fhána 佐藤純一が語る、5年間の“STORIES”  「僕は実存をめぐる戦いの感覚を引きずっている」

fhánaの5年間の「STORIES」 とこれから

扉は開けておくけど、無理強いさせるつもりはない

佐藤:今までのライブも手応えを感じたものはあるんですが、それは偶然やアクシデントによるものだったりして。2ndアルバムのツアーファイナル(『What a Wonderful World Line Tour 2016』)は、直前にtowanaの喉のポリーブが発覚して、当日朝にステロイドを打ってもらって、ギリギリの状態だったからこそ、チームに一体感が出た部分もあって。ただ、今回のファイナルは事前に固めていたプランがうまくハマったうえに、偶然も味方につけることができていたんです。とはいえ、まだ「やっと少しコツを掴めたかも」くらいの感覚ですが。そういえば、“非日常”についてあの対談のあとからずっと考えていて、それが今回のジャケット写真に繋がった部分があるんです。

ーーこのパノラマ写真ですよね。

佐藤:はい。自然の風景が広がりつつ、ミニマルな空気感のある写真なんですけど、このイメージって、僕の中では映画『リリィ・シュシュのすべて』なんですよ。田園風景で少年がCDウォークマンを持って佇んでいて、それを俯瞰で撮っているようなキービジュアルと冒頭のシーンがあるじゃないですか。

ーーああ、言われてみれば! でも、なぜ“非日常”が『リリィ・シュシュのすべて』なんですか?

佐藤:今年、『リバーズ・エッジ』の実写映画が公開されて、小沢健二さんが新曲(「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」)を主題歌として提供しましたよね。僕は岡崎京子さんの原作漫画をよく読んでいたんですけど、自分の中では『リバーズ・エッジ』やオザケン的なものの後継が『リリィ・シュシュのすべて』なんじゃないかと思っていて。あと、『新世紀エヴァンゲリヲン』も僕は好きなんですけど、これらの作品に共通するものって、「少年少女の実存をめぐる戦いや葛藤」だよなって。

ーー確かに。そしてfhánaの世界観もそことリンクしているわけで。

佐藤:そうなんです。2ndアルバムのテーマも「人と人はわかりあうことができない。それでも、この世界線を肯定しよう」というものだったり。あと、僕が来年のアニメで劇伴を担当するんですけど、大沢伸一さんが手がけた『BANANA FISH』みたいに、普通のアニメ劇伴ではなく、ブレイクビーツやリズムの質感を重視したサウンドのものを作りたくて。そういうBGMの映画がないかなと思い出しているうちに、Dust Brothersが音楽を担当した映画『ファイト・クラブ』を思い出して久しぶりに見たんですけど、これも先ほど挙げた作品たちと同じテーマなんですよ。

ーー殴り合うことでアイデンティティを証明するという。

佐藤:そう、“実存をめぐる戦い”なんですよ。1990年代から2000年代初頭のそういうムードって、時代の空気みたいに色々な作品に共通していあって、僕はそれを引きずっているんだなと感じたんです。でもそれって、今から思えば「この日常が延々と続いていくという前提」があるからこそ「自分ってなんだろう?」と呑気に悩んでいられる、平和ボケした考え方だったのかもしれません。2018年はどんどん世界が不安定な状況になっていって、そんなことを言っている場合じゃなくなってると思うんですけど、僕は相変わらず実存をめぐる戦いの感覚を引きずっているというか。

 僕の言っている“日常”と“非日常”というのもその延長線上で、“日常”は色んな「本当のこと」ことが隠されているからこそルーティーンで回っていく世界で、そこに尊さがあるんです。でも、“非日常”というのは、そこに裂け目が入って世界の本質が垣間見えている状態であって、でもそれを認識しているのも自意識なんですよね。いわゆる「本当の世界=自分を知る」みたいな“壮大な自分探しに近い感覚”なんです。自分は2018年にもなって、まだそんな90年代的なものを続けているのか、と思わされました。

ーーでも、そこは分断された価値観ではなくて、今こそ繋げて考えるべきなのでは? それこそ当時は自意識をめぐる戦いの対象が、大人だったり箱庭的なものだったり、同じような人間であったりしたわけですが、今は起こりゆく世界の物事に対して、自分はどういう態度でいるか、ということが実存をめぐる戦いの一つであることは変わらないと思うんです。さっき名前を挙げたThe 1975だって、マシューの出自も含め、自意識を巡る葛藤がありながらも、その対象が最新作ではインターネットという”世界”に向いていたり。

佐藤:なるほど。確かにそうかもしれません。インターネットやSNSというのは、fhánaにとっても重要な要素ですし、そういう意味でもThe 1975とリンクしている部分はあるのかも……。SNSといえば、最近Instagramのストーリーズばかり投稿してるんですよ(笑)。

ーーそれはタイトルの『STORIES』に関連する話ですか。

佐藤:無意識に影響を受けていたのかもしれません(笑)。昔はブログやテキストサイトのように、長い文章がアーカイブとして長く残っていた時代があって、Twitterの登場で短文が流れていくものになって、ついには文章ですらなくなって、Instagramのようにビジュアルのコミュニケーションが主流になりましたよね。それでもアーカイブが残るから考えて投稿しなきゃいけないのは変わらなかったんですけど、ストーリーズは24時間で消えちゃうから気楽に投稿できる。音楽の聴かれ方もアルバム単位から楽曲単位になって、TikTokみたいに短い動画に早回しの音楽を付けるようなものが流行ってと、どんどん単位が早く短くなっているんです。

ーー流行のサイクルも早くなっていますからね。

佐藤:そう。世の中全体が流動的になっているからこそ、2年後がどうなっているかなんてわからないですし、ビジネスなんかも含めて中長期的な予測が立てにくくなり、目の前のことにどう対応していくかが重要になっていると思うんです。個人のコミュニケーションもメールからLINEが中心になったりして、「即レス」の時代ですよね。“今”に反応し続ける時代になっているんだなと、今回の作品を作りながら思いました。

ーーでは、そんな流動的な世の中において、音楽が果たす役割ってなんだと思いますか? これは作った“あと”の話だとは思うんですけど、佐藤さんがどう思っているかは聞いておきたくて。

佐藤:色んなものが解体されて、今までの仕組みでは回らなくなっているから、新しい流れにフィットしなきゃいけないんですけど、どれが正しいかわからないし、落ち着きどころがわからないから色々試している、というのが今なんだと思います。それは僕らも同じなんですが、fhánaはベストアルバムの発売日に、サブスクリプションサービスに楽曲を解禁することにしました。

ーーおお! 先日の写真を見て「Spotifyのオフィスでは……ということはもしや……」と思っていました。

佐藤:しっかり匂わせていましたね(笑)。ランティスとしては先に『ラブライブ!』シリーズの楽曲を解禁していますが、単体のアーティストとしては初めてのことなんです。アーティストに「還元されない」とか「制度が整っていない」とか色んな話もありますが、とはいえこのフィールドに立たないことには、始まらないだろうという判断をしました。

ーーアーティストのキャリアが長いほど、過去の曲やMVが出ていたわけでもない名曲が掘り起こされたり、アーカイブが活きるという側面や、これまで届いてなかった人たちに名前を知られる、というメリットは間違いなくあると思います。fhánaとしても、ストリーミングに曲を公開することで、しっかりと世界のバトルフィールドに立てたわけですね。

佐藤:どういう風に着地するのかはわかりませんが、このタイミングでそこに立てたのは大きいのかなと思います。fhánaはおかげさまで、ある程度アニソンのフィールドでは認知されてもらえるようになって、「青空のラプソディ」では海外にもある程度広がってくれたので、今度はアニメという括りは関係なく“音楽”というフィールドで「アニメはわからないけどfhánaの音楽は好き」という人を増やしていきたいですね。fhánaをきっかけにロックリスナーがアニメに興味を持ってくれたらいいですし、アニソンリスナーがfhánaをきっかけに他の曲を聴いてくれるのも嬉しいですし。ただ、強制は絶対にしたくないので、扉を開けてはおきますが、無理強いさせるつもりはありません。

 以前に対談した際、田淵さんは「ロックとアニソンのリスナーは混ざらなくていい」と言いましたが、僕は「混ざらなきゃいけない」とは思わないけど「混ざってもいい」と考えていて。気になったら一旦覗いてみて、好きになったら掘っていってほしいし、入らずに終わるならそれはそれでよくて、結果的にお互いが排除し合わずに共存できれば、それでいいのかなと思っています。

(取材・文=中村拓海)

■商品概要
fhána 5th Anniversary BEST ALBUM 「STORIES」
発売日:2018年12月12日(水)
税抜価格:【初回限定盤(2CD+1BD)】¥5,200/【通常盤(1CD)】¥3,000
■商品情報詳細
・Disc1:SINGLE BEST<CD/初回限定盤・通常盤共通>
01.ケセラセラ(TVアニメ『有頂天家族』EDテーマ)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
02.tiny lamp(TVアニメ『ぎんぎつね』OPテーマ)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
03.divine intervention(TVアニメ『ウィッチクラフトワークス』OPテーマ)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
04.いつかの、いくつかのきみとのせかい(TVアニメ『僕らはみんな河合荘』OPテーマ)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
05.星屑のインターリュード(TVアニメ『天体のメソッド』ED主題歌)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
06.ワンダーステラ(TVアニメ『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ ヘルツ!』OP主題歌
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
07.コメットルシファー ~The Seed and the Sower~(TVアニメ『コメット・ルシファー』OP主題歌)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
08.虹を編めたら(TVアニメ『ハルチカ〜ハルタとチカは青春する〜』OP主題歌)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
09.calling(TVアニメ『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』ED主題歌)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
10.青空のラプソディ(TVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』OP主題歌)
(作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
11.ムーンリバー(TVアニメ『有頂天家族2』ED主題歌)
(作詞:林 英樹 作曲:yuxuki waga 編曲:fhána)
12.Hello!My World!!(TVアニメ『ナイツ&マジック』OP主題歌)
(作詞:林英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána、A-bee)
13.わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~(TVアニメ『メルヘン・メドヘン』OP主題歌)
(作詞:林英樹・佐藤純一 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
14.STORIES ※書き下ろし新曲
(作詞:towana 作曲:佐藤純一 編曲:fhána)
計14曲収録

・Disc2:LIVE BEST<CD/初回限定盤のみ>
1. 星屑のインターリュード(fhána What a Wonderful World Line Tour 2016より)
2. Relief(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
3. What a Wonderful World Line(fhána What a Wonderful World Line Tour 2016より)
4. lyrical sentence(fhána 1st Live Tour「Outside of Melancholy Show 2015」より)
5. little secret magic(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
6. 青空のラプソディ(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
7. 街は奏でる(fhána 1st Live Tour 「Outside of Melancholy Show 2015」より)
8. 光舞う冬の日に(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
9. kotonoha breakdown(深窓音楽演奏会 其ノ壱より)
10. Cipher(fhána What a Wonderful World Line Tour 2016より)
11. The Color to Gray World(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
12. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~(fhána Looking for the World Atlas Tour 2017より)
13. white light(fhána 1st Live Tour「Outside of Melancholy Show 2015」より)

・Disc3:LIVE Blu-ray<Blu-ray/初回限定盤のみ>
fhána World Atlas Tour 2018 at Zepp DiverCity(TOKYO)
【LIVE Blu-ray収録曲】
kotonoha breakdown(Piano and Vocal Ver.)
わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~
star chart
Rebuilt world
ムーンリバー
Hello!My World!!
snow scene
ユーレカ
reaching for the cities
アネモネの花
現在地
Do you realize?
光舞う冬の日に
World Atlas
青空のラプソディ
星屑のインターリュード
Relief
calling

ーENCORE
white light
虹を編めたら
It’s a Popular Song

ーW.ENCORE
今夜はブギー・バック(Cover)
Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~

■ライブ情報
fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE
【日時】
2019年1月27日(日) 開場 17:00/開演 18:00
中野サンプラザホール
【チケット料金】
全席指定 7,800円(税込)
※3歳以上有料

公式サイト
公式Twitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる