『アウトレイジ』『若おかみは小学生!』……鈴木慶一が手がける映画音楽の魅力

 鈴木の音響的なこだわりを感じさせる初期の作品に『うずまき』(2000年)がある。ずっと、大好きなホラー映画のサントラを手掛けたいと思っていた鈴木は、ムーンライダーズの仲間のかしぶち哲郎と『うずまき』を手掛けた。物語のモチーフになる渦をサウンドで表現するため、メロディを渦を巻くようにループさせ、その背後にノイズを入れたアンビエントな音作りで不穏なムードを醸し出している。こうした、ドラマティックなメロディーやリズムを抑えた抽象的ともいえる音作りは、初めて組んだ北野武監督作品『座頭市』(2003年)で、さらに追求されていくことになる。

 『座頭市』までの北野作品のサントラは、生楽器を使ったクラシカルなものが多かった。それに対して、鈴木は対照的にエレクトロニックなアプローチをとる。最後にタップダンスのシーンがあることも踏まえて、リズムに気を配りながら硬質なビートとシンセを使い、時代劇に人工的でモダンなサウンドをあてた。その際、金属的なサウンドがチャンバラの刀の音とぶつかることから、ぎりぎりまで音を削ぎ落した結果、ミニマルで空間性を意識させるユニークなサウンドが生み出されることになった。サントラは日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞。鈴木は映画音楽の作曲家として注目を集めることになる。

 そして、そうした抽象的な音作りを、さらに突き詰めたのが『アウトレイジ』シリーズだ。サントラの核になるのは、印象的なメロディでもスリリングなリズムでもなく、電子音やノイズを散りばめた音響空間。鈴木はインダストリアルロックやエレクトロニカなどの手法を取り入れてた無機質なサウンドで、『アウトレイジ』の荒涼とした世界を表現して、『アウトレイジ 最終章』(2017年)のサントラで再び日本アカデミー賞を受賞した。物語を盛り上げるようなサントラではなく、主人公の心象風景を浮かび上がらせるような、シーンに細やかなニュアンスを与えるサントラ。そうした音作りは、鈴木のお気に入りの『イレイザーヘッド』のサントラや、トレント・レズナー(Nine Inch Nails)が手掛けたサントラに通じるものがあり、北野武と鈴木慶一のコラボレートは、デヴィッド・フィンチャーとトレント・レズナーを思わせる。

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