『13分間の悪夢』インタビュー
佐々木亮介&アオキテツが語る、a flood of circleの今「ロマンチストで居続けたい」
a flood of circleが、11月7日にニューシングル『13分間の悪夢』をリリースする。同作には、「ミッドナイト・クローラー」でタッグを組んだUNISON SQUARE GARDEN 田淵智也がプロデュースを手がける全3曲とボーナストラックを収録。
リアルサウンドでは、先日2作目となるソロアルバム『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』をリリースした佐々木亮介(Vo/Gt)と今作が正式メンバーとなって初めてのレコーディングとなったアオキテツ(Gt)にインタビュー。アオキが加入したことによる変化や田淵との関係性、ロックバンドでしかできないことなどについてじっくりと語ってもらった。(編集部)
アオキテツ「バンドって、ガキでも誰でも勘違いさせてくれる」
ーーなんだか不穏なタイトル(『13分間の悪夢』)が掲げられたシングルなんですが。
佐々木亮介(以下、佐々木):はははははは。確かに「悪夢」だもんね。
ーーなんだなんだと思って聴いたんですが、特に「夏の砂漠」を象徴に、ポップなメロディと青春感の強い楽曲が印象的な作品で。歌の内容と突き抜け感からも、正式に4人体制になってのキックオフソングとして明確な意志を感じたんですが、二人としては、どういう作品ができたという実感がありますか。
佐々木:テツ(アオキテツ)が正式加入するっていうことを前作(『a flood of circle』)が出るタイミングで発表したんですけど、前作を作っている段階では、テツ自身はメンバーだと知らされないまま録音させられていたんですよね。だから、テツが正式にメンバーになって初めてのツアーを経て1作目っていう位置付けで作っていったシングルでした。俺自身はソロ作品(『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』)も同時に作ったこともあって、全国ツアー『a flood of circle TOUR -Here Is My Freedom-』を経験したことで、改めてバンドにはバンドのよさがあるっていうことを実感しました。
ーー個人的な表現のチャンネルを持ったからこそ、バンドでしかできないサウンドをさらに面白がれるようになったということでしょうか?
佐々木:そうですね。だからこそ、ロックバンドじゃなくちゃできないことを入れようと思った作品が今回のシングルです。テツが正式加入したこともあって、今のバンドのグルーヴをちゃんと表現したいと思ったし、それを引き出してくれる人として、田淵(智也)さん(UNISON SQUARE GARDEN)を全曲のプロデュースに迎えて一緒に作りたいと思いました。
ーー前作『a flood of circle』を振り返ると、あのアルバムには二軸あったと思っていて。トラップ以降のビートと歌の在り方をロックバンドとして消化していった曲。それともうひとつは田淵さんがプロデュースされた「ミッドナイト・クローラー」のように、アニメソングにも通ずる日本的な音楽を追求していった曲。日本のロックバンドにしかできないことを追求する気持ち、メインストリームの音楽に打ち勝つためにどういうアップデートが必要なのかという模索。その両方は佐々木さんが初期から持っていたものだと思うし、ある種、そのバランスが前作で一旦極まったと思うんです。その上で改めてロックバンドならではのものを追求したいと思ったのは、自身にとってどういう変化があったのでしょうか。
佐々木:前回のツアーでロックバンドとしてのよさを改めて考えた時に、やっぱり生のグルーヴを入れていきたいと思って。でも海外のチャートの曲やトレンドの曲を日頃から聴いていると、もうグリッドに沿ったビートしかないじゃないですか。ロックバンドとは言ってもドラムを叩いてなかったり、海外ではもうすでに生のグルーヴではないビートになっていたりする。じゃあ日本のロックバンドはと考えるとーー今年『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に出た時に、バンドがあれだけ多いのに、俺らが出演した日にバンドとしての生のグルーヴを感じられたのはthe band apartとlocofrankくらいしかいなかったんですよ。そういうことも含めて、やっぱりロックバンドのグルーヴが伝わりにくい時代なんだろうなってことも痛感して。それについては曽我部恵一さんが秀逸なたとえをしてたんですけど、「みんなはベーコンを食べるのを楽しみにしてるから、floodみたいなバンドが来ると生の豚が来ちゃったと思うんだよ」と(笑)。
ーーすごいたとえ(笑)。加工食品ではない、ロック本来の生々しいサウンドとグルーヴがむしろ受け入れられないと。
佐々木:そう、加工されていないものをどう食べたらいいかわからないっていう。俺もまさにその通りだと思うんだけど。ただ、そういう時代だからこそ自分はソロの作品でグリッドに合わせたビートだったり、トラップ以降の音楽を消化してみたところもあって。
ーーバンドサウンドとは真逆の、トラップ以降のビートと歌を探求するような作品でしたよね。趣向の幅広い音楽探求家としての佐々木さん個人を表現したことでむしろ、バンドのグルーヴの面白さが浮き上がってきたということですか。
佐々木:実際に海外の音楽もずっと聴いているし、HIPHOPやR&Bっていう今のトレンドをどうバンドとして解釈するのかもずっと考えてきたけど、それよりも、バンド特有の生のグルーヴ自体をさらに面白く感じられるようになるんじゃないかっていう期待を込めてソロ作品を作ったところもあったんですよ。俺の音楽の趣味が散らかってるからこそバンドだけだと窮屈になっていくし、逆にソロで好き放題に作ってみると、バンドでしかできないことが見えてくる。たとえば面白いなあと思うのは、ロックバンドが手出しをできないくらいのところまでHIPHOPがポップカルチャーの真ん中に行ったにもかかわらず、XXXTentacionみたいにNirvanaを取り入れたり、バンドサウンドに対してラップでアプローチしていたり。むしろ彼らからしたら生のグルーヴが羨ましいのかな? って思うこともあるんですよ。それを見ていても、やっぱりバンドは何かをはみ出していくところがいいんだって思えて。その本質的なものを表現するにはもうクリックを聴きながら録音してちゃダメだなって。もっとグルーヴを大きく捉えて、ポストプロダクションをしっかりしていくことが必要だと思ったんですよ。来年の春にリリース予定のアルバムを今作ってるんですけど、そこではクリックも何も聴いていないのにカニエ・ウェストばりにコーラスを入れまくってるし(笑)。だけどそれは、現行のポップシーンとロックバンドのよさ、両方を知っている人でなければできないことだと思うんですね。
ーーまさに。
佐々木:そうなると、バンドとしてのグルーヴを面白くしていくためには、俺がメンバー個々のアイデアを活かすことがより一層大事になっていくと思ったんです。ナベちゃん(渡邊一丘/Dr)やテツもいろんな音楽を聴いているけど、やっぱり表現者としては生のグルーヴとサウンドを大事にして、バンドを信じている人たちだと改めて思って。特にギターで言えば、テツのキャラクター自体が自由にやることを求めている気がしたんですよ。
ーーテツさん自身は、正式にメンバーになってから初めての録音で心持ちが変わったとか、バンドに対するアプローチを考えたとか、そういうところはあったんですか。
アオキテツ(以下、アオキ):いや、自分としてはそこまでの変化はなかったと思います。自分は意識的に新しいことをやって表現するタイプではないと思うんですよ。それはa flood of circleに対しても同じ気持ちで。……たとえば自分は、パンクバンドやロックバンドで2番目にカッコいいヤツが好きなんです。
佐々木:戦隊ヒーローで言うアオレンジャー?
アオキ:そんな感じ(笑)。俺が一番になったんで! っていう気持ちはそこまでない。だから今までたくさんの人がa flood of circleのギタリストを務めてきた中で、俺だけが全然違うことをしてやるっていう気持ちでもなくて。ただただ自分はa flood of circleのギタリストとしてカッコいいものを目指したいんですよ。
佐々木:これまでにたくさんのギタリストがいたけど、テツはどの時期のギターもテツの色で弾けるんですよ。だから塗り替えるというよりも、その曲を自分としてカッコいい形で弾きたいっていうことだと俺は解釈したんだけど。テツが言ってくれた「a flood of circleを塗り替えるよりも、a flood of circleのギタリストとして爆発したい」っていう気持ちに俺もすごく勇気づけられるし、やっぱりこのバンドをロックバンドとして輝かせるバンドマンとしての精神性は、俺じゃなくてテツやナベちゃんが持ってると思うんです。バンドでしか生み出せないものに夢を見続けているっていうか。そういうテツがギターを弾いてくれたから、もう一度夢を見られたんですよね。
アオキ:ハードル高いなぁ……(笑)。でもバンドマンでいたいっていうのは、ほんまにそうで。バンドって、ガキでも誰でも勘違いさせてくれるじゃないですか。たとえば電車に乗ってる時に、サラリーマンのイヤホンからシャカシャカ音漏れしてて、見たら、手元で思わずギターを弾く真似しちゃってるんですよ。そうやって、俺でもできると思わせてくれるパワーがあるからロックバンドがいいんです。ロックバンドなら、「特に何もないです!」って言いながらコードを弾けば音楽になるじゃないですか。それがいいんですよ。
佐々木:俺は、とてもじゃないけどそんなこと言えない人間だから。バンドマンとしてのピュアさっていうのはずっと憧れに近いものだと思うんですよね。こういうテツがいないと出せない青春感、テツがいないと生まれない完全なバンド感っていうのがやっぱりあるんですよ。