけど、これはどういう意味ですか?
藤:じっくりとか、いっぱいという意味です。〈しったけ〉は、すごくという意味なので、「すごくいいでしょ」は、「しったけいいべ」となって、ちょっとフランス語っぽく聴こえるのが面白いです。
m.c.A・T:僕が〈あや子~〉と呼んだ後に、あや子さんが〈A・T〉と呼んでくれるところがあるんですけど、家で聴いていたら声の可愛いさに、照れて顔が赤くなりました(笑)。
藤:永遠の10代なので、嬉しいです!(笑)。
この先にもっと新しいことがある予感
ーーこの曲は、特にどういう層に聴いてほしいですか?
藤:10代の若い方にはもちろんですし、海外の方にもたくさん聴いてほしいです。何と言っても「AKITA・ONDO」ですから。海外では、日本文化と言うと今はアニメですけど、アニメだけじゃないんだよって伝えたいですね。それに日本の方よりも、むしろ秋田音頭を知らない海外の方のほうが、「これが日本の音楽?」と、面白がってくれる確率が高いと思います。だから私としては、演歌とか民謡ということよりも、新しくて面白い何かだと思っていて。今回はたまたま民謡とヒップホップでしたけど、もっとそういうものを発掘して磨いて、どんどん発表していけたらいいなと思います。
ーーこういう民謡や演歌の根底にある、日本人独特のDNAみたいなものは、どういうものだと思いますか?
藤:ウェット感がありますよね。何をやっても乾ききらない感じ。
m.c.A・T:それはありますね。
藤:音楽もウェット感があるから、艶っぽくなったり情感が感じられたりして、それで「いいな」と思える。秋田音頭もそうで、ウェット感がなかったら、もっと違うものになっていたと思います。
ーー「泣き」って言うんでしょうか。
m.c.A・T:そこが、日本人の特色ですね。歌に限らず三味線や尺八など、歌心がある楽器をやる人は、そういう泣きや憂いの部分に日本人の魂があると分かっているんだと思います。
ーー若い方は「エモい」という言い方をしますけど(笑)。
藤:「エモい」って言うんですね(笑)。きっと若い方も、演歌や民謡に、ウェット感やエモいものを感じている。そうじゃないと、9月に放送された『演歌の乱』(人気演歌歌手が集結し、J-POPのヒット曲を歌い紅白で競った番組)が、あれほど話題にはならなかったと思います。実際に一度聴いてもらえれば、「エモいじゃん!」って感じてもらえると思います。
m.c.A・T:あや子さんも、いろんなカバーをやられていますけど、あや子さんが歌うと原曲以上に憂いが深くなりますね。
藤:そうですね。男性の歌を女性が歌うことでも、違うものになりますし。私は『演歌の乱』で小田和正さんの「たしかなこと」を歌わせていただいたのですが、音域がすごくて。私はもともと民謡をやっていましたから、高音はいくらでも出せるんですけど。相当音域が広い方でないと、小田さんの曲は歌えないですね。
ーーちょっと話が逸れますが、年末年始ということで。m.c.A・Tさんは音楽プロデューサーという観点から、2018年の音楽シーンをどう観ましたか?
m.c.A・T:僕は、もっと多様化すると思っていました。現実にも、そういう流れがあったし。でもユーザーは、みんな統一感、一体感が欲しかったみたいですね。その顕著な例が、DA PUMPの「U.S.A.」です。ISSAから聴かせてもらった時は、「えっ!」って驚いたんですけど……。最初はみんな面食らうだろうけど、結局は一生懸命やっているやつらを見れば、それは感動に変わるだろうなって思っていました。これはお笑いでも何でも、汗をかいているやつのほうが強いんです。最初は「何を頑張っちゃって」と笑われても、それをずっと続けられると、それは感動に変わってくる。「U.S.A.」で、そのドラマを現実に観せられた気持ちでしたね。
一番すごいと思ったのは、音楽好きの人とかよりも、ごく一般の方がそれを楽しんだことです。そこまではさすがに予想できなかったと言うか、計算できないドラマがあってビックリしました。でも「U.S.A.」って、90年代のユーロビートのカバーだけど、すごく日本人的なアレンジになっているんですよね。原曲にないギターが入っているし、今海外のクラブシーンではBPM70とか遅い曲が主流だけど、あえてBPMは140のままで、これって日本人が一番喜ぶテンポなんですよ。そう考えると日本はやっぱり特殊で、ガラパゴス的な傾向が強いんだなって確認できました。それも含めて、結局みんな同じもので日本中が踊れることが、新しいことだったんじゃないかって思います。
藤:日本人は、みんなで同じことをするのが好きなんですかね? AKB48さんの「恋するフォーチュンクッキー」もすごく流行りましたし。
m.c.A・T:そうですね。正直、2019年はどうなるか分からないけど、ある程度のポピュラリティは考えるべきだし、エンターテインメントであることは忘れちゃいけない。それは変わらないキーワードですね。
ーーでは、2019年の目標は?
藤:まずは「秋田音頭ーAKITA・ONDOー」を広めることです。それ以外は、全部おまけみたいなものです(笑)。振り付けも、「いいねダンス」みたいにキャッチーなものにしたくて、「いいねダンス」を振り付けたDA PUMPのTOMOさんに付けていただきました。題して「ヤクヨケダンス」です。こちらも楽しみにしていてください。
m.c.A・T:出会いから10年続いているご縁ですから、このコラボはまだまだ続けていきますよ。それに続けていくことで、その先にもっと新しいことがありそうな予感がしています。この曲をきっかけに、その予感を多くの方に感じていただきたいです。
(取材・文=榑林史章)
■リリース情報
藤あや子feat. m.c.A・T『秋田音頭-AKITA・ONDO-』
2019年1月1日(火)発売
価格:¥1.200(税込み)
<収録内容>
「秋田音頭―AKITA・ONDO―」
秋田民謡 補作詞:m.c.A・T/藤あや子 補作曲:m.c.A・T 編曲:m.c.A・T
「秋田音頭―AKITA・ONDO― Bonjour Club Mix」
秋田民謡 補作詞:m.c.A・T/藤あや子 補作曲:m.c.A・T 編曲:m.c.A・T
「秋田音頭―AKITA・ONDO― Ayako Mix」
秋田民謡 補作詞:藤あや子 編曲:m.c.A・T