『fhána World Atlas Tour 2018』
fhánaの描く世界地図は、まだまだ広がり続ける 『World Atlas Tour』最終公演を観て
「ここが僕たちの旅の終着駅です。けれども、何かの終わりは同時に何かの始まりでもある。そんな瞬間をこの場でみんなと一緒に迎えたいと思います」(佐藤純一「World Atlas」前MCより)
fhánaが6月24日に行った『fhána World Atlas Tour 2018』のファイナル公演は、彼らの持つ“地図”がさらに遠くの世界を目指し始めたことを予感させる、楽しさと非日常感、そして次へのワクワクに満ちたライブだった。
同ツアーは最新アルバム『World Atlas』を携えてのものだが、fhánaにとって同作は2ndアルバムをリリースした後の旅を経て、「外に出て誰かに出会って、たとえ分かり合えないままだとしても、うまくやっていこうよ」という“箱庭”ではない“ほんとうの世界”で気軽に旅に出ることを促すための“世界地図”だった(参考:fhána 佐藤純一×UNISON SQUARE GARDEN 田淵智也が考える、バンドが“作品とライブで表現すべきこと”)。そして、それは同時に3人のコンポーザーと1人のシンガーによるバンドとしての総合力がこれまで以上に広がった快作で、この日の最終公演では、その世界観をより深く味わうことのできる時間が用意されていた。
佐藤の原曲とは違ったネオソウル風の鍵盤にあわせ、towanaがゆっくり声を立ち上げて歌い上げるのは、fhánaの“はじまりの曲”である「kotonoha breakdown」。そこからキャッチーでアッパーなソフトロック調の「わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~」、yuxuki wagaが最新アルバムに書き下ろした、素朴だけど鮮やかな音使いが絶妙な「star chart」を経て、“再生の物語”をテーマにした「Rebuilt world」から、同曲を収録したシングルの表題曲「ムーンリバー」へ。続けてA-beeを編曲に起用するという冒険をした「Hello! My World!!」から、towanaのボーカルにエフェクトが掛かり、デジタルクワイアのような響きをもたらした「snow scene」へと、丁寧に物語が紡がれていく。
この構成や曲調は、どれも終盤に持ってきてもおかしくない展開だが、あえて序盤に配置したのは、ただ盛り上げて始まるのではなく、繊細な彼らの楽曲の世界観により没頭させるための仕掛けだったように思える。佐藤は先述の対談で、ライブを「完全にこちらが意図して作り出した完全なる非日常の時間と空間」とし、そこにより深く入り込んでもらうことで、記憶から消えない体験を残したいと話していた。それが狙いだとするならば、筆者含め、観客は完全にその術中にハマっていた。