オールドスクール、EDM、ジャズ……韓国ヒップホップの多様性を感じる新作6選
意外に思われるかもしれないが、韓国で最もホットな音楽ジャンルはヒップホップだ。もちろんいわゆるK-POPらしいポップスやEDMの人気も健在だが、それ以上にラップ・ミュージックの進化と発展は著しい。中高生が最も憧れる職業のひとつとしてラッパーが挙げられているのだから、その人気は相当なものだ。韓国のヒップホップは、日本やアメリカのそれと比べると音楽性やファッションなどにあまり縛りがないため、各アーティストがトレンドにとらわれず自分の個性を大いに発揮する傾向がある。今回は最近リリースされた中でも特に各自の個性や強みが生かされたトラックをセレクトしてみた。それぞれの異なるサウンドや映像の見せ方などを通して、韓国ヒップホップシーンの多様性を感じていただきたい。
HAON「NOAH (Feat. Jay Park, Hoody)」
まずは2000年生まれのラッパーHAON(ハオン)のトラック「NOAH」から。瞑想や太極拳が趣味だという彼は、今年放送された高校生専門のラップバトル番組『高等ラッパー2』で見事優勝を果たした実力派だ。独特なキャラや世界観を持っているだけでなく、哲学的なリリック、発音や息継ぎなどの基礎がしっかりと身に付いたラップなど、スキルの面でも同世代のラッパーの中で頭ひとつ抜き出ている。この「NOAH」という曲名は、自身の名前「HAON」を逆から読んだもの(ちなみに本名がキム・ハオン)。内面と向き合うというシリアスなテーマを、軽快なラテンのリズムとギターサウンドに乗せて大衆にアピールする力量が素晴らしい。所属レーベルのCEOであるJay Parkがフィーチャリングしている点も要注目だ。
Samuel Seo「Happy Avocado」
2015年のデビュー以降、音楽評論家から圧倒的な支持を得ているSamuel Seo(サミュエル・セオ)。その高い作曲能力はアワードの常連になるほどだ。初めて本格的なジャズに挑戦したバンドセットのアルバム『UNITY』に収録されている「Happy Avocado」は、これまで多くの評論家が言い表してきた“天才ミュージシャン”の名にふさわしい芸術的な作品だ。アルバム制作のたびに数百曲を作ってから数曲にまで絞っていくというストイックな彼は、今回も臨場感溢れる生バンドの演奏、加工を極力抑えたサウンドメイキング、世界的なエンジニアの起用などこだわりポイントを多く設けている。大好物のアボカドを楽しそうに料理する様子が映されたミュージックビデオでは、天才肌でミステリアスな彼のイメージの裏に潜むチャーミングな一面を覗くことができる。
Reddy x Year of the OX「Knock Knock」
韓国ヒップホップの代表格レーベル<Hi-Lite Records>に所属するReddy(レディ)、そして韓国系アメリカ人のラップデュオ・Year of the OXによるコラボトラック「Knock Knock」は、往年のヒップホップファンであれば思わずニヤけてしまうようなオールドスクールサウンドだ。古典的なブームバップで、イントロを聴いただけでも90年代にタイムスリップさせてくれる。Reddyは今年8月にSKY-HIのトラック「I Think, I Sing, I Say」にフィーチャリングし、日本でもジワジワと知名度を上げているところだ。Year of the OXは知名度こそ劣るものの、その実力の高さはなんとWu-Tang ClanやEMINEMのマネージャーのお墨付き。ドアスコープ越しに映し出される描写が粋なミュージックビデオには、7人もの韓国人ラッパーがカメオ出演している。
GIRIBOY「Used (Feat. Kid Milli)」
常に実験的なサウンドにチャレンジし、毎回新しい姿を見せるGIRIBOY(ギリボーイ)。ラッパーとしてだけでなくプロデューサーとしても才能に恵まれた彼は、韓国ヒップホップシーン屈指の多作家としても知られる。ポップなトラックから攻撃的なヒップホップまで守備範囲が広く、どんなスタイルをやっても大衆性と芸術性を両立できる器用なアーティストだ。最近はこの「Used」のように朦朧としたサウンドがお気に入りのよう。一見単調なEDMのように聴こえるが、様々な電子音があちこちに散りばめられ、リズムも次々に変化していく。フィーチャリングしているKid Milli(キッド・ミリ)は、若手No.1の注目株だ。先鋭的でルックスも優れたこの2人によるラップは、淡々としながらもスキルフルで聴きごたえ抜群。