宇多田ヒカル、cero、tofubeats……2018年のJ-POPにおける“ポリリズム”の浸透

 他にも2例ほど紹介しよう。あらゆるジャンルを折衷したサイケデリックなサウンドを持ち味にする京都のバンド・本日休演が今年発表した『アイラブユー』の表題曲は、ceroの例と同様に、3拍子と4拍子どちらにも解釈できる。

【MV】アイラブユー / 本日休演

 似た構造の楽曲は前作にも見られ、今作では「ラブエスケープ(feat. OMSB)」でヒップホップ的なヨレも披露していることから、こうしたリズムへの挑戦はある程度意識的なものだと考えられる。

 また、注目の若手SSW・折坂悠太も、『平成』収録の「みーちゃん」でポリリズムを効果的に取り入れている。ベースと手拍子の上で折坂の独唱が繰り広げられるパートでは少し訛った4拍子が感じられ、バンドのアンサンブルが一気になだれ込むと注意が3拍子へと差し向けられる。このメリハリが、「みーちゃん」が描く情景に独特の濃淡を与えている。

 これらの例は、J-POPの新しい展開を予感させる。難解、敷居が高いと思われていたポリリズムがポップスに浸透することで、コード進行やメロディだけではなくリズムやグルーヴもまた、楽曲が伝える物語や感情を演出する重要な役割を担いうる――tofubeatsや折坂悠太はその顕著な例だろう。ポップスにおけるリズムの拡張はいっときの流行にとどまらず、新たな語法として定着するはずだ。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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